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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第二章 岩馬
33/81

真面目な訪問者

ほぼ一年ぶりに再開いたします。よろしくお願いします。

 五月の始め。


 僕が巳坂に訪れたのは四月の終わりの事だったので、あっという間に月を跨いでしまった。


 先月の末は実に色々あった。


 そう。本当に色々あった。


 十年もの間親しんだ家と町と飼い主と別れ、僕は妖怪が跋扈する生まれ故郷のここ、天獄屋に帰ってきた。とうの昔に剥奪された家督相続の権利を訳の分からぬままに再び与えられてしまったのだ。


 そればかりか、後継ぎ候補に入ってしまったがために命を狙われる立場にもなってしまった。


 母の尽力で、かつての同窓生である古い旧友の家に匿ってもらう手筈もどういう訳か二転三転し、僕は今、錬金術師の見習いをしている。


 この錬金術の師匠というのが天獄屋でも名うての錬金術師であり、人間でありながらも妖怪たちに一目置かれている人物なのだ。師匠である和泉円さんの傘下であれば妖怪たちに狙われることもないだろうという目論見で、彼の元に預けられることになったのだが、名声には厄介事もついてくるようで、円さんは円さんで「天聞塾」という妙な集団に狙われていた。


 これまでは上手く火の粉を払っていたそうなのだが、僕とその姉弟子である玄さんと朱さんが隙を見せたばかりに、妖怪ではなく人間にも狙われるハメになってしまったのだ。


 そんないざこざをどうにか乗り越えて、ようやく一週間がたった。円さんもその時にひどい火傷を負ったのだが、手当と薬が効いたと見えてまるでピンピンとしている。


 それよりも僕と姉弟子たちは、連日やってくる円さんの怪我の見舞いにやってくる訪問客の多さに天手古舞していた。人間、妖怪を問わずお見舞いにやってきては励ましたり、馬鹿にしたりと和気藹々と話し込んで帰っていく。


「普段飲み来ない癖に、こういう時だけは来やがる」


 と、円さんは誰が来てもそう言って出迎えていた。


 とは言え、それも日を追うごとに少なくなっていき、一週間たった今はいつもの客足程度に落ち着いている。もう日常に戻ったと言って差し支えないだろう。


 ◇


「くず~や、おはらい」


 店の外から、屑屋の呼び声が聞こえている。此の世にいる時には見た事もなかったというのに、懐かしく感じてしまうのは面白いところだ。


 円さんの店の開店準備をしながら、ぼんやりとそんな事を考えている。すると、まだ開いていない店に来客があった。


「ごめんください」

「いらっしゃいませ」


 一人の男が店のガラス戸を開けて中に入ってきた。


 羽織を着た若旦那風の男であったが、気品の良さというか礼儀正しさに満ち溢れていて只者でない事は一目で見て取れた。一緒に店に出て開店の支度をしていた玄さんも、それには気が付いた様子だ。


「店主の円君はいらっしゃいますか?」


 顔と雰囲気とに合った、清々しい声だった。


「はい。すぐにお呼びいたします」


 奥にいた玄さんが返事をして自室にいた円さんを呼びに行った。その間、僕はテーブルへと案内をし、様子を伺うことにした。そんな事にも男は丁寧なお辞儀を返したのだった。


 やがて間もなく暖簾をくぐって円さんが顔を出した。


「はいはい、お待ちどうさ…」


 円さんは男の顔を見て固まった。余程意外な人物だったのかも知れない。


「やあ。久しぶり」


 男は纏っている雰囲気からは少々ズレを感じるような軽薄な態度で円さんに挨拶した。


読んでいただきありがとうございます。


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