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第79話 護衛騎士の不安

視点変わります。

これから先、別視点でお送りすることがすごく増えると思いますが、みんながアナトーリアの知らないところで好き勝手やるからなんです! 許してください……。


 王の執務室では、顔色の悪い若い男が父たる国王へ大きな声をあげていた。


「父上! どうしてです、俺がレクラム領に引っ込まなければならない理由がわからない」

「わからないからだろう」


 国王イルデフォンソ二世は、実の子であるフィルディナンドに対し、まるで仕事を碌にこなせなかった部下を見るような冷たい目で見据えた。


「エミリアーノが王太子だなんて! あの子はまだ成人もしていない」

「成人前の子より不出来だと言われた気分はどうだ」


 フィルディナンドは唇を噛みながら、イルデフォンソを睨みつけるが、王もまた表情を変えないまま息子を見返した。


 一瞬の睨み合いの末、フィルディナンドは乱れたプラチナブロンドを撫でつけてから大きく息を吐く。


「クララが伝説の巫女ではないからですか? 俺がアナトーリアとの婚約を破棄したから?」

「些末なところにしか目がいかぬなら、レクラムですら任せられんぞ。あそこは対外政策の要所だ」


 イルデフォンソが、さもつまらなそうに言うと、フィルディナンドは言葉を詰まらせる。

 またしばしの間睨み合ってから、王位争いに敗れた若い男は部屋を出て行った。


「ヤナタに隣接するレクラムが、まさか難しい土地だとわからぬとは言わんでくれよ……」


 溜め息混じりの王の呟きは、誰にも届かない。




 一方、フィルディナンドは部屋の外で待機していたカロージェロを従え、自室へと歩を進める。


「一体何が起きてる。アナトーリアが生きて戻ってから、何もかもがおかしいではないか」

「彼女は冤罪でした」

「ああ。だが、俺が婚約を破棄したのは冤罪が発覚する前だ。何もおかしなことはない。なのになぜ俺が……」

「陥れたのがミス・フィンツィであるとの噂もあります。それに──」


 カロージェロが言い終わるのを待たず立ち止まったフィルディナンドは、カロージェロを振り返って睨みつける。


「お前はクララを好いていたのじゃなかったのか」

「目が覚めました。悪い夢でも見ていたような気分です」


 短い髪は窓から入った光が当たって、美味しそうなチョコレートブラウンに輝く。

 琥珀色の瞳は綺麗に澄んで、嘘をついているようでも、取り繕っているようでもない。


「お前も、アナトーリアの魔術にやられたか? 父上は騙されてる。精霊の存在を証明するなど、クララだってできないと言ったのに……」

「殿下もお気づきでしょう。そもそもあの暴行事件だって、アナトーリア様が彼女をいたぶる理由がない」


 フンと鼻で笑ったフィルディナンドは、また爪先を自室の方へ向けて歩き出す。


「クララが俺に近いから、妬いたかもしれない」

「嫉妬するようなご関係ではなかったでしょう。実際、あの事件さえなければ婚約破棄になどならなかった」

「代わりに俺は愛を知らぬままになるところだった」


 カロージェロは口を噤み、廊下の窓から覗く四角い空に視線を投げる。

 空を飛ぶのは二羽の白い鳥。その上に垂れこめる灰色の暗雲。カロージェロはただぼんやりと鳥を見つめながら歩いた。


 ぼんやりしすぎたために、目の前を歩くフィルディナンドが立ち止まったのに気づくのが一瞬遅れ、あわやぶつかるかというところで踏みとどまる。


「フィル!」

「ああ、クララ。よく来たね」


 アナトーリアより幾分高い、この国の女性の平均身長を持つ黒髪の女は、平均よりやや大きい双丘と引き締まった腰をこれでもかとアピールするドレスを纏って、王子とその護衛騎士に走り寄る。


