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僕は主人公なのだろうか。  作者: 亡人間
二度目の過ち
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四角い星

「すーーーっ。ふぅーーーーー。」


(落ち着け……落ち着け……落ち着け…大丈夫。大丈夫。)


自身に語りかけ、深呼吸をする。


放課後になった今でもあの光景が目に焼き付いていて、勝手に脳のメモリーがその記憶だけを選びイタズラに再生してくる。思い出す度に静かな図書室中へ響き渡ってしまうのではないか、そんな脈動と共に自習に全く集中する事が出来ない。


ここまで意識をさせられてしまっては『恋』なんて文字が頭の片隅にチラホラと漂い、一度考えてしまうと中々頭から離れてくれない。受験前の大事な時期にも関わらず恋愛小説を手に取り、この想いを発散させようと試みる。


(生まれて初めて読むなぁ、こうゆう本。)


そんな時であった。この静かな図書室に似つかわしくない騒がしい足音が一直線に向かってくる。


「やっぱここに居た。帰ろ美咲。」


聞き慣れた香織の声だ、が、いつもとちょっとだけ違う。怒っているのか焦っているのか声色からはそんな感情が見受けられた。


キーンコーンカーン


午後6時を告げる金の音を背に2人は帰宅路を辿る。沈黙が歩く2人の速度を更に遅らせ、普段は気にすることの無い街頭間の暗い夜道を不気味なほど不安にさせる。


「香織…わた…。」「美咲!あのっ!」


狙ったかの様なタイミングで2人同時に口を開く。しかしここで止まらない思い切った性格が香織の長所でもある。


「旭!旭くん!春夜 旭くんだってさ!名前!」


「はる...や...くん?」


「そう!春に夜に一文字のあさひ!」


「ちょっと何っ。。。」


「もう一度言うからね!苗字は春に夜では・る・や!名前は一文字のあ・さ・ひっ!あの時のドッジの子の名前!」


「えっ。。。いやっ。名前って私はっ…。」


「ほーらぁ、顔が赤くなってますよ?マドンナさん?」


悪い笑い顔の香織が美咲の顔を覗く。


「ちょっその呼び方止めてって言ってるでしょ!」


名前を聞いた美咲はさっきの重たい時間から抜け出した様に自然と歩幅が広がり、香織もそれに合わせる。いつの間にか家の近所のコンビニまで来ていた。


「それにしても何で漢字まで知ってるの?」


「あーそれは。ほら私引退したといっても部長だったじゃん?生徒会に言ってちょっくら名簿を覗かせて貰っただけさ。」


「香織……それ職権の乱用よ?」


「乱用なんて人聞き悪いじゃないか。悪いことには使って無いんだからセーフ!それに美咲の為なんだから感謝してよね。」


「………うん。ありがと。」


「じゃっまた明日ね美咲!『恋煩い、恋は辛い。』だぞ!」


「なにそれ。じゃあ明日ね!」


美咲は家に入ると両親に軽く挨拶を済ませ自室へ向かう。小学生の頃に一度だけ授業で使ったレターセットを引っ張り出し、今の心境に合った色の便箋を選ぶ。


(えと……。書き出しは…。いや。先ずは名前から?簡潔に読みやすくでいいかな…)


勉強以外でここまで真剣に机に向かうのは初めてだ。しかし勉強している時には感じられない高揚感が美咲をある答えへと導いた。

それは今までで全く体験したことが無く、戸惑い、感情の変化を異常な程に感じ理解出来るまで否定し続けていたのかも知れない。


しかし今は分かる。これは恋なのだ。


「恋煩い。恋は辛いねぇ…。」


その日、彼女の部屋から窓を抜ける四角い星が一晩かがやいていた。

次あたりで告白された後のお話に戻りたいです。

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