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Knife Sheath  作者: [LEC1EN]
開戦
37/84

37. Infiltration mission

 トゥール市は、ドルネクロネ北端にあるトゥール島を開拓した際に構築された、ドルネクロネ最大の商業都市だ。

 国内有数の港湾施設を備えており、ドルネクロネの地下資源はここから各国に輸出されるため、本来ならば外貨獲得のための重要拠点として賑わいを見せている筈だった。

 しかし、ここでも暴動の波は激しさを増し、暴徒たちは市庁舎を占拠。さらには何処から現れた武装勢力が暴徒たちを言葉巧みに扇動。彼らに武器と戦う術を与え、急速な組織化を促していった。


「ここまでの流れが早すぎる……」


 偵察のために市内を訪れていたシオンとシルヴィアは、ビルの屋上に身を潜ませ、武装勢力と市民兵により制圧された市庁舎を見下ろしながら、戦慄を覚えていた。

 まだ暴動の激化から二日と経っていないのに、この状況。異常としか言えない。


「ここの人たち、ついこの間までろくに訓練も受けていない民間人だったんですよね?」

「ええ、だからこそ恐ろしいのよ。ここを占拠した組織の裏を取らないと」


 シルヴィアは、シオンの言葉に頷き、答える。

 市民兵は訓練もまともに受けていない。にも関わらず、武装勢力は彼らを士気の異様な高さを示す即席の軍隊として扱っており、シルヴィアはこれが危ういと見ていた。

 十分に訓練された軍人であればリスクを管理し、無謀な作戦を避けるだけの判断が出来る。だが、促成栽培の兵士にはそれだけの判断能力を培うだけの時間を与えてもらえない。時間をかければまた違う結果に導けるのだろうが、彼らの辿る末路は基本的に「捨て駒」だ。


