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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
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戸惑い

「お? やっとやる気になっ―――」



 一瞬で距離を詰めて、鼻っ柱に強めのデコピンをくれてやった。一応は女だから拳骨と爪はやめておいてやる。



「ッ―――」



 何が起こったか理解の遅れたスズメは反射的に鼻を覆った。


 そうやって押さえると手と腕が死角になって真下に隙ができる。比較して俺の方が小柄だからすんなりと正面の良いポジションを取れた。


 みぞおちに掌底くらいで大人しくなるだろ。


 思うが早いか、それを実行する。しかし予想とはまるで違う手ごたえが掌から頭に伝わってきた。まるで分厚い壁に打ち込んだみたいな感触だ…さては胸をあの妙な術で鉄に変えやがったな?


 もう一度踏み込もうかと思ったが、止しておいた。意識を正常に戻したスズメには隙が無かったからだ。嬉しそうな怖い笑みをこちらに向けてきている。



「マジで中々やるじゃん」



「妙な術を使うんだな」



 始めてみるはずなのに、スズメの術の雰囲気には妙な既視感がある。


 …。



「もしかして錬金術か?」



「流石、和泉屋さんから何か教えてもらってたか? だったら俺の大将も多少は錬金術の心得があるってことも知ってるだろ。頭下げて教えてもらったんだぜ」



 そうか。確か磨角さまも元祖天聞塾に円さんと同じく通っていたと言っていた。ならば錬金術が使えるのも納得だし、それを教えこんだ手下がいるというもの何ら不思議な話じゃない。


 まさか身体を鉄にしている訳じゃないだろうから、一瞬で『皮膚を鉄でコーティングできる能力』と言ったところだろうか。見た中じゃ拳と足と胸元に術を施せるらしい。ということは全身を覆うことも可能と思って良さそうだ。


 けど、マズイな。


 それだと俺の物理的な攻撃は通用しないことになる。掌底は愚か、多分爪も歯が立たない。


 するとその時、さっきまでの稽古がフラッシュバックした。


 …鉄って事はエルガンを与えてやれば俺にだって変成できるはずだよな。ステンレス鋼とは勝手が違うが、円さんの教えによれば金属だったら問題ないと言っていたし…そうと決まれば。


 俺は足を使って素早く動き、スズメの周りを旋回し始めた。ヒットアンドウェイの要領でちまちまとした攻撃を彼女に繰り出す。思惑通り俺が攪乱作戦に出たと思ってくれたようで、防御に徹してくれた。



「どうした? ビンタで俺を止めようってか?」



 やがて身体を丸め、全身を鉄化させた。作戦通りだ。


 俺はスズメの体に優しく手を触れ、一気にエルガンを注入した。確かに手ごたえはステンレス鋼とは違ったが金属変成は問題なくできそうだ。


 すると次の瞬間、悲鳴が庭に響いた。



「にゃああああああああっ!?」



 断っておくが猫のような悲鳴を上げたのは俺じゃない。スズメは涙を流しながら錬金術を解き、悲鳴に似た笑い声を出して転げている。多分だけど…くすぐったいのか、コレ。



「参ったから! 降参だから!!」



 と言いながら、スズメは余裕をなくしてとうとう人化の術まで解けてしまった。すると庭の玉砂利の上には、息も絶え絶えな一匹の狸が転がっていたのである。


 正体は狸だったのか…。


 いや、それよりも。



「何すか、こいつ」



「彼女は富沢スズメと言って、見ての通りの狸だね。僕と同じく坂鐘家で預かってもらってる身で……女だてらに喧嘩っ早いんだ。この間の天聞塾との騒動は坂鐘なら皆が知るところになってるから、君の事は結構噂になってるんだ。和泉屋さんに腕が立って威勢のいい新顔がいるってさ」