「何かお話があるのでしょう? ……あ、カルも、こんにちは。なんだかお顔が怖いわ」

「放っておけ。魔女にあてられたんだろう」

「まぁ……。アニー様が何か? 今日のお話に関係しますか?」


 コテンと首を傾げてから、フィルディナンドの横に立ち並ぶようにしてカロージェロへ背を向ける。

 カロージェロは、並んで歩く二人の間の10センチをチラリと見てから、窓へ視線を戻した。鳥はもう見えない。



 フィルディナンドの私室に入ると、クララとフィルディナンドはソファにはす向かいに腰かけ、カロージェロはフィルディナンドの背後に立って扉を見つめた。


 足元では王族付き侍女のナーシャが紅茶の用意をしている。

 王族の身辺の世話は基本同性が行うが、クララがいる場合には女性がそれをする。フィルディナンドは侍従であってもクララの側に異性を寄せ付けない。


「……単刀直入に言うと、エミリアーノの立太子が決まった」

「?」


 カロージェロの視界の隅で、黒髪がふわりと横に傾いた。

 少し前まで、フィルディナンドの背後に控えているときにはいつも、この黒髪のサラサラと流れる様ばかり目で追っていた護衛騎士は、今はただ扉のノブだけを見つめる。


 幼い頃、アナトーリアは体が小さくて、高い位置にあるあのノブを掴んで重い扉を開けるのが重労働だった。

 開けてやると振り返って「ありがとう、カル」と微笑みかけた。扉の向こうにある廊下の窓からは、白い光が降り注いでアナトーリアのふわふわしたローズゴールドを輝かせ──。


「アナトーリアは立国する」


 フィルディナンドの軽率な情報漏洩を焦って止めようとするカロージェロは、フィルディナンドに手で留められて唇を噛む。


「立国……え、まさか、島……ですか」

「そうだ。たかだか島一つ分の国土だし、今までキャロモンテの資産にすらなっていなかった土地だ。くれてやることに異論はない、というより興味がない」

「……フィルはどうなるの?」

「レクラムの守備を任された」


 沈黙が走る。

 クララは紅茶に伸ばしかけた手を膝の上に戻して、少し俯く。

 フィルディナンドはそんなクララの様子を見つめていながら、しかし落ち着かないのか足を二度三度と組み替えた。


「アニー様が女王様になって、フィルは王様になれなくて、北にお引越しをするということですか?

だけど、王様にならなくても普通ご兄弟は王陛下のお側でお仕事のお手伝いをなさるのでは? 今までもそうでしたし、どうしてレクラムに……」

「今までだってそうと決まっていたわけではないよ。それでもレクラムは不本意だが」


 クララはフィルディナンドと目を合わせない。

 何を考えているのかわからないぼんやりとした瞳は、壁にかけられた王家お抱えの画家の描いた麦畑の絵を映していながら、しかしどこか遠くを見ていた。


「だが、悪い話ばかりじゃない。きっと王位争いから外れた今なら、君との婚約も許されるのじゃないかと……」


 組んでいた足をほどいて前のめりになった王子に、クララは眉を下げて微笑んだ。少し困ったように。


「まだ、エミリアーノ殿下の立太子を覆すことはできますよね? あたしが伝説の巫女だと証明できたら」

「最終承認が下りたわけではないが、覆すのは難しいよ。まぁ、できるか否かという話だけなら、最終承認後であっても特別発令は出せるが、父上の説得は必要だ」


 基本的にキャロモンテ王国の政は、各部門の決裁、左右の丞相の決裁、宰相の決裁、場合により王の承認、といくつもの段階を経て執り行われる。


 しかしもうひとつ、特別発令と言って、それまでの全ての話し合いや決議を無視して決定することができる、言わば国王の鶴の一声がある。


 これは貴族たちが結託して王家を取り潰そうとすることのないように設けられた特別措置であり、通常は使えば使うほど王家の信頼を失うものだ。


「最後まで、諦めずにがんばりましょう?」


 フィルディナンドの手に自らの手を重ねて、上目遣いをするクララに、カロージェロは小さく舌打ちをした。


王様は早速動き出したようです。クララさんも黙ってはいられませんね!

さてこれが吉と出るか凶と出るか。

短い会話が続いたときに見づらい気がして(PC版)、試験的に会話と会話の間に行をあけないでみる。

今までは会話の「間」がないときだけ行を詰めてたんですけど、さてどうしたもんか。

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アジア風ファンタズィーもよろしくおねがいしまーす!
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― 新着の感想 ―
[良い点] サブタイトルからカロージェロの切なさが伝わってきます!!w >精霊の存在を証明するなど、クララだってできないと言ったのに クララはハードな綱渡りをしてましたねw(もう過去形w) 国に嘘…
[良い点] ざまぁ始まりましたね! クララは巨乳……うふふふふ。(謎の笑) [一言] 会話文は違和感ありませんでしたよ! 短い時って迷いますよね。
[一言] >平均よりやや大きい双丘 ほほう……( ˘ω˘ ) ところでクララは乙女ゲーの主人公なんですよね? 主人公が巨乳というのは若干珍しい気がしますね。 よくあるのは、主人公は貧乳で、悪役令嬢が…
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