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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
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叱責


 中は入ってすぐに大量の本が収まった本棚が目に入り、実践の部屋とは打って変わって圧倒されるほどの閉塞感がある。その上空気が淀んでいて、埃とインクの匂いがカビでコーティングされた様な独特の香りが鼻の奥に入り込んできた。


 電灯はついていたが、中世のランプを模したような形をしており雰囲気造りはばっちりだ。


 円さんについて奥へ行くと、本当に気持ちだけ開けた空間があった。時代が掛かった木製の机の上には半分ほど溶けた蝋燭の燭台と、数冊の本、時代錯誤の羽ペンが置いてある。


 その机の両脇の壁はくり抜いて作ったかのような棚になっていた。円さんは硝子の引き戸を開けると、中にあった太刀と脇差を一振りずつ取り出したのだ。


「当面はこれで護身しようと思ってな」

「へえ」

「なんと、剣術の心得があるのか」

「まあな」


 朱さんはまじまじと円さんの両手にある得物を見ていた。心得があるのだから、武器を見て心躍らせるのは無理もないことだろう。俺は意外性に驚きこそしたが、別段関心は持たなかった。


「しかし見事だな。改めてみてもよいか?」

「ああ。というか持ち歩く前に朱に見てもらいたかったんだ。長い事飾り物にしちまったからな」

「うむ」


 そう言うと朱さんは丁寧に太刀の方から受け取って正座した後、色々と改め出した。頭身を抜いてみたり、刃や柄を鋭い目で見ていた。やがて二振りの刀を改めると、ふうっと一つ息を吐いた。


「どうだ?」

「脇差の方は差し支えあるまい。日頃から手入れをしていたかのようであった。あれには霊験あらたかな何かを感じる。ただの刀剣ではあるまい」


 それは俺も薄々ながら感じ取っていた。何となく脇差の周りの空気が、この埃っぽい部屋の中にあって馬鹿に澄んでいる様な気がしていたのだ。


「仰る通り。あれは『龍刀』だ」

「龍刀?」

「鱗とか骨とか、龍の体の一部を加工して鍛えた武器の総称だ。こいつは龍の牙を研いで作ってあるんだ」

「なるほど、ならばこの溢れんばかりの霊気も納得だ・・・問題は太刀だな。柄糸はほつれているし、巻止も緩い。はばきと目釘にはひびが入って割れかかっている。刀身は無事だが、()(まち)の少し上が僅かに刃こぼれしている…いつか高いところから落とさなかったか?」


 耳慣れない刀の部位の名が飛び交ったかと思うと、朱さんは刀よりも切れ味がありそうな眼光を円さんへ向けた。当の円さんは明後日の方を見ながら辛そうに返事をする。


「・・・去年、部屋の片付けしてる時に」


 蚊の鳴くような声量の言い訳が出ていた。


 それを聞いた朱さんからは、わなわなと怒気が立ち込める。


「貴様、武士の魂ともいえる刀を…」

「いや、俺は武士じゃないし、素手で戦うし」

「そういう問題ではない! あれだけ見事な造りの刀だぞ。粗悪に扱う事がそもそも間違いなのだ!」


 物凄い剣幕で責める朱さんに、円さんは近所の子供の様に「すみません」とたじろぎながら言った。


「ともかく太刀は直さなくちゃな」

「ああ、そうするべきだ。下手をすれば鞘から抜いた勢いで刀身が飛んでしまうだろう」


 呆れたのか、素直に謝ったことを許したのかは知れぬが、朱さんは力が抜けたように呟いた。


読んでいただきありがとうございます。


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