表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/135

第21話 違和感です

何しに来たのかわからないポンコツくんたちをご堪能ください。

たぶん本人たちも何しに来たんだっけなって思うと思う。


「とにかく、精霊が困っているし、それでクララは悲しんでる」


 フィル自身は、何をしに来たのか理解していないようだ。

 いつものように権力者の物言いで「ああしろ、こうしろ」と言わないのだから。


 まずはクララを落ち着かせて、彼女の意思に任せるつもりか──。


 黒髪の少女の肩を抱く手に力をこめながら、私の存在、または行動が、いかに重大な過失を精霊に与えているか訴えかけるフィル。


 以前の私なら、確かにその手は通用したかもしれない。多少は動揺していただろう。

 私は強い精霊信仰を持っていたし、クララは精霊の声を聞く「導きの巫女」だ。精霊を困らせるなんてとんでもないことだわ。


 でも、今は違う。私が巫女だから。


「私のせいで精霊が困っているのなら、皆さんは私を連れ帰りに来てくださったの? それならなぜ波や風はあなた方を拒んでいるの?」


「そ、それは、精霊がクララを守っているんだろう。君が彼女を傷つけることのないように」


 それならば、精霊は私を拘束すればいいだけなのだとなぜわからないのか。

 未来の王はこんなにも短絡的な思考の持ち主だったかしら。


 私はなんとも言えない頭痛を感じて、大きな溜息を吐きながらこめかみを押さえる。


「ビーが島流しを提案したとき、心優しいクララは期間を短くするよう申し出てくれたというのに、君って女は」


 端正な顔を歪ませながら、フィルは私を、元婚約者を汚いものでも見るような目で見つめた。


 だがそんな表情の変化なんて、些末なことだ。

 フィルは今、とんでもないことを言った。


 ビーが()()()を提案して、クララが()()()()()を願い出た。

 なんという違和感。


『もう無理! ウティ、この人間たち追い返そうよ』


『あらー。追い返すだけでいいのー? アタシは沈めちゃいたいけどー』


『オオゴトですヨ、それじゃ。一旦、追い返シテ、二度と来ラレないようニしまショウ』


 精霊たちもまた、違和感に気づいたようだった。

 そして彼らに怒りを覚え、その怒りを荒ぶる波や風へと顕現させていく。


「精霊は、あなた方ではなく、私を守っています。正しい祈りを持つ者を守るのです」


「どうして……ッ!」


 私が、クララへのヒントのつもりで語り掛けると、甲板を走り出したクララは、手すりから身を乗り出すようにして私を見つめ、そして呟いた。


 どうして、生きているのよ、と。


 やっぱりそういうことなのね?

 クララもまた、別の世界から転生してきたのね?


 大きく揺れ始めた船は、身を乗り出すクララを海へ放り出しそうになり、フィルとカロージェロが慌てて抱え込んだ。


「おい、ビアッジョ! 旗を持て。投げるんだ」


 ボナート公爵が叫ぶ。

 その声に、ビーは反射的に走り出し、船首に掲げられた国旗を掴み取った。


「この際、島に乗せるだけでも構わん! 早く投げろ!」


 ひどく揺れながら、少しずつ沖へと流されていく船から、ビーが旗を投擲する構えを見せる。


 ボナート公爵の手にあるのは、印写機だ。所謂、カメラ。

 こちらの世界ではまだカラー写真にはならないけれど、とても綺麗に写すことができる。


 王国魔導部が少し前に開発に成功したばかりで、市場にはほとんど出回っていない。


「ゲノーマス」


 側に控えている狼に声を掛けると、飛んできた旗の着地点になるはずだった崖の隅が、突如として崩れた。


 旗だけでも島に乗せたいという言葉の真意はまだわからないけど、嫌な予感が心臓をぎゅっと握り締める。

 きっと、彼らが持参したものは何一つ島に持ち込ませてはいけない。


 からからと乾いた音をたてて崖を転がり落ちた国旗に、私は無性に悲しくなった。


 あっという間に離れてしまった船から、悔しそうな叫び声が聞こえてくる。


『すっごく騒々しい人たち! シル、あの人たちきらいだわ』


『あらー。でもそうねー、精霊を騙るのはいい度胸してるわよねー』


 あっという間に米粒ほどの大きさになった船影を眺めながら、風と水の精霊が怒りを露にする。


 狼は後ろ足で耳の後ろのあたりをポリポリと掻きながら、そういえば、と口を開いた。


『あの女の人ガ、りあノ言ってイタ巫女ですカ?』


 私が頷くと、シルファムはキョトンとした顔をして、ウティーネは興味深そうに瞳を輝かせて、それぞれに詳細を求める。


『あらー? 巫女ってなんのことー?』


『それハあとデ、エストに報告ガテラ、ゆっく──』




 時が止まった。

 ゲノーマスは口を噤み、ウティーネは山へ目をやって、シルファムは一際高く飛んだ。


 時が止まった、ように感じただけだ。

 それほどの緊張が島に走った。

 波は動くことをやめ、風は姿を消し、木々が息をひそめたように感じるほどの静寂、一瞬の緊張。


 空白から真っ先に意識を取り戻したのはシルファムだった。


『レイモンドだわ!』


 ひとつ言葉を残して、姿を消す。


『あらあらあら! りあちゃん、レイモンドが目を覚ましたみたいなのー。アタシたちは行くけど、りあちゃんはどうするー?』


「私はあとでご挨拶するから、先ずはみんなが元気な顔を見せてあげて」


 精霊たちは、神出鬼没だ。彼らは、(エスト)の加護の範囲なら場所に縛られない。


 目を覚ました覡の元へ一瞬で向かうことができるだろう。

 私を伴わなければ。


 あんなに嬉しそうに声をあげたシルファムや、千切れてしまいそうなほどブンブン尻尾を振るゲノーマスを見て、私も連れて行ってとは言えない。


 それに私は、幼馴染たちとの再会によって得られた多すぎる情報に、かなり混乱しているのだ。

 少しひとりになって考えをまとめたい、とも思った。


『それじゃア、またアトで』


 私の「行ってらっしゃい」は、誰にも届くことなく、風に乗って消えていった。


今何話目でしたっけ?

やっと居眠り男さんが起きたよおおおおおお!長かった……。寝坊助にもほどがある!(人のせい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アジア風ファンタズィーもよろしくおねがいしまーす!
i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