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第40話 一家団欒です

本国へ戻ってまいりました。

感想にブクマに評価に、ありがとうございます!これを励みに本国ステージもまたがんばりまーす!


 帰宅すると、泣き出す者や卒倒する者、私に抱き着こうとして殴られる者など、屋敷は上を下への大騒ぎが続いた。


 隅から隅まで掃除のいきわたった美しい家や、清潔な衣類、ピカピカのお風呂に豪華な食事。

 島での生活を受けて、当たり前じゃないのだと気付いたそれらのひとつひとつに感謝していると、その度に侍従たちは涙を流して働く手を止める。


 おかげさまで、リビングルームで一家団欒となるまでに随分と時間がかかってしまった。



 私の話を、家族は誰も否定しなかった。

 島での約1ヶ月、私が体験したことの全てを、お父様もお母様も、もちろんお兄様も頷いて納得してくれた。

 もちろん、前世の話はできなかったけれど。


「貴女は神様から大切に育てるよう言われていたのだから、さもありなんというものです」


 神が夢に立ったのだといつも口癖のように言って、私に精霊の話を最も熱心に言い聞かせたのがお母様だ。

 お兄様もまた、「アニーは精霊そのものだ」と幼い頃から溺愛してくれていたから、信じて貰えないかもしれないという不安はなかった。


 私からの話を終えると、お母様はゆっくりと私の髪を撫で、ひとつ抱き締めてから部屋を出て行った。


 政治的な話には立ち入らない、というお母様の信条は、現代においては古い考えだと言われがちだけれど、社交の場で夫の足を引っ張らない、最も効率的な戦法でもあると思う。


 王妃という立場ならそれは不可能だったけど、今後どこかの貴族へ嫁ぐならば、その考えは私も採用してみてもいいかもしれない。



「それで、チェルレーティの末裔というのは?」


 お母様が出て行って、パタンと閉まる扉を眺めながら、お父様が口を開く。


「精霊の命を繋ぐために眠り続けた(かんなぎ)が、チェルレーティでしたの。100年以上昔の方ですから、末裔ではなくご先祖様と言ったほうが近いですわ」


「その覡から当時の話を聞けるだろうか」


「当時、彼は9つだったと聞いています。どこまで覚えているかは」


 そうか、と一つ呟いて、お父様はしばし沈黙した。

 考えをまとめている間に、お兄様がこの質問の意図について、「当時の彼らは北に逃げたのかを確認したいのだ」と簡単に説明してくれる。


 ブールとの戦の最中にチェルレーティの血は潰えた。

 王家およびバウド家の始まりはアンリ・チェルレーティという女性だけど、彼女も遠縁の子であってチェルレーティの血筋と呼ぶには少し薄い。

 ただ、戦が始まってすぐに血族の一部が北へ逃げた可能性も、昔から語られていた。


 実際、北東には今もまだ精霊信仰が残っていて、キャロモンテの属国であるヤナタでは、精霊を信じる民が力を増しつつあるらしい。

 ヤナタに放ったバウド家の影は、未だ決定的な証拠を掴めていないものの、水面下に起こる不穏な動きを追いかけている。


 武力衝突が起きた場合、チェルレーティの子孫なら、精霊の力を使える者がいる可能性が高くなる。

 お父様もお兄様もたった今、私の体験談を聞いたことで、精霊が実在することも、その力を行使すれば魔科学の力では対処しきれない可能性も、理解してしまった。


 そして──。

 黒い髪と瞳を持った伝説の巫女、クララ。

 古い書物に、巫覡になる者は黒い髪と瞳を持っていることが多いとあったし、それはチェルレーティの家に比較的多かった。


「最近になって、魔導部のキアッフレードとクララに接点が生まれたようだ」


「インサーナ伯爵の……?」


 キアッフレード・インサーナは魔導部門の副長で、表向きはインサーナ伯の養子だけど、実はヤナタの第三王子なのだとお兄様が告げる。

 捕虜と言えばいいのだろうか。その事実は政の中心にいる人間にしか知らされていなくて、私も、たった今知ったわけだけど……。


「ヤナタに逃げたかもしれないチェルレーティ、ヤナタで力を増す精霊信仰、伝説の巫女とヤナタの王子。何か匂うよな」


