第11話 居眠り王子です ★
まいにち暑いですなぁ!
水分補給お忘れなくー
2019/08/07:FAいただきました!最後にありまーす( ゜∀゜)
──遥か古の時代、ヒトは島の神と精霊の声を聞き、人々の祈りを届ける者、つまり巫女や覡を島に遣わしていた。
島と国とを行き来して、それぞれの声を届け、祈るのが彼らの役目で、それは精霊を見、その声を聞くことのできる者だけが担うことができた。
ヒトの祈りをもって力を得る精霊と、精霊の力によって安寧が守られるヒトとの蜜月関係。
それが100年前、ブールとカルディアの戦が始まる直前に、巫覡の役目が代替わりし、10歳になるやならずやという少年が遣わされた。
戦の始まりを予期したカルディアの民が、最も若い覡を島に逃がした、というのが真相だろう。
その後すぐ、カルディアの正しき祈りは小さくなり、神と精霊は嘆いた。
幼い覡は、「故郷の祈りを夢に見ながら祈り続ける」と申し出る。
巫覡は祈りの媒介であり、自らの内にあるカルディアの民の祈りを、常に夢見ることでそれを精霊たちに伝え続けると。
ささやかな、眠れる覡の祈りによってこの島は生き永らえてきた──
「それで余力がないの……?」
「左様。儂らがお主を受け入れたのは、正しき祈りを持っていたからじゃが、祈りし覡に仇なすようなことがあらば容赦せん」
ゆっくりと目をあけて現れた七色の瞳は、私にただ頷くことしかさせなかった。
神の威厳というのかしら、有無を言わせない迫力がある。
そうでなくとも、祈りを忘れた人々のために、10歳前後の小さな男の子が100年眠り続けていると聞いて、それを傷つけたいと思う人は存在するんだろうか?
「お主が今後も正しく祈れば、儂らは今より動けるようになるじゃろう。そのために、こうやって姿を見せる必要があったというわけじゃ」
「声が聞けるようになったってことは、もしかして私」
『そうよー。疑似的に巫女に近い力を与えてあるのー。神の加護よー』
神の加護、そう言われて、私は咄嗟に右手の甲に目をやった。
さっき、少年のキスを受けてから妖精が見えるようになって、さらに精霊たちの声が聞こえるようになったから。
右手の甲には星型にも見える不思議なマークがついている。
これが、加護を受けた印なんだろうか。
神や精霊の求める「正しき祈り」というのはまだわからないけれど、精霊と共に生活できるなら、この1年を生き延びることができるかもしれない。
眠れる覡さんに近づかなければ、だろうけれど。
あら?でも。
「会わせたい人って……」
「もちろん、祈りし覡よ。話の続きは、奴の枕元でするか」
小さな神が楽しげに口の端を上向けた。
傷つけてはならないと言うから、居場所などは秘匿されるのかと思ったけれど、そういうわけじゃないのね。
勢いよく立ち上がったエスト少年が、私の手をとって引っ張る。
どこかへ連れて行きたいらしい。
どこかって、それはもちろん眠れる王子様のところでしょうけど。
立ち上がった私の手をぐいぐいと引っ張って歩くエストの後ろ姿に、私はどうしようもなく懐かしさを感じた。
私には弟も妹もいないし、小さな子と触れ合う機会などほとんどなかったはずだけど。
予想通りと言えばそうなのだけど、エストは私を野原の隅にある大きな祠へ連れてきた。
石造りのそれは、扉もまた石でできていて、人間の手では壊さずに開けることは不可能な気がする。
エストが口の中でもごもごと何事か呟くと、石の扉がゆっくりと開いた。
これ、エストがいないと開かないなら、私が中にいる人を傷つけるなんて不可能なのでは?
なぜ私に会わせたいのか、見当が付かないわね……。
扉の中には、下へ降りる階段があった。
イフライネが先頭に立ち、高く上げた尻尾の先を煌々と燃やしながら階段を下りていく。
イフライネの歩いたあとには、左右の壁に掛けられたランタンも順に点り、私たちは暗闇に困ることなく歩を進めることができた。
たいして長くない階段を降りきった地下の空間は、天井がとても低く、圧迫感があるせいかとても狭く見えた。
小さな部屋の真ん中に、寝台がひとつ。
その上に、ローブを纏い、深々とフードを被った人物が横たわっている。
精霊たちは我先にと寝台を取り囲んだが、私は動けずにいた。
少年だと思っていたのに、その人物の体格は子どものそれではない。
それに、100年間眠っていると聞いたから、私は干からびたミイラのようなものを想像していた。
眠ったまま、生命としての機能は終え、なんらかの方法でその精神だけがそこにあるのじゃないかしら、と。
「こっちへ来い」
エストの声は囁くように小さかったけれど、石でできた小さな部屋では、その程度でも十分反響した。
寝台に前足を乗り上げて大きく尻尾を振る狼、覡の足元で丸く寛ぐ猫、同じく肩のそばで鼻をスンスン動かすウサギ。
エナガはエストの頭の上で眠る覡を見つめるだけだったが、彼ら精霊たちの覡への信頼は十分に伝わる。
「……はい」
神秘的とも言える光景に、恐怖とは少し違う畏れに胃を鷲掴みにされながら、一歩、また一歩と寝台へ向かう。
シンプルだが質の良さそうなローブは、フードの顔周り、袖口、裾に革でちょっとした意匠が施されている。
深々と被った大きめのフードは、彼の鼻より上を完全に覆っているが、その口元はほんの少し口角が上がっているようにも見え、なぜか温かい気持ちになった。
彼の顔周りから全身に視線を向けようとしたとき、それが目に入った。
ミサンガ
キャロモンテ王国に存在しない文化であると理解しながら、私は彼の腕に巻かれたそれの名称を、用途を、淀みなく思い出して、そして……。
意識を失った。
匿名希望さまよりイラストいただきました!
ミサンガってJリーグの開幕でブームがきた(ウィキ先生調べ)らしいです。
程よく歴史を持った文化である。




