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Knife Sheath  作者: [LEC1EN]
開戦
38/84

38.Counter

「な、ん、だ、っ、てぇええええッ?!」


 シオン、シルヴィア、レン、レイフォード、そしてシモンズの乗ったワンボックスは、崖から飛び出し、大空に羽ばたいた。その理解不能な行動に、シモンズは大声で叫ぶ以外のことが出来ないでいた。

 当然ながら、ただのワンボックスカーに空を飛ぶ機能はない。そんなものは大昔の映画や小説の中で描かれた、夢物語の話だ。

 追撃を逃れられないと思ったレンが無理心中を図ったか、とも考えたが、それにしては他の面々の表情は落ち着いている。

 訓練を受けたプロだからか?

 否。そもそも、これが彼女たちが計画していた逃走経路の一つだったからだ。 電波妨害範囲を出た段階で、シルヴィアがピックアップを依頼し、合流地点を決めていたのだ。

 次の瞬間、一行を乗せたワンボックスカーはワイバーンのカタパルトデッキに降り立った。


『危なかったな!』


 カタパルトの縁ギリギリで、グレイのタルボシュⅡが車を受け止めている。


「ごめん、格好つけて勢い出しすぎた」


 レンが一行に謝罪するが、レイフォードとシモンズは目を回してそれどころではない様子だ。

 とは言え、追跡者はまだシオンたちを追いかけることを諦めていないようだった。

 海岸線に沿うように航行するワイバーンを、ヘルム二機と、それに合流したクドラク一機が追撃してくる。


「私が出ます」


 そう言って、シオンは車を降りると格納庫のエレベーターに走る。

 それを追うように、グレイのタルボシュⅡはレンたちの乗るワンボックスを抱え、歩み出した。

 シオンが格納庫に入ると、トウガの手によって既にダンピールⅡが暖機状態にあった。流石の仕事の速さだ、とシオンは彼の仕事を讃えた。


『隊長、やはりあれは同盟のキーヴル級です』


 ヘルムのパイロットが、クドラクに乗る小隊長に、目の前を飛行する航空艦が何者か答えた。同盟軍のキーヴル級が一隻、単独で行動している。しかも、トゥール市から脱走したワンボックスカーを収容した上で、だ。


「そんなことは理解っている。問題は敵がどうしてこんなところにいるのか、だ」

『やはり、先程の車両……スパイの引き上げでは?』


 部下の言葉に、小隊長は『そうだろうな』と短く答える。その上で、部下二人は小隊長にこれにどう対処するかを問うた。


「無論、追撃する。航空艦との戦闘は苦難だが、これは好機だ。ここでアレを拿捕すれば、こちらの戦力に使える」

『一度応援を待つべきでは?』

「その前に逃げられてしまっては元も子もないだろう。さあ、俺に続けよヒヨッコども!」


 そう言って、小隊長は海岸線に沿って移動する敵艦に追い付くべく、クドラクを加速させた。

 かつて某国の士官として名を馳せた自分が、再び若い兵士を率いて戦うことになろうとはと内心で笑みを浮かべる。部下二人は練度に不安の残る民兵上がりだが、人型作業重機(ワーク・ユニット)の操縦ライセンスを持つだけあって、筋は悪くない。育ててやれば、それなりに有能な兵士として仕上がるだろうと、さりげない期待を寄せていた。今のうちに対艦攻撃のイロハを教えておくのも悪くはないだろう。

 が、そのように考えていた矢先に敵艦から一つの影が飛び出した。

 ミサイルにしては速度が遅く、砲弾にしては大きすぎる。それが何なのか、一行はセンサーをフル稼働させて探りを入れる。全長は十メートル前後。手と足と頭が備わった、人型のシルエットをしている。


「敵の強襲機動骨格(アサルト・フレーム)!?」

『隊長、あいつ空飛んでませんか!』


 同盟軍が空を飛ぶ強襲機動骨格(アサルト・フレーム)を繰り出したことに、部下二人は驚嘆の声を上げる。が、小隊長は怯えることなく、迫りくる敵機に対して攻撃するよう命じた。


 敵強襲機動骨格(アサルト・フレーム)が三機、ダンピールⅡのレンジに入ってきた。

 三機ともアサルトライフルを構え、ダンピールⅡに狙いを定めている。とは言え、空を飛ぶ強襲機動骨格(アサルト・フレーム)の存在に相当な動揺を受けているらしく、その狙いが定まっていないようだった。


