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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
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残響する沈黙

 かつての同輩が殺されると言うのに、吾大は心が騒めかない事に驚いていた。先ほどまで、あれほど円に固執していたのが嘘のように穏やかでいる。腹が座ったというのは、こういう感覚なのだろうとそんな事を考えていた。


 小舟を乗り捨てると、少し開けたところに出た。この先の橋を渡ったところが目指す紫を監禁している仮宿だった。そこへ戻る途中、ふらりと目の前に影が現れた。


「これは先生、どうなさいました? 次に会う約束は明日だったと思いますが」


 立っていたのは禍室の剣客の一人だった。先生と呼ばれた男は名を葉吹といい、禍室の大元から岩馬に使わされていた用心棒である。用心棒と言っても事実上の実権を握っているのはこの男だった。吾大たちはこの葉吹の指図を受けて、岩馬での隠秘な仕事に当たっていたのだ。


 吾大たちが指示されていたのは、とにかく大量の刀剣を回収するという仕事であった。あくまでも造るのではなく、現存する刀剣を集めて禍室へと引き渡すというのが唯一の決まりだった。その集めた武器で何をするのか、そこまでは吾大の知るところではなかった。


「どうにも虫が騒いでな。他の連中は?」

「少し事情が変わりましてね、でも直に戻ってきます」

「・・・」

「さ、どうぞこちらに」


 そういって吾大は今まさに向かっていた仮宿に葉吹を案内しようとした。だが、当の葉吹は一歩も動かずにじっと吾大がやって来た川の先を見ている。


「・・・そうもいかない様だ」

「え?」

「ツケけられたな」

「っ」


 吾大は背筋に氷水を被せられたかのように身が寒くなるのを感じた。岩馬の連中の仕事始めの時間にはまだ少しあるせいで、人っ子一人、妖怪一匹も見当たらない。だからこそ川に浮かぶ大小様々な舟を飛び移りながら、こちらへと近づいてくる一団の動きがよく分かった。


 ◇


 尾行に気が付かれた事を察すると、舟を乗り捨て堂々と吾大たちのいる陸地を目指した。


 吾大の他に誰かがいる。浪人風の男であり、恐らくは禍室の一因だろうが、佇まいが普通とは違う。俺は先頭に躍り出て、警戒心を露わにした。


 同じく俺のすぐ後ろに着地した環が、橋の向こうの小屋を指差して告げる。


「多分あそこの家だ。ここからでも分かるくらいに煙たい」

「ああ。分かった。」


 浪人風の男は吾大を庇うように前に出て、太刀の鯉口を切った。


「ここは食い止めるから、さっさと戻って他の奴等に報せてこい」

「はいっ」


 吾大は駆け足で小屋に向かって行った。俺の呼び止める声は空しく虚空に消えるばかりだった。


 この状況で増援を呼ばれるのはまずい。だがそれにも増してまずいのが、目の前の男の方だった。


「円殿。あやつ・・・かなりできるぞ」


 朱が呟いた通り、醸し出されている気迫が尋常じゃない。人であれ妖怪であれ、相手を殺す事に躊躇い持たない輩の気配だ。


 俺は太刀を抜くと、もう一度だけその場の全員に戒めた。


「無理だけはするなよ。ヤバいと思ったらすぐに逃げろ。いいな」

読んでいただきありがとうございます。


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