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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
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悔恨


 しばらくして巡が帰路につくと、後ろからこっそりとそれを追う玄の影があった。


「梅ヶ原様」


 玄は巡を呼び止めると、申し訳なそうに一礼した。まさか追いかけられているとは思ってすらいなかった巡は、一度驚いた顔を見せたが、すぐに朗らかな顔に戻り尋ねてきた。


「玄さん、でしたね。何でしょうか」

「先ほどの話を聞いて、お伺いしたい事がありまして」

「伺いたい事?」


 巡からしてみれば今日初めて会った相手だ、接点も薄いので尋ねられることに検討のけの字も思い付かなかった。それでも玄の顔つきから余程不安がっていることだけは汲み取れた。



「・・・円様のお召しになっていた、あの外套はそれほど貴重なものだったのですか?」


 その言葉に巡はハッとした。部下からの報告で、円は彼女らを庇う形で火炎を浴びたと聞いていたからだ。自分に非があると、玄が自責の念にかられている事はすぐに理解した。


 だからこそ、真実を告げるべきかどうかを思案して、結果としては押し黙る形になってしまった。そしてその無言の間は、玄の問いに事態は深刻であるという事を答える形になってしまっている。巡は短い間にあれこれと考えを走らせた末、真実を告げることにしたようだった。


「…ええ。とても貴重なものです」

「…」


 ただでさえ悲哀まみれの顔が、さらに暗くなってしまう。


「僕たち錬金術師は、それぞれが『オリジナル』や『奥義』と呼ばれる独自の理論を用いた錬金術を使いますが、大抵はその理論を書き記したり彫ったりしてある器具や道具を用います。彼の場合はあのローブだった。長年培われた莫大な情報と理論が施されていたはずです。普段の彼なら別口でそれを防護するための術も使うはずだが、事件当日は酷い二日酔いでまともな状態ではなかったと報告を受けました。天獄屋の酒は此の世に出回っているものよりも性質の悪いものがありますから」

「…それだけではありません。あの方は私たちを庇うのに必死でしたので」


 玄は悔しそうに顔をゆがめる。それを見て巡はすぐに助け舟を出した。


「それはウチの門弟が全面的に悪い。あなたが気に病むことではありません」

「もう一度、同じものを作るのは難しいのでしょうか?」

「はっきり申し上げれば、かなり難しいでしょうね。あれには彼だけではなく先生の理論も組み込まれていたはずですから」

「え?」


 巡は更に神妙な面持ちになり、寂しそうな瞳で玄を見て告げた。


「いずれは分かる事でしょうから、お教えします。あのローブは僕たちの先生の形見なんです」

「…形見?」

「ええ。当時の天聞塾の塾生は先生が亡くたった時、先生の使っていた道具を形見分けしました。それを『奥義』の媒介にしている者は多い。他ならぬ僕もそうです」

「…そう…ですか」

「重ねて申しますが、気に病む必要はありません。あなたがお優しい方だというのは、先ほどの様子で十分に分かりました。今、本当のことをお話ししたのは、長い間後悔をした上で真実を告げられたのでは、あまりに酷だからと思ったからです」

「…お心遣い、感謝いたします」

「それでも自責の念が残ってしまうのであれば、どうか彼のことをよろしく頼みます。彼は妖怪との縁が薄いようですから」

「妖怪との縁が薄い?」

「ええ。今まで多くの妖怪が彼の側にいましたが、いずれも何かしらの事情で彼のもとを離れていきました。だからこそ、人間の組織である天聞塾に誘っているのですが……妖怪が好きなのか、人が嫌いなのか。彼は妖怪の側から中々離れようとしないのです」


 話が終わった後、巡は深々とお辞儀をしたので玄も慌てて頭を下げた。再び朗らかな笑顔で別れの言葉を言った巡りの後ろ姿をしばらくの間、見つめる玄が佇んでいた。


 やがて巡の姿が見えなくなると、玄はそっと自分の手を胸において呟いた。


「朱。どう思う?」


 組んだ両手を胸に置き、目を瞑って着物の形を取っている朱に語り掛ける姿は、まるで祈っているかのように見える。


「一つ、考えがあるのだけれど聞いてくれる?」


読んでいただきありがとうございます。


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