交戦する(やる)気満々、か……」


 そう言いつつ、シオンは敵弾を回避しつつ高度を落とすと、前衛のクドラクに狙いを付けた。

 マシンガンで相手の動きを制しつつ、落下速度を上乗せした蹴りの一撃。クドラクの頭がダンピールⅡの脚部ブレードによって、見るも無残な形に変形する。

 爪先のブレードは、脚を振るった際のモーメントを上手く攻撃力に転化しているようにシオンは感じた。

 だが、頭を潰したとは言え、まだクドラク自体は無力化されていない。後ろによろけながらも手斧(ハンドアックス)を抜き放ち、ダンピールⅡへと振るう。

 シオンはそれをマシンガンに装着されたナイフで受け止め、鍔迫り合いを演じる。ヘルム二機がクドラクに追いつき、援護射撃を始めようとしたのを見計らい、シオンは機体をその場から離脱させた。

 そして、マシンガンを腰部にマウントすると、ウェポンマウントから二振りのブレードを引き抜いた。

 空中での姿勢制御用スタビレータを兼ねた、カウンターブレイド。

 幅広の剣を盾代わりにして敵の攻撃を弾きつつ、その機動力でヘルムへと肉薄。超硬質カーボンの刃を奮い、ヘルムの胴体部を両断した。

 上下半身を真っ二つにされ、ヘルムの胴体が重力に従って大地に落下する。

 その様子を見たもう一機のヘルムは、戦意を失い後ずさろうとする。だが、背後で再び立ち上がったクドラクのパイロットから『逃げるな』という怒号に反応し、その挙動を止めた。

 次の瞬間、首を失ったクドラクがダンピールⅡの背後に組み付き、動きを封じようとする。シオンはそれをブースターの噴射で阻み、カウンターブレイドを叩きつけると、そのまま敵機を組み伏せた。


「残り一機」


 そう言って、クドラクを組み伏せたままシオンはダンピールⅡにマシンガンを構えさせた。が、及び腰だったヘルムの姿は既に何処かへと消えていた。


『ダンピールⅡ、戦闘状況の終了を確認。これより回収します』


 その言葉にシオンは我に返り、戦闘姿勢を解くと大きく息を吐いた。


「ダンピールⅡ、いい感じに仕上がったようですね」


 ワイバーンに帰還し、機体をハンガーに戻すや否や、トウガがそう言ってコクピットに乗り込んでくる。


「確かに格闘戦能力は強化されているんだけど、カウンターブレイドがどうも、ね。面白い武器だけど使えば使うほど姿勢制御機能は低下しない?」


 格闘用の武器というのは、使えば使うほど武器にもダメージが蓄積されていく。だからこそ定期的なメンテナンスが欠かせないのだが、このカウンターブレイドは姿勢制御用スタビレータとしての機能を担わせている関係から、装備へのダメージがそのまま姿勢制御能力の低下に繋がっていた。

 鞘ではなく抜き身の刃を背負っているのだから、そうなっても仕方がないといえば仕方ないのだが、やはり運用面で不安は残る。


「まあ試作段階の武器ですからね。どっちかに割り切って使うしかないでしょ」


 トウガの言葉に「無責任だね」と応えつつ、シオンはコクピットシートから立ち上がり、トウガを押しのけて機体から降りた。


「じゃあ、次に出撃する時には射撃武装にでも変えておいて」

「シオンさん、前衛でしょ?」

「格闘戦以外にも射撃戦も熟したいの」


 シオンの一言を受け、トウガは早速装備の選定を始める。シオンはそんな彼の姿を尻目に、昇降エレベーターの降下ボタンを押した。

○ダンピールⅡ

 ダンピールのパーツをタルボシュⅡに組み込んだ上で改修を施した機体。

 性能を維持しつつ小型化したブースターと、ウェポンラックを一体化した背部ユニットが装備され、武装選択の自由度が向上した。

 ウェポンラックには姿勢制御用スタビレータ兼用のカウンターブレイドが備わっている。刃の硬度で対象の装甲を切削するタイプの剣ではあるが、攻撃に使うほどにスタビレータとしての機能は損なわれてしまうという欠点も有する。

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