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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
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併合


 お互いが相手を仕留めて橋を渡るという目的が生まれた途端、攻めがより過激になった。浪人風の男からしてみれば、相手の数が減った事で攻め手がより鋭くできるのだろう。


(三対一だというのに防戦しかできぬ)


 朱はしきりにそう感じていた。


 円の実力は、本来ならばもっと上であるし、なびきとの連携も加わればもう少しは善戦できるはずだった。けれども円は朱を庇いながら戦う必要があったので、十二分に力を発揮できないでいた。そして、その事に朱は気が付いている。


 何もなければ、素直に宣戦を離脱した方がいい。だが、一つの秘策を持っていたために、朱はそれができなかった。


 とは言っても、その秘策というのも円の協力なしには実現できないものであるし、ただの一度も試さずにいきなり生死のかかった実践に持ち込むのも憚られたのだ。


 しかしながら、再び自分の致命的な隙を円に救われたとき、朱はいよいよ決心した。


「なびき殿」

「うん?」

「策がある。ほんの少しだけ彼奴の気をそらして頂きたい」

「ひひひ。分かった」


 朱は頷き、一つ気合いを入れて薙刀を振り上げると、浪人風の男に切りかかった。


「はあっ」

「むっ」


 朱が全力で応戦している最中、なびきは円へと近づいて事の次第を伝えた。


「よせ、朱っ」

「あの子、何か策があるってよ」

「! アレの事か・・・一度試しておきゃよかった」


 なびきは円のそんな愚痴を聞いて、ヒヒヒと笑った。


「朱っ! こっちだ」


 その言葉を合図に朱は大きく退いた。それを許さぬように浪人風の男が追い打ちをかけるのだが、その間に巧妙になびきが割って入り、男を妨げる。


「策があるらしいから付き合ってあげてよ」

「! どけっ」

「どかない」


 真っ向から切りかかってくる太刀を寸でで躱すと、なびきは妖術を男の鼻を目掛けて放った。たちまちに形容し難い悪臭が鼻孔を貫き、男は呻き声を上げた。


 が、そこで大きく怯まなかったのが、なびきの誤算であった。


 男は強引になびきを振り払うと、そのまま脇から突きの構えを見せ全身全霊で踏み込んできた。あからさまに腕前で劣る朱を狙い、あわよくば直線上にいる円を一度に仕留める算段だ。


 なびきの言った『策があるから』という一言が男を焦らせた結果である。


 その切っ先が朱の背中を貫くか否かの間合いで、男は少なくとも朱は仕留めたと確信した。が、それは届かなかった。


 朱の姿が急に消えてなくなったかと思うと、次の瞬間には円の掌底が顔面に迫っていた。躱す間もなく、まともに掌底を喰らった男は鼻が潰され、大きくのけ反りながら、何とか足だけが無意識のうちに倒れまいと支えていた。それでも足は震え、自重を支えきれなくなり片膝をつく。


「うぐっ・・・」


 と、漏れるように喘ぐ。衝撃は思いのほか大きく脳に響き、口と鼻に血が広がっている事を理解するのに少し時間がかかった。


(・・・何が・・・起こった?)


 男はそう思った。


 揺らぐ意識と視界の中、見定めてみると朱の姿は完全に消え、太刀を捨てて代わりに黒地に赤い紋が入った西洋風のフードローブを羽織った円が残心をしているばかりだった。男は朱の正体を知らずとも、直感的に纏っているそれがさっきまでの女だと理解した。そして、その外套を羽織った円の潜在的な力が飛躍的に上がっている事も肌で感じ取っていた。


 その時、円の名を呼ぶ声がこだまして響いた。両家に報告を終えた景と棗が、急ぎ駆けつけてくれたのだ。その後ろには加勢に逸った八雲と小絲の姿も見える。


 浪人風の男は手負いの上、円たちが先に増援に恵まれた不利を覆す事は出来ぬと判断し、すぐさま身を引いた。こうなってはせめてだまし取った主義刀だけでも持ち去るほかないと思ったのだ。


 円は浪人風の男から戦意が消えたと見るや否や、なびきや駆けつけてくれた面々に礼をいう間も取らずに環の元へ駆けていった。当然、それに文句を言う者はいなかった。


 景はこのまま逃がす手はないと、八雲と棗を組ませて跡を追うように頼んだ。


 依然として緊迫した場面ではあったが、一つの間が生まれたのも事実であったので、なびきはトテトテと旧友たちに近づいて挨拶を交わす。


「やあ、皆。久しぶりだね」

「ほんま久しぶりやな、なびき」

「懐かしむ前にさっさと円を追うわよ」


 つかの間の休息も、小絲の影の中から聞こえた景の一言によって再び張り詰めたモノへと変わった。その場の全員の視線が環の元へと駆けつけんとする円の後ろ姿に集まった。


 円のローブが燃えた現場を目の当たりにしている景にとって、その後ろ姿はつい数日前までの円の姿と重なって見えていた。


「せやな。てか円の奴、太刀置いていってるやん」


 放り出されたままの形見の太刀を拾い鞘に納める小絲を見て、何故かなびきは「ひひひ」と笑っていた。


読んでいただきありがとうございます。


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