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Knife Sheath  作者: [LEC1EN]
傷の部隊
28/84

28.Showdown

「あの装備……以前ヴィランを捕らえた部隊か」


 何度も自分の……ヴィランの目的を阻もうとした憎き相手をスコープに捉え、溢れ出る感情を抑えることがいかに難しいものなのか、サウザンド・アイは改めて自覚させられた。その感情のぶれが義眼を介した機体センサーとの同調にノイズを発生させ、銃爪を引く瞬間に僅かな照準の誤差を生み出してしまった。

 敵の頭を狙うはずだった弾丸が僅かに逸れ、その横をすり抜けてひび割れたアスファルトに弾痕を刻む。


『ヒャハッ、外しやがったぜ依頼主(クライアント)さんよぉ?』


 狙撃を外したことに、すかさずフールが冷やかしにかかる。が、アイはそれを気に留めることはしない。


 ヴィランは傷の部隊(スカー・フェイスズ)と正式に契約を交わし、彼らを戦力として迎え入れていた。カスチェイも彼らに合わせたカスタマイズが進み、彼らはそれを自分の手足同然に動かしている。ただ一人、フールだけはその契約に納得できない様子だったが、副長に言いくるめられる形で仕方なく従っていた。

 アイはボルトアクションタイプの長銃をリロードし終えると、深く息を吐き、再び義眼を介して機体のセンサーとリンクする。

 敵がこちらに気付き、建物の影に隠れた。どうやら先程の一撃でこちらの位置が特定されたらしい。


『アイ、ここからは俺たちの仕事だ。お前はそこから敵にプレッシャーを与えて動きを制限させればいい』

「はい」


 副長の言葉に短く答え、アイはスコープを覗き込む。そして、合図とともに副長、ボム、フール、サイゾー、アイスマンは敵の懐へと切り込んでいった。


 近接戦闘型の敵機体がダンピールを捉え、両手に構えたブレードを振るう。

 こちらのコントロールスティックの動作が間に合わないほどの複雑かつ正確な剣さばきに、シオンは慣性制御フィールドで対応する。

 敵の刃に乗せられた運動エネルギーが、熱に変換され勢いを失い、そこにダンピールの刃を重ね、鍔迫り合いに持ち込んだ。


『ほう、これが音に聞こえし慣性制御装置(エリミネーター)。なるほど、一筋縄では行かないか』


 鍔迫り合いが展開される中、敵パイロットの声が通信機越しに聞こえてくる。どうやら慣性制御装置(エリミネーター)について知識を得ているらしい。


「そのことを誰から聞いた!それにその機体は何だ!!」

『おっと、それを教える訳にはいかないな』


 敵パイロットはそう言って、機体をより深く踏み込ませる。

 力比べではダンピールも負けはしないと、シオンは拮抗状態の維持に努める。ここで一機、敵を足止めさせていれば、シルヴィアとレイフォードの負担が減るからだ。

 だが、その隙に背後から迫るもう一機の敵が、手にしたニードルをダンピールのブースターに突き立てる。

 ダメージを負ったことに気付き、シオンはチェーンガンで目の前の敵を牽制し、鍔迫り合いから抜け出すとすぐにダメージチェックを行う。

 ブースターの外装部が損傷。幸い、推進器そのものにダメージはないが、それよりもこの敵はいつの間に自分の背後についたのか。その疑問がシオンの頭をよぎる。


『無粋だぞ、アイスマン』

『敵は……倒せるときに倒す。それが俺たちの掟だ……サイゾー』

『フン。そうではあるが、この敵は情報を持ち帰ればボーナスが手に入る。なら、全力を出させなければ食いでがなかろう』


 またしても敵の通信を傍受する。シオンの背後を取った、アイスマンと呼ばれた男を説得しつつ、サイゾーと呼ばれた方は再度ブレードを構え直す。

 正面から迫るサイゾー機と、その間隙を縫うようにこちらに致命傷を与えようとするアイスマン機。そのコンビネーションは、驚くほどに的確だった。

 近接格闘戦特化型のサイゾー機に気を取られていると、アイスマンの機体がシオンの死角を突いてくる。

 攻撃を加えてはすぐに姿を消すヒットアンドアウェイ。それは確実にダメージを蓄積させ、シオンを精神的に追い詰めていった。


 全身にこれでもかと武器を満載した敵機が二機、レイフォードの前に立ちふさがる。

 マシンガン二挺でこちらを牽制する敵と、ロケットランチャーやグレネードを撃ち込んでくるその僚機。否、ロケットランチャーの起こす爆発は、見た目こそ派手だが破壊力は抑えられている。反面、その爆煙は視界を塞ぐには十分だった。


