第12話 一方その頃 ★
ブクマ、評価ありがとうございます。
いつもお読みいただき、身をよじりながら喜んでおります。
さて、島流しが決行されて丸1日が経過しました。
国内はどうなっているのか、ちょっと関係者各位の様子を見てみましょう。
2019/08/25:いただいたFA貼りましたー( ゜∀゜)
──ボナヴェントゥーラ国立高等学院、談話室
「島へ向かった泥棒が、無事に港へ戻った。アニーはちゃんと島へ置いてきたそうだよ」
「え……?」
「魔導部が受刑者タグの位置を確認したが、確かに彼女は島内にいるようだ」
フィルディナンド・キャロモンテの報告に、ビアッジョ・ボナートが補足する。
クララ・フィンツィは、目の前の男たちがそのまま楽し気に話し続けるのを、心ここにあらずと言った様子で眺めていた。
「クララ、どうかした?」
プラチナブロンドの美貌の王子、フィルディナンドが黒髪の少女を覗き込むようにすると、少女は「いいえ、なんでも」と小さく笑った。
それからしばらくの間、クララはそわそわと落ち着きをなくしていたが、そのうち意を決したように顔を上げ、真っ直ぐにフィルディナンドを見つめた。
「フィル、あたし、島へ行かなくちゃ」
その言葉に、フィルディナンドとビアッジョ、さらには護衛として側に控えていたカロージェロ・コンテスティまでもが驚きの声を上げ、考え直すようにと諭す。
「島は危険なんだ、わかるだろう?」
「突然何を言い出すんだ、納得できる理由はあるのか?」
「なりません、クララ様」
クララは、男たちの勢いに気圧されように俯いたが、それでもどうにか聞き取れるほどの小さな声を絞り出した。
「山が……噴火するの」
「それは、精霊が言ってるのかい?」
これ以上怖がらせてしまわないよう、フィルディナンドが優しく問いかけると、クララは俯いたまま頷く。
──バウド公爵家
王宮騎士団の制服に身を包んだ男が置いて行ったのは、粗末な服を着た小柄な男だった。
家令のクロードから連絡を受け、急いで帰宅したラニエロ・バウドは、男を見るなり、彼の肩を両手で揺するようにして問いかけた。
「お、おい! アニーは、アナトーリアはどうなった!」
「落ち着け、ラニエロ」
ラニエロよりほんの一瞬だけ先に到着していたバウド公爵チリッロは、取り乱す息子を窘めて席に着くようにと手で指し示した。
全く同じことを、ほんの十数分前に館の主が言っていたことを知る侍従たちは、目を細めながら茶の準備をする。
「アニーは無事に送り届けたと報告をもらった」
チリッロは先に男から受けた報告をそのまま息子のラニエロに伝え、さらに言葉を続けた。
「それから、さっきこのバルナバ君を連れて来た騎士の報告では、魔導部でもアニーが島にいることを確認できたそうだ」
「おお……。あの暴風域を抜けられたのですね」
ラニエロは昨日の朝から続く緊張を解き、大きな溜息とともに椅子へ背中を預けた。
それは貴族として褒められた姿勢ではないが、誰も咎めようとは思わない。この家に属する誰もが愛した娘、アナトーリアが無事だったのだから。
バルナバが、島までの冒険譚を身振り手振りで伝えると、貴族の父子は二人して同じ前のめりの姿勢になって話を聞き、バルナバを苦笑させた。
「あの嬢ちゃんは、かっこよかった。意地でも二人で生きてやるって思ったっすわ」
「話を聞けて安心したよ、バルナバ。ありがとう。ところで……、少々聞きたいことがあるんだが、構わないかね?」
頷くバルナバを見て、ラニエロが側に控える侍従たちに視線をやると、家令を残して皆部屋を出て行った。
バルナバはゴクリと喉を鳴らして、当主であるチリッロの言葉を待つ。
──王宮、王の執務室
「アナトーリアが生きていたそうだな」
「はい」
「大変結構。生きているのなら、まだ話し合いの場も持てよう」
左丞相であるボナート公爵オネストは、だだっ広い執務室のほぼ中心に位置するソファで、重厚なテーブルを挟んで国王と相対していた。
三代目国王イルデフォンソ二世の眉間には深い皺が刻まれており、大変結構という言葉とは裏腹に、今後の対応の難しさを表している。
「話し合い、ですか」
「初めから言っておろう。島へやるなどあり得んと。生きていたのは運が良かっただけのこと。あれは死刑と同じぞ!」
「恐れながら」
オネストは激昂する国王へ、今までも再三説明した言葉をまた繰り返す。
「国を守る役目を負った巫女に暴行を加えることこそ、あってはならぬ話でございますぞ!」
「島はやり過ぎだ」
「宰相の娘を一般牢に入れられんでしょう。また、宰相の娘だからこそ王族用の牢にも入れられんのです。それに」
「『風のない晴れた日を選んだ』だろう、聞き飽きたぞオネスト。王族牢に入れて、言わせたい奴には言わせておけば良いものを」
この国で、島流しを最後に行ったのは、記録上でももう20年近く前である。
島にたどり着いた者はいない、などという話が独り歩きして、国にとっても大切な領土をかれこれ100年近く、放っておいてあるのだ。
流された者もどうせ逃げただけに決まっている、とオネストは主張する。
島の資源を捨て置くほうが由々しき問題だとも。
「なあオネスト、法規部門に確認させたが、あの島は50年以上、つまり建国以来一度も【国家として】上陸しておらん」
イルデフォンソはオネストの失態を責めている。
この国では50年を超えて国家が立ち入っていない国有地は、国民の物となる。
国民地となってから最初に土地に侵入し、なんらかの改変を行った者が次の持ち主となるのだ。
これは、国家が土地を公共事業等に活用せず無駄にするのを防止する役割を持っていた。
50年を超えて最初に島に足を踏み入れたのは、アナトーリア・バウドだということになった。
島流しの選択は、国家に最大の危機を与えていたのだ。それが国王の見解であった。
島にたどり着けずアナトーリアが死ねば、ただでさえこの件で一触即発の状態のバウド派貴族が、一斉に動き出すだろう。
アナトーリアが死なず、問題なく島へ到達してしまえば、あの島の所有権は……。
しかしオネストの考え方は違う。
息子が彼女を「国から追放したい」と言い出したとき、オネストはこれを思いついた。
未知の資源が眠る島へ、本当に誰もたどり着けないのか否かを、最も低コストで確認できるではないかと。
「だが、彼女は罪人です」
「罪人は国民ではないと? フン、本来なら聞き捨てならん発言だが、まぁいいだろう、ではすぐにも島へ誰か向かわせろ」
イルデフォンソは、こめかみを押さえながら目を閉じ、空いた手でひらひらとオネストに出て行くよう示した。
クララです! 匿名希望さまからイラストいただきました!
不穏on不穏。
バウド家はかわいい、つもり。
 




