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Knife Sheath  作者: [LEC1EN]
強襲
43/84

43.Gathering

 ドルネクロネの島々を繋いでいたメガフロートは、これ以上の被害を防ぐべく、ドルネクロネ政府の判断により現海域から移動させられることが決定した。数多の難民を乗せた方舟の行く先は、戦火の及ばぬ南側の領海だ。

 国土の一部をこの人工の大地で賄っているからこそできる芸当だが、同時にドルネクロネの都市機能は本来の形を喪失することになる。つまり、国内の輸送網の半分を失い、円滑な物資供給能力を損なわれたことになる。

 幸い、同盟軍の兵站は空輸によって行われるため、戦闘にこそ影響は無い。しかし戦場から離れた民間人には、これ以上ない負担となった。

 人は一人では生きていけない。そのことを、ドルネクロネ国民たちはこの紛争を通じ、強く認識させられた。


「敵部隊視認。クドラク二機、ヘルム六機の二個小隊」


 コクピットの中でスコープ越しに敵の動向を観察しつつ、レンフィールド・シュルツはその様子を逐一部隊に報告していた。

 ドルネクロネ中央(セントラル)クレーターと向かい合うハンドリンク島の沿岸部に、敵部隊が集結しているとの情報をつかみ、アイビス小隊はこれの偵察任務を請け負うことになった。

 中央クレーター側の山間に潜伏し、対岸に現れる敵部隊の動きを観察する、簡単だが極めて退屈な任務。しかし、こういった地道な積み重ねが、作戦成功の是非に直結するのだ。


「隊長、今のでどれくらい通過しましたかね」

『だいたい、三個中隊くらいね。各地から戦力をかき集めているとなれば、ハンドリンクを橋頭堡にセントムに攻め込む可能性が高いかも』

「なるほどなるほど。ドルネン政府がメガフロートを退避させたのも、その侵攻を遅らせるためだった、と」


 チョコバーを頬張りつつ、レンはこれまでの展開を振り返る。ハンドリンクと中央クレーターは元々メガフロートで接続されていたが、先の決定により、メガフロートは難民シェルターとして戦闘区域から退去していた。


「でも、あいつらどうやって海を渡る気でしょう。まさか全員ヴォジャノイに乗り換えるとかそんなんじゃないですよね?」

『それなら機体の数を揃えるために相応の動きがあるでしょう。あるいは、何かしらの切り札が向こうにあると見るべきかしら……』


 切り札。そう聞くと、あの巨大兵器の存在が嫌でも頭に浮かぶ。今のところ、集結部隊にその存在が確認されていないのは幸いだが、あれを首都で暴れさせることだけは、何としても阻止しなければならないとレンは強く思う。


「そう言えば、まだあのデカブツの姿がありませんね」

『機体の修理に時間を要しているのね。あのサイズは確かに驚異だけど、同時に欠点も抱えているのよ』

「なるほど、一長一短ってヤツか」


 二人が会話を弾ませている内に、海峡の向こうに新たな敵部隊が現れる。

 レンはこれまでと同じく敵部隊の数を記録し、報告を行った。


 三日後、アイビス小隊は偵察任務を終え、ワイバーンに帰還した。

 シオンたちの得た情報から、敵軍はおよそ一個大隊ぶんの戦力を採掘プラントに集結させていることが判明。当然、同盟軍はこれを制圧するための作戦行動に出ることになるが、シオンは今の状況に違和感を感じていた。

 敵の集結する採掘プラントは主要道路からも離れた山岳部に位置し、十年前に閉鎖されて以降は地元住民も寄り付かなくなった陸の孤島だ。周囲を切り立った崖に囲まれており、敵からの攻撃を一方向に集約できる反面、逃げ場がない。