「厄介な奴らだ」


 クドラクのセンサーは、タルボシュと違って得られたデータを統合してコクピットに表示するわけではない。データ表示までのタイムラグが短いと言えば聞こえはいいが、煙幕(スモーク)(デコイ)といった欺瞞には弱く、熱・動態・音響センサーで得た情報は個別に表示する必要があった。


『派手にかませよボム。ただし、トドメはオレだ』

『了解だよフール。君好みに調合したベイビーたち、ここで咲かせて見せようじゃないか』


 敵パイロットの余裕の声が通信機から聞こえてくる。

 瞬間、煙の中から敵機が迫り、至近距離でマシンガンを構えた。相手の視界を塞ぎ、もう一機が攻撃を加える。手堅い連携ではあったものの、それはレイフォードにとって、既に予測されていた行動パターンだった。


「けど、そういうのはもう見飽きてるよ」


 近付いてきた敵に対して、レイフォードは鉈を振るう。突撃志向の強いその行動パターンは、生意気な後輩の訓練に散々付き合わされたお陰で対処は容易にできるようになっていた。

 しかし、敵は刃を避けて再び煙の中に姿を消し、今度はあらぬ方向から弾丸が飛来する。レイフォードは鉈の胴でそれを受け、被弾を避けた。


「例のスナイパーか」


 実質三対一。ここまで危機的状況に陥ったのは、ドルネクロネ以来だとレイフォードは舌を打ちながら操縦桿を握る手に力を込めた。


 シオン、レイフォードと同じく、シルヴィアは指揮官機と思われる敵機体と刃を交えていた。

 敵はこちらの間合い(レンジ)を確実に読み、それに合わせた行動を常に導き出していた。シオンとレイフォードに対する戦力分散も、相手の力量を見越してのことだろう。

 つまり、眼前の敵はシルヴィア相手に自分一人で十分だ、と言っているようなものだ。

 軽く見られた。そう思いながら、コントロールスティックを操り刃を振るう。

 敵もそのナイフ捌きに見惚れる訳でもなく、ブレードで斬撃を受け止め、弾き返す。金属同士がぶつかり合う甲高い音が幾度も瓦礫の街に響き渡るが、それでもなお決着はつかない。


「腕前の方は互角。性能は向こうに分がある感じね」


 お互いに一度距離を取り、再び武器を構え直す。一呼吸の後、再び両者は刃を交わす。

 だが、再びの鍔迫り合いに持ち込んだ途端、シルヴィアは腕部コンテナを開放し、その中に収納されていた消火剤を噴射した。白く泡立った薬液が敵の視界を塞ぎ、一瞬だが隙が生まれる。


「使えるモノは何でも使う、手数には自信あるのよ」


 そう言って、シルヴィアはショットガンを構え、敵機の胸部にスラッグ・ショットを叩き込んだ。眩いマズルフラッシュと共に敵の胸に風穴が開く……筈だった。

 敵はシルヴィアの行動を予測し、小盾(バックラー)で咄嗟にその一撃を反らしていた。

 さらに指揮官機の危機を察知してか、スナイパーが遠方から射撃を行い、再び距離を開けられる。

 手強い。

 シルヴィアは思わず舌を巻く。周囲を見やると、シオンとレイフォードもそれぞれの敵に苦戦を強いられている。

 この状況をどのように切り抜けるべきか。シルヴィアは頭をフル回転させながら、迫りくる敵の刃を受け止めた。

○カスチェイ(アイスマン・カスタム)

 アイスマン専用にカスタマイズされたカスチェイ。

 関節に特殊シーリングが施されており、機体の駆動音を抑えることができる。ただし、このシーリングは関節を動かす毎に激しく摩耗する消耗品のため、長時間の運用には適さない。

 装甲部にもレーダー波を吸収するステルス塗料が塗布されているが、レーダーへの影響を想定して武装は携行式ニードルのみ。そのため、正攻法での運用ではなく、敵拠点への潜入や僚機を囮にしてのアンブッシュに活用される。

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