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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
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抑制


「ボクが女だと分かって、もやもやは晴れたかい?」


 紫さんに手を引かれ恋慕の穴に入って少したった頃、不意にそう尋ねられた。紫さんの一人称が「ボク」なので、今一つ自信が持てずにもやもやしていたのだ。


「顔に出てましたか」

「まあね。というかこんな美女が男な訳がないだろう」

「すみません」


 僕がそう言うと紫さんはケタケタと笑った。


「いいさいいさ。ただでさえ、円君の周りには美女が多いからね。ボクレベルでも見劣りしてしまうのだよ」

「確かに紫さん始め、綺麗な方が多いですね」

「お? 嬉しいことを言ってくれる。まあ、そもそも天獄屋は女の方が多いから当然と言えば当然だけどね」

「女の方が多いんですか?」

「そうさ。ナントカ女とかナントカ婆っていう妖怪は結構いるけど、その逆はあんまり思い浮かばないだろう?」

「そう言われれば・・・」


 ふとこの数日の巳坂の日常を思い返す。確かにこっちでできた知り合いも、お世話になっているお店の客層も女の方が圧倒的に多いような気がする。もっとも皆が基本的には化けている姿なのだから、見た目を鵜呑みにしていいのかどうかは分からない。


「その上、円君は結構モテるからね…特に癖の強い訳アリ女には」


 ボクも含めてね、と紫さんは悪戯っぽく言うとやはりケタケタと笑った。


「紫さんも元天聞塾生なんですか?」

「その通り」

「やっぱり同窓生は多いんですね」

「ボクも含め、特に深角さまと鈴さまのところは多いね。けど近くにいるから目立つだけで、実際はそんなに多くないよ」

「そうなんですか?」

「うん。実際には三十…もいないくらいだからね」

「あ、意外に少ない」

「だろ? その時から半分以上はボク達女妖だったしね。今となっては大体が巳坂にいるけど、さっき言った通り両当主のどちらかに転がり込んで暮らしているから、ちょくちょく会ったりはしてるんだけど」

「鈴様と深角様に雇われてるんですね」

「そうそう、日々扱き使われてるのさ。とは言っても円君よりは楽だけどね」


 と、傍目にいる紫さんが言うのだから円さんは本当に扱き使われているのだろう。ただ、この前の事件以来、円さんが呼び出しを喰らったことはないので一応は怪我に気を使っては貰っているみたいだ。


「・・・ん?」

「どうかしたのかい?」

「今、素朴な疑問を持ったんですが」

「ほう、どんな?」

「鈴様たちの前のご当主は、どちらにいらっしゃるんですか・・・」

「・・・」

「そもそも、天獄屋で大妖怪って方に会ったことがないんですが」


 大妖怪、というのは定義はまちまちだが、僕は単純に年が千年以上の妖怪はそう呼んで差し支えないと思っている。その定義が天獄屋の中でも通じるのかどうかは知らないし、正体を隠すのが常の世界で年齢などをどうやって見分けるのかも分からないが、それほどまでの妖怪に会ったことは未だにない。


「環くん、ちょっとストップ」

「はい?」


 僕を諫める紫さんの声のトーンが途端に低くなり、少しだけ違和感を覚えた。紫さんは紫さんで声の雰囲気に違わぬ渋い顔をしてうんうんと唸って言葉を探している。


「うーん、その件は今の天獄屋ではかなりデリケートな話でね…あんまり他所に聞いて回らない方が良いよ」

「・・・」

「円君も流石にそこまでは教えてないか・・・けどごめんね、ボクも教える訳にはいかないんだ。彼が教えていないというのなら、きっと理由があるはずだからね」

「・・・分かりました」

「ままま、そんな顔しないで。本当にデリケートな話なんだ。けど、円君はずっと黙ったままなんて不誠実な事をする男じゃない。その内話してくれると思うから、気長に待ってなよ」


 ひょっとしなくても天獄屋のよろしくない部分に触れてしまっていたようだ。先日にも錬金術の塾がやっているかどうかを円さんに尋ねたところで、似た様な気まずい状況になってしまったことがあった。


 思わぬところに地雷が多いような気がするが致し方ない。まだこの世界の事がよく分かっていないのだ。そこは外様からの新参者という今の立場を十分に使わせてもらう他ない。


 そんな事を思っていると、やがて先に外の光りが見えてきた。


読んでいただきありがとうございます。


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