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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
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劇的な入場


 それから朱さんは玄さんへと変わり、一緒に錬金術の訓練をした。円さんから指示された金属の変形をよりスムーズにすることを当面の目標に据えておく。僕よりも、玄さんの方が頭一つ分コツを掴むのが早かったのが悔しかった。


 やがてキリの良いところで朝の稽古は終わった。


 部屋を出るとそのまま玄さんと共に朝食の支度を始めた。その頃、円さんは店のカウンターに座って本を読んでいた。表紙を覗き見たが、一体何語で書かれているのかすら分からなかった。


 朱さんと声を揃えて挨拶をするとくぐもったような声で返事が返ってきた。少々寝惚けているようだが、それでいて本を読んだところで頭に内容が入ってくるのか甚だ疑問である。昨晩から清肝茶を飲んでいるせいで、酒が入っていないから帰って調子が悪いのかもしれない。


「今日はこの後どうします?」


 口に咥えたお化けけむりに火を付けている円さんに、そう尋ねた。修行を付けてもらいたいのは山々だが、店の営業や他の用事だってあるはずだ。こちらにかかりっきりになってもらう訳にも行かないだろう。


 すると円さんは頬を掻きながら言った。


「朝飯食って一息ついたら、太刀を直しに『岩馬(いわま)』に行くとしよう」

「岩馬ですか?」


 岩馬は天獄屋の十三ある階層のうちの一つだ。とは言っても、僕自身名前を辛うじて知っているくらいで、どんなところなのかは全く知らない。朱さん達もここに来てからはまだ日が浅いと言っていたし、恐らくは知らないと思う。


「ああ。職工と商売職の集まる階層だ。この際だから色々と買い物をしようと思ってな」

「私たちはどうする? また留守を預かるが…」


 何かと留守を頼まれる朱さんがそう呟いた。が、円さんはそれを否定した。


「いやいや、一緒に連れていくよ。そんな非道な奴じゃないぞ、俺は」

「本当か?」

「昨日、巡も言っていた通り、いま単独で動くのは怖い。お前らも、もし俺を抜きに表を歩くなら可能な限り誰かと連れ添うように気を付けろよ」

「わかりました」


 そして各々が朝食の支度に取り掛かろうと店から奥へ引っ込もうとしたところで、朱さんが妙な事に気が付いた。


「おい、何だかこの煙、妙ではないか?」


 言われて僕も反応した。確かに円さんのお化けけむりの残りにしては煙が立ち込め過ぎている。その上風もないのにうねうねと動き、まるで意思を持って集まっているかのようだ。現に部屋の中の煙は緩やかな渦となって僕らが囲んでいる卓袱台の上に固まってきている。


「ん? あ、これは・・・」


 何事かと困惑する僕らを尻目に円さんだけは状況に得心がいったらしい。


 一体何ですか、と聞こうと思った僕の声はかき消された。煙の中から軽快なあいさつと共にセーラー服姿の女が飛び出してきたからだ。

読んでいただきありがとうございます。


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