表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/135

第14話 どこかの誰か②

続きです

1000字程度と短いですので、隙間時間などで読んでいただければ幸いです。


 仁奈の救援要請は、大騒ぎするほどの惨状ではなかった。

 おもちゃ箱を3人がかりでひっくり返しているそばで、別の3人が大喧嘩していたのだ。

 もちろん、理由はわからないが泣いている子も、外に出ようとする子もいる。


 いや、うん、これを大騒ぎするほどの惨状ではないと判断するのは、保育の現場の現実に慣れすぎているかもしれないけれど。


 子どもたちそれぞれに声を掛けて、ある程度その場が落ち着いたとき、直くんが私のエプロンを引っ張って手を差し出した。


「あー! そうだったね、直くん! ごめんね、すぐ届けるね」


 直くんの手に握られた物を受け取ると、この場を仁奈に任せて走り出した。

 急いで流くんを追いかけなくてはならない。


 送り迎えができなくなって、でも大好きなサッカーをまた始められる流くんに、自分を忘れないでほしいと直くんが願った。


 その気持ちをカタチにしようと、直くんと一緒に編んだミサンガを渡さなくてはいけないのだ。


 直くんは、小雪先生から渡して欲しいと言った。

 そのほうがお兄ちゃんは喜ぶから、と言うけれど、きっと直くんは恥ずかしかったんだと思う。



 流くんは、駅に向かう途中の大通りで信号に捉まっていた。

 全力疾走した甲斐も会ってどうにか間に合ったようだ。


「流くん!」


 振り返った流くんは、一瞬大きく目を見開いて、そしてにっこり笑う。

 私はこの笑顔が好きだ。ほんの少し控えめな、照れたような笑顔。


「どうしたんですか、小雪さん」


「これ、直くんと、一緒に、編んだの」


 呼吸が苦しすぎる。

 いつも子供たちと追いかけっこをしているから、体力には自信があるつもりだったけれど、年には勝てないのかもしれない。


 いやいや、まだ20代だ、気持ちで負けるな。


「ミサンガ……?」


「よかったぁ! 知ってたんだね」


 ずっとずっと昔に大流行したらしいその細い組紐は、手首などに結び付けて、紐が自然に切れたら願いごとがかなう、そういうおまじないみたいなものだ。


「片手で付けるの難しいので、お願いします」


 渡すだけ渡して園に戻ろうとしたけれど、確かに言われてみれば自分で結ぶにはコツがいるかもしれない。


 受け取るではなく差し出された左腕に、紐を巻く。


「ちゃんと、願い事してよね」


「……はい」


 外れてしまわないようにギュッと固く結んで、顔を上げると、流くんの真剣な目にびっくりしてしまった。


 なぜだかすごく大人びて見えて、年甲斐もなくドキリとし、固まる。


「小雪さん、俺」



 私たちは、気付くのが遅かった。

 いや、あの時、あの場にいた時点で、どうにもならなかったのかもしれない。


 信号を無視して、異常なスピードで交差点に侵入した乗用車が、別方向からの右折車と衝突し、勢いそのままに方向を変え、スピンを加え……。


 同時に気づき、同時にお互いを庇おうとした私たちは、ただ焦りのまま見つめ合って手を取り合った。


詳細を書くタイミングがあるかわからないのでここで白状すると、

当該事故車両はトニタ社のプリンスカーという設定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アジア風ファンタズィーもよろしくおねがいしまーす!
i000000
― 新着の感想 ―
[一言] 追記:お若い頃の上皇様は特別仕様の初代スカイラインやグロリアでドライブされた他、それとは別に御料車や公用車も◯産・プリンスから納入されております。 54年献上のプリンス・セダンは日◯に返還さ…
[一言] まだ読み始めたばかりなのですが… プリンスカーと言われるとトニタではなくやっちゃえ日◯の方が浮かぶマンです(心のオッサンが囁くのでついツッコミをば) (マジレスすると60年代半ばに◯産…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