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Knife Sheath  作者: [LEC1EN]
開戦
40/84

40.Rusałka

「ハハハ!凄えなあのオッサン」


 スーター島での戦闘結果を聞き、フール・クラクションは諸手を挙げて興奮していた。新機軸の巨大兵器が生み出した戦果は勿論のことだが、あれをヴィランを救出した際に付いてきた男が操っているということに、彼は強い興味を抱いている。


「あの毛むくじゃらが、あんな凄腕の指揮官だったとは知らなかったぜ」

「ローランド・デリス元少佐。かつて憤怒のデリスと呼ばれレクスン大佐の片腕としてクーデターを支えた影の立役者ですよ」


 格納庫のタラップに陣取る二人の目の前には、任務を終え帰還した巨大兵器の姿。アイアンクローを備えた両腕に、血のように赤黒い装甲。そして数々の武装を内蔵し長大化した頭部ユニットが、その機体の異常さを物語っている。

 これこそ、ヴィランが巨額を投じ、慣性制御技術によって実現した戦略兵器「ルサウカ」だ。

 この機体に下半身という物はなく、機体後部に接続された大型の複合推進ユニットが、機動力を生み出している。そもそも強襲機動骨格(アサルト・フレーム)の三倍の容積を誇る機体に歩行脚を取り付けるのは非効率だという理由でこのような形態になったのだが、腕部を前面に展開したその姿は、どこか甲殻類を彷彿とさせた。

 機体の胸部からタラップが降ろされ、中からパイロット三名が姿を表す。その内、少佐の軍服に袖を通す壮年の男にヴィランは駆け寄り、彼に労いの言葉を投げかけた。


「お疲れ様でした、デリス少佐。如何でしたか、ルサウカの性能は」


 デリスはヴィランの顔を見て、彫りの深い顔の眉間に皺を寄せながら口を開いた。


「大型なぶん、小回りが効かない部分が多い。今回は陽動によって橋を破壊したから良いものの、出来うることなら、護衛を三機、付けてもらいたい」

「わかりました。ではヴォジャノイを手配しましょう。それと武装ユニットも、ドローン搭載型の物があるので今度活用してみて下さい」

「助かる」


 デリスはヴィランに頭を下げるが、ヴィランは「いいえ、万全の状態であなたの目的を果たして下さい」と笑みを浮かべ、デリスの手を取った。


「ああ、四年も積み重ねた雌伏の時、無駄にはしない」


 その言葉とともに立ち上がると、デリスはメカニックらに機体の調整を命じ、部下を伴ってその場を後にした。


「まるで狂信者の集団だな」

「そうですとも、この正統ドルネクロネは様々な思惑の下に”狂った”人間が集っています」


 格納庫を後にするデリスの背中を眺めながら、ヴィランとフールは会話を続ける。


傷の部隊(おれら)も狂ってるってのか?」

「ええ、あなた達のような戦闘狂はそうそうお目にかかれませんからね。私は狂った人間を集めて、その狂気が爆発する様を見てみたいと思っているのですよ」


 この状況を作り出したヴィランという男も、だいぶイカれている。フールは目の前の男の笑みを覗き込みながら、この危険な隣人に微かな危機感を抱いた。


 敵性巨大兵器出現の報は、すぐにワイバーンにも報せられた。

 得られたデータは少なく、どのような意図を以って開発されたのか、どのような武器を有するのか、遭遇時の対処法も理解らぬままだ。


「それでこのデカブツを捜索し、その情報を持ち帰る任務が、私たちに下されたわ」


 モニターに表示された敵巨大兵器の画像に手を当て、シルヴィアが叫ぶ。

 レイフォードは「危険手当は上乗せして欲しいっすね」と任務に乗り気だが、シオンはそうは見えない。


「どったのシオン、そんな考え込んで」


 心配するレンの言葉をよそに、シオンは巨大兵器のデータを何度も読み返し、自分の頭の中に過った違和感を精査する。そしてそれが何なのかを理解すると、視線を前に向け、口を開いた。


「この機体、たぶんですけど慣性制御装置(エリミネーター)を積んでます」

「マジかよ」


 シオンの言葉に、レイフォードも思わずあんぐりと口を開く。だが、あの巨体に搭載されているであろうスヴァローグ・ドライヴの出力を考慮すれば、不思議なことではない。それに、あの巨体を支え、成立させるためにも慣性制御フィールドの存在は必要不可欠なはずだ。


