第76話 ペアルックです ★
2019/12/12:表現の不備・矛盾を修正。
クララが誘拐事件に関わっていないことは、キアッフレードに証明させるとして、残された問題はフィルディナンド殿下の存在だ。
彼がクララに執着する以上、キアッフレードが彼女を連れてヤナタへ向かうことはできないだろう。
フィルディナンド殿下ごとヤナタへ連れて行くという手もあるのでは、と思うのだけど……。ないか……。
どちらにせよ、弟君であるエミリアーノ殿下の立太子を早急に進めるべきだ。元々バウドは私の冤罪発覚以降エミリアーノ殿下を推しているので、時期を早めるだけのこと。
クララが私を島へ流そうとしたのは、まず間違いなく自分が王妃になるため。私の島流しはヒロインが王妃になるための条件なのだから。
では、フィルが物理的にクララに玉座を用意できないとしたら、彼女はどうするのか。
フィルを愛しているなら、それでどうこうなるものではないと思うけれど、もしも王妃にしか興味がなかったのなら、動きがあるはず。
フィルとの交際を控えるかもしれないし、もしかしたらエミリアーノ殿下のお命を狙うかもしれない。
動き出してくれれば、その隙を狙って手が出せるのじゃないかしら。
私たちの仕事は隙を作ること。そこからどうするかはキアッフレード次第だ。
陛下がフィルとクララの婚約を渋っている今のうちに、手を打たなくてはいけない。
フィルが王位争いから外れれば、クララとの婚約が整ってしまう可能性もあるし、タイミングが重要になるはずだ。
キアッフレードと連携をとりながら、早速お父様とお兄様が根回しをすることで合意した。
私はその日のうちにそれらの状況を手紙にしたため、トリスタンに預ける。するとトリスタンはバルナバを連れて夜闇の中へと消えて行った。
今までバルナバは影として隠密行動する機会は多くなく、トリスタンに言わせれば、ちょっと上手な泥棒とたいして変わらないらしい。
これからしばらく師弟は行動を共にすることになる。バルナバには、これからのバウドを支えてもらわないとならないし、スパルタ教育になるかもしれないけど、頑張ってほしい。
「お……おかしくはないだろうか」
準備を整えてホールに降りて行くと、そこには先に支度を終えていたらしいレイモンドが所在無げに立っていた。
希少な種のウールを使った生地の独特の光沢と、肌触りの良さそうな柔らかな曲線を描いたフードには、蔦を模したアルデラン模様の刺繍が入っている。
アルデランは遠い南にあるアールデルスという国名からとっているのだけど、前世的な言い方をすればアラベスクが近いと思う。
濃紺のローブの上から、深紅の絹でできた飾り布が肩から斜めにかかっている。これは古代ローマのトガにも、僧侶の袈裟のようにも見えた。
ローブの留め金には白いムーンストーン、腰紐は金色の細いロープ。
レイモンドのために、お父様が用意させた衣装だ。随分前からしっかりと準備していないと、ここまでのものは作れないだろうと思う。
「ええ、とっても素敵だわ。誰が見ても神職ね」
「それは君だからそう見えるのでは? この国に神に仕えるという概念は無くなってしまったのに」
少し寂しそうに口の端を下げたレイモンドだったけれど、それでも、巫覡らしいと言われてまんざらでもない雰囲気が伝わってくる。
「陛下にはその概念もあるはずだから、きっと圧倒されるわ」
私の着る濃紺のエンパイアラインドレスの後ろには、大きな深紅の絹のリボンがあって、この色使いはまるでレイモンドとペアルックにも見える、そう考えて私は頬に熱が上ってくるのを感じた。
これから国王陛下の元へ向かうというのに、何を呑気なことを考えているのかしら。
あくまでも、これはエスピリディオン島の神と精霊を御せるのがレイモンドと私のふたりである、というアピールのためであって、それ以上の意味はないというのに。
熱を持った顔を見られまいと俯いたとき、背後からお兄様の声。
「ああ、二人ともよく似合ってる。父上はもう先に行っているから、向こうで合流してくれ。俺は後から行って左丞相でも観察しておこう」
レイモンドを連れて来て気づいたのだけど、お兄様はレイモンドにも優しかった。
私との距離が近くても怒らないのは、バルナバを含むバウドの家人とレイモンドだけだから、むしろレイモンドが特別扱いなのだけれど……。
やっぱり、巫覡だからかしら?
一昨日この屋敷に戻って来て近況報告を受け、昨日はレイモンドを交えて今回の謁見の打ち合わせをした。
どうやってレイモンドが巫覡であることを証明するか、室内にどれだけの人員がいるか、レイモンドが巫覡であると認められた場合、どのように話をすすめるべきか、などなど。
影たちもそれぞれの仕事に就いているはずだ。ボナート公爵を探る者、クララの様子を見る者、キアッフレードの傍で控えておく者。
ボナート公爵の影響はこの半年で随分と小さくなった。よもやここで私を魔女と断定してバウド家と敵対関係になろうとは、さすがの陛下も思うまいと、みんな口をそろえて言う。
だけど、気にすべきはその逆なのだ。
巫覡であると認めてもらえたとて、存在を許されるとは限らない。神や精霊の力を正しく使うのか否か、ちゃんと信頼を得なければならないのだ。
精霊の力は強大で、そして、現代の民にとって──陛下も含めて、それは未知の世界だ。理解を超えたものを、安心して受け入れられる者はいない。
私とレイモンドが信頼される必要がある。
大丈夫、命の危険はほとんどない。私たちには精霊がいるから。
とにかく焦らずに、信を得るために言葉を尽くさなくては。ここが正念場、かもしれない。
お兄様のエスコートで馬車に乗り込み、後からレイモンドも続く。
こういった日常の動作ひとつとってもレイモンドには知らない世界のお作法なのだ。
しかも、これから行く場所はその最たるところ。彼のストレスは計り知れないと思う。
王の、貴族の事情に付き合わせているに過ぎないのだから、王宮へ到着したら私がしっかりしなくっちゃ……。
オシャレイモンド君参考
レイ君の杖のクリスタルは虹色なんですけど虹色って書くの難しいですね?
腕を上げたら虹色挑戦しますが暫定的に青。青だけ浮いてるけど気にしない。
さぁ出陣ですね。王様との話し合いで得られることがどれだけあるか、どうやって証明するか。ぐぬぬ