「思想に共鳴したからって、それが本心とは限らないわ。そもそも、ヴィランがドルネクロネの国力を削ぐためにあいつらを差し向けたって可能性もある」


 そう言って、シルヴィアはそれとなくカメラを掲げ、情報収集に務めた。


「っていうか、ここに押し入った連中はどこの所属なんでしょうね」

「それは……ッ!」


 背後からの聞き慣れない男の声に、シオンとシルヴィアは振り替えりざまに武器を構えた。


「ちょっと待って、撃たないで!!」


 銃を向けられ、尻餅をついた男は両手を挙げて無抵抗を示すと、腕に巻いた腕章を見せて所属を明らかにした。


「記者さん、か」

「ユニバーサルジャーナルのクラーク・シモンズです。貴女がたもご同輩だと思っていたんですけど、どうやら違うようですね」

「物騒な所に入り込むには、ジャーナリストを名乗ったほうが手っ取り早いからね」


 そう言ってシオンは銃をしまいつつ、立ち上がろうとするシモンズに手を差し伸べた。


「スパイのために自分たちの肩書が使われるのは少々複雑ですよ」

「でも、私たちはもうすぐここを出るわ。欲しい情報はあらかた手に入れたから、ね」

「では、僕もここから立ち去った方が良さそうですね」


 シルヴィアの言葉を聞き、シモンズはそう返す。ここが戦場になると睨んだらしい。食えない人だ、とシルヴィアは思う。


「隊長、見つけました」


 双眼鏡を覗くシオンが、シルヴィアに呼びかけ、市庁舎に入る一団を指した。


「何ですか、何かあったんです?」


 そう言って、シモンズもカメラのファインダー越しに市庁舎を覗き込む。

 車椅子の老人と、それを押す黒服の男。そして二人に付き従うスーツ姿の女。そして、三人を護衛するように、何人かの武装した兵士が周りを固めている。

 黒服の男は言わずもがな、ヴィラン・イーヴル・ラフ。そして彼が押す車椅子の老人こそ、かつての独裁政権の長、レクスンだ。


「やはり、ここがスタート地点という訳、か」

「マジですか、レクスン・イン・スーの姿をカメラに収められられるなんて、こりゃ特ダネになるぞ」


 嬉々としてカメラのシャッターを押すシモンズ。だが、シオンは彼に自重を促す。


「そろそろやめておいた方がいい。向こうのスナイパーは眼がいいから」

「ご忠告、どうも」


 言われるまま、カメラを下ろす。


「向こうもこっちに気付いたでしょうから、そろそろ撤退しておきましょう」

「了解」


 シルヴィアの言葉に従い、シオンは機材を畳み、ボストンバッグにしまい込む。

 市庁舎では、スーツの女が部下の兵士に指示を出し、シオンたちの潜むビルに人員を向かわせるよう手配していた。


 監視をしていたビルから抜け出し、シオンたちはレイフォードとレンのチームと合流する。


「何ですか、そいつ」

「ブン屋のシモンズさんよ」

「どうも〜」


 ちゃっかり付いてきたシモンズの紹介もそこそこに、一行はレンの調達した車に乗り込むと、トゥール市から撤退を図る。


「じゃあ、さっさとトンズラしましょっか」


 そう言って、レンはワンボックスカーのハンドルを握る、

 だが、市の出入り口には検問が敷かれ、そう簡単には出られない。主だったビルにはジャミングも敷設されているため、ワイバーンからの支援もアテにできないのが現状だ。

 では、どのようにこの場から逃げ出すのか。

 答えは簡単。アクセル全開の正面突破だ。


「ほらほら、レーシングゲームで鍛えた僕のドラテク舐めんじゃないよ!」


 検問を飛び出し、街道に躍り出る。

 だが、すぐに追手のドローンが三機差し向けられ、一行の乗る車にチェーンガンの銃口を向けてくる。


「レン、右に回避!」


 後方を見ていたシオンの指示に従い、レンはハンドルを切る。

 銃弾がアスファルトを削り、ワンボックスカーの側面を掠めた。


「全く、荒事になるならもっとマシな武器を調達するんだった!」


 レイフォードはぼやきながらも、アタッシュケースから取り出したライフルを組み立てると、サンルーフから顔と銃を出し、攻撃体制に入った。

 潜入任務は重火器類を持ち込めないケースがほとんどで、基本は現地調達だ。無いものをねだったところで意味はない。

 不満をそこそこに、レイフォードは銃を構え、銃爪を引く。

 三発の弾丸が放たれ、次の瞬間三機のドローンのうちの一機がローターから火を吹き、失速。機体をコントロール出来なくなったそれはアスファルトの道路にキスをした。


「まず一つ」

「カーブッ!」


 レンの声に反応し、レイフォードは身体を固定する。左カーブに差し掛かり、車体が大きく傾く。

 海沿いの道に繋がるカーブをインコース気味に曲がり切りったのを確認し、再び攻撃態勢を整えるとマガジンの中身を一気に吐き出させる。

 ドローンが炎に包まれ、陸側に切り立った崖に激突した。

 撃破を確認するよりも先に、シオンから次のマガジンを渡されマグチェンジ。

 残るは一機。焦らずに照準を付け、三度の射撃。

 撃破。

 炎上し、墜落するドローンを見て、レイフォードはため息を吐く。

 ようやく一息入れられる。が、安堵しようとした矢先に地響きにも勝る振動とガスタービンエンジンの駆動音が全員の感覚を刺激させる。


強襲機動骨格(アサルト・フレーム)……!」


 シオンが振動の正体を察したと同時に、ヘルムが二機、切り立った崖の上から現れ、ワンボックスカーの道を塞ぐように道路上に降り立った。

 ヘルムのマニピュレータが、ワンボックスに迫るが、レンはそれに臆することなく、車のルーフを犠牲に敵機の股の間を突っ切った。

 だが、レンがハンドルを切った先は、大きく切り立った崖の縁。その先に、舗装された道など存在しない。


「ちょっ、ちょっと?!」


 シモンズが叫んだ次の瞬間、レンはアクセルを思い切り踏み込むと、一行を乗せたワンボックスカーは重力のくびきから解き放たれた。

○トゥール市

 ドルネクロネ北端のトゥール島に位置する都市。ドルネクロネ最大の商業都市であり、隣接する港から国内で採掘された資源が輸出されている。

 トゥール島にはフェアザ、クニー、スーター、ハンドリンクの四島が隣接し、ドルネクロネの二大工業地帯として知られるフェアザ、スーターから生産された物品も一旦ここに集められた上で、各地に出荷される。

 ドルネクロネ紛争後は「紛争への責任」という形で国内の資源が外国に安く買い叩かれることが市民の不満を募らせており、そこに目をつけたレクスンによって市街を占拠された。

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