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第20話 謎理論です

嫌な感じがする大きな船が来たなら、そりゃーお客様は彼らしかいませんですね


 ゲノーマスに連れて来てもらったその断崖は、側面こそ恐ろしい崖そのものなのに、地上は牧草地のようになっていて、緑が広がっている。

 人間を怖がらない馬や鹿が、少し離れたところでゆっくりと草を食んでいる様は楽園のようにも見えた。


 シルファムとウティーネによって北側へ連れてこられた大型の船は、やはり船首にも船尾にも、キャロモンテ王国の国旗がはためいている。


 上から赤、白、緑の三色のボーダーで、左上には四角い青があり、その青の中には剣と杖が交差した模様が描かれている。それが王国旗。

 あの杖に、カルディアの歴史が、4色にはそれぞれの精霊に対する想いが、刻まれているはずだったんだけど。


 崖の先端と、目と鼻の先とも言える距離で停止した船は、荒れる波で大きく揺れている。


 甲板に複数の人影があり、それを見て私は憂鬱な気持ちになった。

 フィル、クララ、カル、ビアッジョ、そして、オネスト・ボナート公爵。

 できれば会いたくない人物が勢ぞろいしている、としか言えない。


「元気そうだな、アナトーリア嬢。いや、今は受刑者アナトーリアだったか」


 そう口を開いたオネスト公の手には、円錐型の器具が握られている。風の属性石を用いた拡声器だ。


 私も、自分の声をシルファムが届けてくれるはずだと信じて、大声を張り上げないよう受け答える。

 令嬢が大声をあげては笑い者になるだけなのだもの。


「ごきげん麗しゅう、ボナート公爵。ずいぶんと賑やかなご旅行ですのね」


 大判の布を両肩で留め、腰を革ひもで留めた原始的な衣類──前世風に言えば古代ギリシャのキトン──は、とても動きやすく、カーテシーをする足の運びのひとつすら邪魔をしない。


 私の声は淀みなく彼らに届いたのだろう。面々の表情に驚きや不思議そうな色が浮かぶのが見えた。


「君は、どうやって島に渡った? 波や風の影響を受けない場所があるのではないか?」


 静かな航海だったはずの船が、島を目前にして進めなくなったどころか、波と風によって意図しない方向へ運ばれたのだ、彼らが狼狽するのもわかる気がする。


「さぁ……。わかりかねますわ。ところで、皆さまお揃いで一体どのようなご用件ですの?」


 彼らの周りをふわふわと旋回する精霊たちを、誰一人目で追ったり気にしたりする様子がない。

 私の横に威風堂々と構える大きな大きな黒い狼にすら、視線は向かない。


 見えていないのだ。クララはやはり、精霊たちの求める「巫女」ではない、今はまだ。


「君ではない、島に用があるのだ。見え透いた嘘はいいから、上陸に適した場所を教えなさい」


「知らないものはお答えできません。ボナート公爵は学院生の修学旅行のご引率でいらしたのかしら? 後ろの方々がなぜご一緒なのか……」


「口を慎みたまえ! ボロ布をまとった受刑者風情が偉そうに」


 よくわからないけれど、上陸できないことでボナート公爵はずいぶん焦っているようだ。

 もう少し冷静な方だと思っていたけれど、突然こんなにも言葉を荒げるなんて。


 同時に、上陸できなくて落ち着きを失くしているのは、ボナート公爵に限らないようだ、ということに気づく。

 クララがキョロキョロと周りを見渡しては、波の様子を確認したりと忙しなくしているのだ。


 その肩をフィルが抱いて、何事か声をかけている。仲睦まじいようで大変よろしい。


 これは王子ルートに入っているという理解でいいと思うのだけど、「普通」の王子ルートなら悪役令嬢は「隣国へ追放」になる。


 わざわざ「島流し」を実現させるルートが自然に発生するものなのかしら。


 これが、作られた電子の世界じゃないからあり得る? いいえ、リアルな世界だからこそ、こんな刑の執行を実現するのは難しいのでは……?


「えぇっ!? クララ、それは本当かい?」


 ボナート公爵がグチグチと喚く横で、フィルディナンドが驚きの声をあげた。

 クララは俯きながら自分の腕で体を抱き、少し震えているように見える。


「どうなされた、殿下」


「アナトーリアがいることで、精霊が怒っているらしい。クララが精霊の声を聞いているんだ」


「ふぁっ?」


 私がいるから精霊が怒るですって?


 思わず周りの精霊たちの表情を確認すると、みんなキョトンとしてお互いに顔を見合わせている。


「アナトーリア、君は島で一体何をしている?」


「え……サ……サバイバルライフ、と言うのかしら? 今日を生きるのに精一杯ですわ」


 フィルの質問に、足元に置いていた釣り竿を掲げて、こんな風に、と答える。


 武器でも構えると思ったのか、カルの表情に一瞬緊張が走って、腰の剣に手をかけるのが見えた。


「島で狩りでもしているのか? 島に生きる動物の命を犠牲にするような野蛮なことを?」


 ビアッジョが憎々し気に吐き捨てる。

 いやいや、魚以外はまだ食べてないけど、肉だっていずれ食べますよ、食べないと死んでしまうじゃない。


「言っていることがよくわからないわ、ビー。1年分の食糧を持参する必要があったのなら先に言ってくださらないと」


「……どうやら野蛮人の自覚がないらしいな」


 クララがなんと言ったのかはわからないけれど、ビアッジョの中では、私が島に住まう動物を狩っているから精霊の怒りに触れた、という図式になっているようだ。


 何も知らない人が聞いたら、思わずなるほどと納得してしまいそう、かしら?


この対談のときイフライネは呼ばれなかったから拗ねました。

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