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僕は主人公なのだろうか。  作者: 亡人間
文明
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騎士の系譜

話が飛んでしまってますが、楽しんで見ていただけたらと思って書いております。

サラサラと青い風が新緑の草原を駆け回る。

鳥の声は森へ響き、時より獣の鳴き声や枝を飛び渡る騒めき、跳ねる魚の水音が大気へと賑やかに響き渡る。


ー『地球』それは生命体が生息する為に進化した生物(ほし)と言っても過言では無い。

日の光は星に多大な恩恵を与え、あらゆる生命は未来を託された方舟となり次の世代へと繋がれてゆく。



「これで何件目だ?」


また人が野生の動物に襲われた。


「最近多いよなぁ。」


「次はお前かも知れないぜ?」


「物騒な話はごめん被るよ。」


慣れた訳じゃないが死体はよく見る。

ここの商業市街地は森や川が近く、たまに街へ迷い込んだ獣が人を襲う事件が起こる。

いつか自分も襲われて命を落としてしまうのでないかと思うと不安でしょうがない。


幼い頃から正直者のジェリクトは妹と警備兵の父親の3人でこの商業市街地に住んでいる。

仕事の為に王都に行きっぱなしの父は、たまに帰ったと思えば王都で見つけた学書や指南書などつまらない物を置きにくるぐらいだ。

少し歳の離れた妹は毎日のように少し離れた村の教会まで足を運び、神学者の話を持ち帰っては飽きもせずに得意げに話してくる。


街の教会は中央広場から少し離れ、森に囲まれた丘の上にあり、高々に掲げた十字架は街の人々を見守るシンボルとして親しまれてきた。

空を描いた様にポッカリと空いた大窓は入り口まで光を取り込む設計になっていて、大広間にキッチリを並べられた横長の椅子はたくさんの仔羊を一人として帰すことなく迎え入れてくれる。


教会の裏口から入り、布で包んだ遺体を霊安室に降ろすと祈りを捧げてもらう為に神父様を呼びに行く。

しかし。その日はいつもの教会とは別の空間に認識させられた。

大窓から焼けるほどの光に照らされた修道服に身を包んだ女性は神への信仰の賜物か、人を超えた美しさで祈りを捧げるその姿は青年の目に逸らすことを拒否させた。


「この街で見る初めての朝日がこんなにも美しいなんて。」


真っ直ぐ見つめてくる大きな目に神秘的な白銀の肌と透き通った声で再び魅了される。


「……あなたは?」


「失礼しました。近くの村でお世話になっているマリシアと申します。お名前をお伺いしても?」


「は、はひっ!俺はジェリクト……。ジェリクト・二ルヴァニアです。」


「まぁ、家名を持っていらっしゃるなんて。王都からのお方?」


「いえ、王都へは一度も…。家名は祖母が過去に頂いた名残みたいで…。」


「受け継がれる栄光の証。素敵なものですね。」


「い、いえ…。そんな俺が頂いた訳じゃありませんので…。」


「ところでどなたかお探しでは?」


「そ、そうですね…。神父様はどこに…。」


「神父様ですか…。今は私が留守を預かっていますので私に出来る事ならお伺い致します。」


なんて事だ、神父様が留守だったとは…。


(この人に死体を見せれるのか?)


「そ……そうですか…。しかし遺体なので…お見せしていいものかどうか。」


「ご遺体は……霊安室でしょうか…?」


「……ご案内します。」


霊安室に突如現れたこの世の者とは思えない美しい女性に野郎共は騒がしい。

こんな嫌な役割をさせてしまってとか、お腹は空いてないかとか、疲れてないかだとか、あーだこーだ。浮かれる気持ちも分かるが場所をわきまえて頂きたい。


「あの…。この布の中…ですよね?」


割って入る声には誰も答えず、1人が無言で布を捲った。

青白い顔のすぐ下に付けられた傷はあまりにも痛々しく、固まった黒い塊が気味の悪い芸術に仕上がっている。

しかし、その時のマリシアの表情は相変わらず穏やかで、死ぬ時はこの人に看取ってもらいたいと思う程の人を安心させてしまう表情であった。


「身体を遺して逝ってしまわれたのですね。せめて……この痛々しい傷だけでも癒して差し上げることが出来たら…。」


その白く細い指が傷をなぞると、光が伴いパックリと開いた傷口をみるみる内に小さくしていくではないか。

完全に塞がった傷口は跡すら残さず綺麗さっぱり消えていて、我々は勿論だが彼女自身も呆気に取られて今の出来事が普通ではない事ぐらいしか分からないみたいだ。


「この中に魔法使いの方がいらっしゃったりします?」


いや、それはこっちのセリフで答えがあるとするならば貴女だ。それにもし魔法が使えたとしても死んだ人間の傷口を塞げるとは思えない。

古来より魔法だとか神だとか奇跡だとか、そんなものは本の物語だけで実際は見間違い、勘違いの類だと思っていた。


だがこれは見間違いではない、確かに傷口は存在していてここにいた全員が目撃した。それにこのシスターであれば人には出来ない様なこともしてのけるだろうと、少なくともジェリクトはそう核心して疑わなかった。


その後間も無く医師が到着した。

傷口が塞がった事はまず信じて貰えないと思ったのか誰一人として口に出す事はなく、知らせを受けた恋人がシスターにもたれ掛かり泣き崩れている。


(あぁ……何度も見た光景だ…。)


これをあと何回、何十回繰り返すのだろうと、その内感覚が麻痺してしまってしまうので無いかと。


「ダメなんだ。守られるだけじゃ…。」


いくら王都の統治下であるとはいえ、いずれ自分達にも降りかかるかもしれない厄災を誰かが守ってくれるなんて甘い考えは持ってはいけない。


まずは自分を守る為、そして弱い者も守る為。

ジェリクトに騎士への決意が現れ始めた。

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