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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
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罪の償い


「…おう」

「いきなり押しかけてきてすまない。少し話をする時間はあるかな?」

「ああ。上がってきなよ」

「ありがとう」


 そう言って男を店の奥の居間へと案内した。男はこの家の勝手を知っている様だ。僕はきっと旧知の間柄なのだろうと推測した。


「玄。お茶を入れてくれるか?」

「お、お茶ですか?」


 頼まれた玄さんは言いよどんだ。


 無理もない。僕達が住むここ巳坂では、お客にはお茶の代わりに酒を振る舞えと教えられるからだ。それほどまで天獄屋に住まう者は妖怪であっても人間であっても酒好きが多い。現にこれまで見舞い客には全員お酒を出していた。


「ああ。居間まで頼む」

「は、はい」


 僕は残って店番をしていようと勝手に判断したのだが、すぐに円さんに呼ばれた。


 男を座らせ、円さんは自分のすぐ後ろに座布団を二枚敷いた。ここに僕と玄さんが収まれということなのだろう。


「粗茶でございますが」

「ご丁寧にどうも」


 お茶を出し終えた玄さんはすぐに自分にも関わりのある状況だという事を察したようで、さっと座り込んだ。


 男と円さんは、まずは黙って出されたお茶を一口啜った。そう言えばお茶を飲む円さんは初めて見る。傍目には何を飲もうと分かるはずもないのに、物凄い違和感を覚えていた。


「そちら方が君から錬金術を習っているというお弟子さんたちかな?」

「ああ。こっちが環で、こっちが玄だ」

「よろしくお願いします」


 と、僕と玄さんは紹介されるがままに頭を下げた


 それからは何を言えばいいかもわからず、ただ黙り込んでしまう。口をきくきっかけが掴めていないのは円さん達も同じようで、変な間が空いてしまった。


 それに我慢できなかったのか、それとも気を利かせたのかは分からないが玄さんが助け舟をだしてくれる。


「あの、こちらのお客様は?」

「あぁ……こいつは梅ヶ原巡(うめがはらめぐり)。俺の旧友で、今の天聞塾の塾頭だ」

「て、天聞塾!?」


 その言葉に僕と玄さんは立ち上がり、身構えた。


 そうした僕らを誰が咎められると言うのか。


 天聞塾と言えば、つい一週間前に何の謂れのない僕たちを襲い、円さんに大火傷まで負わせた連中だ。しかも塾頭というからには、つまりはあいつらのボスという事だろう。


 危機的状況だというのに、円さんは動かない。それどころか、寧ろ僕らを制しするように諫めてきた。

 

「落ち着け。こいつは大丈夫だから」

「いや、そういう反応をされても仕方がない。今日はその事をお詫びするためにきたんだ」


 巡と言われた男は座布団から膝行で脇にずれると、そのまま深々と円さんに向かって頭を下げてきた。


読んでいただきありがとうございます。


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