クレバスに墜ちた
はじめての投稿です。あたたかく見守ってください。
スイスに一人旅をしていた大学生の工藤ジンは、旅行の最終日の前夜に氷河を歩いていた。明日には帰りの飛行機に乗らなければならない。もう少し旅を続けたい気持ちはあるが、飛行機のチケットの予約を変更するとか面倒くさそうであるし、そもそも財布も心許ない。1年間バイトして50万円貯めたがほとんど使ってしまった。帰る前に何かしてみたかった。宿からすぐ見えるところにある氷河は幻想的で最高の思い出になりそうだった。
氷河を100mほど歩くと人工の光は何もなかった。夜空の星々と山々のシルエット。自分は大自然の真ん中にいるんだと実感できた。また来ようと思った。
「うわっと!」
流石に寒くなってきたので戻ろうとしたとき、何かが飛んできた。とっさにのけぞったが、転んで滑ってしまった。運悪く3メートル先から勾配になっていてそのまま滑落してしまう。なんとか止まろうとしてみたが、何も捕まる物はない。目の前に現れたクレバスに墜ちていくのを避けることはできなかった。
幅1メートルくらいのクレバスでも墜ちていくのを止められなかった。10メートルも墜ちただろうか。幅が30cmほどになり止まった。息苦しい。
「お~い」
こんな時はどうすればいいのだろう。なんとなく日本語で助けを呼んでしまった。
「ヒルフェ!」
旅行ガイドブックに載っていた「助けて」のドイツ語を思い出した。
「ヒルフェ!」「ヒルフェ!」「ヒルフェ!」
何回も読んでみたが、夜の氷河に人が来る可能性は低い。日本にいる歌音と妹のカナのことが頭をよぎる。焦る気持ちとは裏腹にだんだん眠くなり、そのまま意識を失ってしまった。