 資源採掘が望めず、籠城以外に使い道のないプラントに戦力を集めているのは、プラントにこちらの部隊を誘い込み一網打尽にするための罠ではないかとシオンは考えていた。


「やっぱり罠でしょ、これ」

「とはいえ、罠にしては釣り針が大きすぎんだよな。向こうは全軍の三分の一も動かしてあんな所に何しようってんだか」


 シオンの主張に、レイフォードはそう言って返す。

 軍事行動というのは、それに伴って大なり小なり物資を消費する。それは燃料は元より弾薬、食料、水に至るまで様々だ。そして、一個大隊も動かすとなれば、それに割かれるリソースも膨大なものになるはずだ。

 何より、正統ドルネクロネ軍はその社会的立場もあってリソースの上限も限られている。

 それを承知の上で大軍を動かすということは、ただの罠ではなく何らかの目的があっての行動と考えるのが自然だろう、とレイフォードは説明を続けつつ窓の外を見やる。

 セントム郊外の軍事基地には、同盟軍の増援部隊が次々と到着しつつあった。


「そして私たちはここで待機、か」

「ま、たまの休暇だと思えば悪くはない」


 既に戦勝ムードでいるレイフォードだが、シオンはまだ胸騒ぎを払拭できない。

 何かある。

 確証はないが、ヴィランの行動は常識では推し量れないのを、彼女は散々目にしてきた。だからこそ、甘い誘惑にはより一層の注意を払うべきだと、彼女の無意識は告げているのだ。

 基地に集結した部隊が、次々と出撃し、ハンドリンク島の採掘プラントへ向かっていく。


「何事もなく終わればいいけど……」


 そう言って、シオンは曇天の空を見上げた。


 同盟軍部隊の出撃から三時間。敵部隊の潜伏するプラントの周辺は完全に包囲され、攻撃体制も着々も整えられていた。

 空中司令室として上空にはキーヴル級二隻が常駐し、唯一の陸路である正面道路もバリケードによって猫一匹通さない鉄壁の布陣が敷かれた。

 包囲網が完成すると、キーヴル級から出撃した爆撃機が、施設への爆撃を開始する。

 二機の爆撃機による三度の攻撃の後、地上部隊が正面からプラントに向けて進軍。敵もそれに合わせて崖の上に敷設した砲台で同盟軍部隊の進軍を阻む。

 砲台を排除しつつ前衛部隊が施設に近づくと、今度は対強襲機動骨格(AAF)地雷の敷設された地雷原が待ち構える。これは、一定重量の物体が上を通過すると爆発し、大量のベアリングを撒き散らす所謂クレイモア地雷の一種だ。その名の通り、強襲機動骨格(アサルト・フレーム)に対して威力を発揮する地雷であり、ベアリングを使用しているのも単純な装甲の破壊以外に関節部に潜り込ませることでその稼働を阻害する目的があった。

 地雷の感知自体は容易なため、主に行軍の足止めを狙って敷設させる装備ではあるが、運悪く踏みつければ一発で行動不能になる恐怖がある。そこに高射砲からの攻撃も加わり、地雷原の突破も容易ではなくなる。

 しかし、進軍するのは人型兵器たる強襲機動骨格(アサルト・フレーム)だ。爆撃機の空爆によって地雷原ごと地雷を吹き飛ばし、その後を踏破するとプラント内部へと攻め入った。

 施設の敷地に入ると、ドローンと砲台による手厚い歓迎が待ち構えていた。

 同盟軍部隊はすぐにその迎撃に反撃。激しい銃撃戦が繰り広げられるが、そこには敵強襲機動骨格(アサルト・フレーム)どころか、歩兵の姿すらない。明らかに何らかの意図があって前に出していないのが見え透いている。

 ならば、人員も兵器も果たして何処へ消えたのか。

 部隊の指揮官がそこに思考を至らせた途端、背筋に薄ら寒いものを感じ、すぐに施設に突入した部隊に後退を命じる。

 だが、判断が一足遅かった。施設の支柱に埋め込まれた爆薬が炸裂。採掘施設は大量の粉塵を伴いながら、突入部隊諸共に崩壊した。

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