「まさか、こいつと戦わせるために呼んだんじゃ?」



 疑惑の目を向けつつ、俺は棗を睨んだ。すると慌てた様子でソレを否定した。



「違う違う。本当に親睦に誘っただけだよ。まあスズメなりのコミュニケーションと思って許してあげて」



「まあ、戦い方が本当にケンカしたいって感じでしたから気にはしませんよ。僕も怪我をしたって訳じゃないですしね」



 僕は手拭いを取ると着物の襟を直しながらそう言った。手拭いを被った時とそうでない時の違いに、棗さんは少しキョトンとした顔になった。



「本当に変わるものだねえ」



 そんな呟きが聞こえた時、屋敷の縁側の下から何か白いモノが二つ飛び出してきた。チョロチョロと素早く動き回ってこちらに、正確には狸姿で寝転ぶスズメさんに近寄ってくる。



「うわー。あんだけ威勢よく出てったのにカッコわるーい」



「ザコってスズメのためにある言葉だよねー」



 ぐぅ、と息に似た様な声しか出せないスズメさんに対して遠慮のない罵声を浴びせる二匹の小さい獣。真っ白い体毛に覆われて、丸い耳とつぶらな瞳が可愛らしさを引き立てていた。



 フェレット…か? 


 それともイタチ? 



「小梅、梅子。あんまりスズメをイジメちゃ駄目だよ。それよりもきちんとお客様にご挨拶をしなさい」



「「はーい」」



 しぶしぶといった具合に揃った返事を出した二匹は、ドロンっという効果音が聞こえてきそうな方法で人間の姿に化ける。次の瞬間には小学生くらいの女の子が立っていた。正体を現している時は気が付かなかったけど、人間に化けると彼女たちが双子だという事が分かった。瓜二つの顔が並んでいたからだ。


 顔も背丈も着ている着物と草履の鼻緒の色まで全部揃っている。唯一違うのはおかっぱに近い髪の毛から飛び出しているサイドテールが左か右か、ということだけだ。



「初めまして。八木山小梅と」


「八木山梅子でーす」



 そんな溌剌とした挨拶が庭に響いた。それだけなら可愛らしい双子の女の子という印象なはずなのに、何故か警戒心を持ってしまう。本能と経験則がすごい警報を鳴らしているのだ。


 この双子の纏っている雰囲気や表情、目線などがどうも子供っぽくない。いや、子供には違いないのだが、ほころびのような違和感が拭えない。端的に言えばそこはかとなくマセていると表現するのがしっくりくるようなオーラだった。悪く言えば大人を舐めているとも言えるかもしれない。


 すると挨拶もそこそこに、未だ地面でぴくぴくとしているスズメさんを指でつんつんと弄び始めた。その時の双子の顔は、これ以上ないくらい悪戯な表情だった。


 やがて調子を戻したスズメさんは、



「があああっっ!!!」



 という雄叫びと共に跳ね起きて人間に化けた。



「このクソガキどもっ! いい加減にしやがれ」



 小梅と梅子はわざとらしい悲鳴を上げると、そそくさと棗さんの後ろに隠れてしまう。そして棗さんを盾にしながら、



「弱っちいのはホントじゃん」


「そうだよ、ザコ狸」



 などと挑発を繰り返しては口喧嘩に花を咲かせていた。


 棗さんはそんな彼女たちを宥めて、改めて紹介をしてくれた。



「改めてこっちが狸のスズメ、そしてこっちが貂の双子で小梅と梅子。日頃は僕ら四匹が組になって坂鐘家で仕事をしているんだ」



「…大変ですね」



 何が、とはあえて言わなかった。


 それよりも何よりも、嫌な予想が頭の中に過ぎっていた。


 棗さんは僕を誰かに会わせたいと言っていた。そしてそれは五つで一組になり、数える時の単位は「匹」になるという。


 もしかしなくても「集めの揃え」という店に行く面子はここにいる五匹で間違いなさそうだ。


 □

読んで頂きありがとうございます。


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