「海辺から現れる際の映像。よく見ると海水が機体から離れているし、フィールドが水を弾いているのかもと思って」

「水中でかかる水の抵抗や水圧をフィールドで肩代わりしている、ってことじゃないの?」


 いつか話したクォーツの技術を流用した兵器の存在が、こうも早く明らかになろうとは。しかし水陸両用という以外、この兵器がどのような戦闘力を秘めているかについては、実際に戦って確かめる他なかった。


『敵、大型兵器確認。総員第一種戦闘配置。パイロットは搭乗機にて待機せよ』

「噂をすれば、か」

「さあみんな。仕事の時間よ」


 警報が鳴り響く中、シルヴィアの号令とともにアイビス小隊の四人は待機室を後にした。


 ハンドリンク島周辺を航行中だったワイバーンの往く手に、例の巨大兵器が現れた。敵兵器は揚陸部隊とともに島に接するメガフロートへ上陸し、破壊活動を行っている。巨大兵器の周囲には護衛と思われるヴォジャノイが三機展開しており、フォーメーションを組んで市街を闊歩していた。


『敵部隊はあの巨大兵器を中心に、メガフロートの行政区に向かって進行中だ。防衛部隊と共同でアレを食い止めろ』


 ワカナ艦長からの通信を受け、アイビス小隊はワイバーンから市街地へ降下する。

 ワイバーンからのミサイル攻撃が敵巨大兵器への目くらましとして放たれた。その尽くは敵兵器のCIWSによって迎撃されるが、その隙にシオンたちは艦から離脱。敵部隊からの対空攻撃に晒されながらも、シオンは地上へ着地(タッチダウン)。レンがその後ろに続くものの、シルヴィア、レイフォードとは分断される形になった。


「隊長、そっちの方は?」

『こっちはレイフォードと一緒よ。二手に別れて、別方向から敵巨大兵器にアタックを敢行しましょう』

「了解」


 通信を終え、シオンとレンはシルヴィアから指定されたポイントに向けて移動を開始する。幸い、分断されても前衛・後衛のポジションで悩むことは無かったため、移動に支障は来さなかった。

 市街地に人影はないが、強襲機動骨格(アサルト・フレーム)以外にも武装ドローンが多数展開しており、シオンはそれらを排除しつつ巨大兵器の影を追った。


『また、あの時のこと思い出した?』


 レンからの通信。彼女はシオンが第十三メガフロートの惨劇を思い浮かべたのを、ズバリと指摘してきた。

 シオンはレンフィールド・シュルツという人間を本物の「天才」だと認識している。戦闘能力や操縦センスの話だけではない。人の思っていることを言い当てる洞察力と観察眼。どこをどうすればそんなセンスを培えるのか、と同僚になってから関心が尽きない。

 だが、同時にそれが怖くもあった。彼女にとって「それ」が自然体なのだろうが、時折自分の考えを読まれ、暴かれるのではないかという不安に襲われる。

 何よりシオンは自身を「凡庸な存在」として捉えていたからこそ、そういった特異な人間のことを人一倍意識する傾向が強かった。


『安心して。あの時何もできなかったのは、僕も一緒だから』


 ただ、彼女の優しさと強さは、本物だ。だからこそ、こうやって励ましても貰っているし、死角を的確に援護(カバー)して貰えてすらいた。


「ありがとう」


 シオンはレンの言葉と援護に感謝した。

 そうだ、今はあの時のことを悔やんでも仕方がない。今できることをする。そうやって、あの時と同じ過ちを侵さないように努力する。

 そう思考を整理すると、シオンは銃を構えなおした。

○ルサウカ

 プロフェッサーが、慣性制御技術の粋を集めて建造した巨大兵器。

 一般的な強襲機動骨格の三倍の容積を誇り、その巨体故に慣性制御装置で自重を軽減しなければ構造体として成立することは難しい。

 慣性制御装置の調整に難航しパーツ状態で放置されていたが、同盟軍から入手したクォーツのデータを元に改修を施し、完成させた。

 大きく分けて頭部、胸部、腕部、推進ユニットで構成されており、ミサイルなど武装の大半は頭部に集約されている。腕部はヴォジャノイのそれのスケールアップ版であり、ウォーターカッターも受け継ぐ。

 推進ユニットは機体の展開能力を支える生命線であるが、ユニット自体が大型なため、展開式のCIWSを配して敵の接近を阻んでいる。また、強襲機動骨格よりも高出力なスヴァローグ・ドライヴを搭載している関係からより強力な慣性制御フィールドを発生させ、それを防御に転用することで鉄壁の守りを誇る。

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