「でも、クララに精霊は見えてませんわ」


「お前の話によれば、彼女が『正しい祈り』を理解すれば、見えるようになるのだろう?」


 お兄様の説明が終わると同時に、お父様が側に控えていた家令のエルモに声を掛けた。エルモはお父様よりも年上で、この屋敷のことを誰よりも知っている頼れるオジサマだ。


 私の目の前にエルモが置いたのは、2冊の安価で簡素な本だった。


「これは?」


「クララ・フィンツィの部屋にあったものの写しで、日記と……右は謎のメモだな」


 日記に手を伸ばしてパラパラとめくると、一見して「いじめの記録」とわかった。まるで覚えのない出来事ばかりだというのに、なぜか私の名前がいたるところに記載されていて困惑する。


「酷いだろう? いじめや暴行の訴えの全てが事実無根だっていうのに、そんな日記が証拠になってしまった」


「冤罪が発覚した今、逆にクララが罪に問われたりはしないのですか?」


「……全部、伝聞でな」


 改めて日記を見返すと、確かに「逃げるアナトーリア様の姿を見た方がいる」とか「アナトーリア様の残り香」とか「アナトーリア様がやったのを見たと言っていた」とか。


 なるほど、クララ本人は私がやったと断言はしていないのだ。

 そんな根拠のない言い分だけで、私を罪人にすることのできる人物が、クララの周りにいたということ。


「いくらなんでも……。ボナート公爵ですか? ビアッジョも? まさか、フィ──」


 さすがに、王子殿下の名前を思いつきで犯人として挙げるわけにはいかず、私は口を噤む。


 お父様も苦々し気に頷いてから、お兄様へ視線を向けた。

 お兄様は、お父様にそっくりな白茶の瞳を冷たく光らせて、虚偽の証言が発生した経緯を簡単に教えてくれる。


 日記に名前のあがった令嬢たちは誰もが口をそろえて、見知らぬ人物から、美しい宝石と引き換えに私の名を提示するよう持ち掛けられたのだと言う。


「宝石は前払い、何か事件が起きたときに『アナトーリア』の名前を出すだけでいいと言われたそうだ」


 まさか祝謝日になって、それが殿下との婚約破棄に繋がるとは、まさかあれでアナトーリアが罪人として流刑になるとは、予想もしなかったと誰もが泣いたらしい。


 貴族に生まれながら、風聞の一つで命が尽きることもあるとわからないなんて……。


 私が顔をしかめると、お兄様は申し訳なさそうに眉を下げて、「依頼した人物から先にはたどり着けなかった」と続けた。

 ボナート家の匂いが残りつつも、決定的な証拠はどこにもないらしい。


 虚偽の証言をした3名の令嬢の家には、軽くない処分が下った。

 3名のうち2名の家の領地を、賠償の一部としてバウドが引き継ぐことになって、お父様は管理が面倒だからと、彼らの家名を取り潰さないまま領地管理を任せてる。

 キャロモンテには降爵(こうしゃく)という制度がないので、奪爵(だっしゃく)の後、叙爵(じょしゃく)という形式をとり、どちらも男爵位になったらしい。


 北東の、ヤナタと国境を同じくするレクラム領だけは、降爵に加えて領地の半分以上を王家が接収した。なんだかどさくさに紛れて奪い取ったみたいに見えるわね。


 また、きっかけとなったそれぞれのご令嬢たちは、生涯を草庵で過ごすこととなった。

 草庵というのは、この世界におけるお寺みたいなもので、墓地の管理をしたり魂が迷わず天へ昇って行けるように祈る場所。

 古い精霊信仰の名残を最も色濃く残す、現代では数少ないスピリチュアルな施設だ。宗教じみた色はほとんどないけれど。


「さて、もう一つのほうだが」


 お父様の声が一段と低くなった。謎のメモと呼ばれたほうを手に取る。


ラニエロお兄ちゃんがどうやって令嬢たちから話を聞いたのか、お兄ちゃんは胡麻化すばかりで教えてくれませんでした。アヤシイ。

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アジア風ファンタズィーもよろしくおねがいしまーす!
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