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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第一章 巳坂
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本領

バトルシーンまで書けたー。やったー。

「さあ私たちと来てもらいます」


「わかった。ついて行く。だから術を解いてくれ」


「ご理解頂き感謝します」


 風船が割れるかのように水泡が弾けた。


 全身がずぶ濡れになってしまったが、そんなところまで気にする余裕がない。今は夢中で息をすること以外は何も考えられなかった。


「そいつらはもう関係ないだろ。離してくれ」

「流石にそこまではできませんよ。今のところ命綱ですからね」


 天聞塾の男が再び近寄り、母を拘束する。


 僕がまだ捕まっているせいで、円さんも母上も抵抗の色を見せないでいる。


 足手まといになっている、その事が何よりも腹立たしい。


「…ならせめて子供だけは離してくれ。そっちの女どもを一緒に連れて行く、お前らが満足したら女も帰す――それでどうだ?」


 僕を捉えていた優男は少し考えた。


 だが、虜は女だけの方がよしと思ったのか、多少は円さんの要望を聞いた方が後に利となると考えたのか、その提案を聞き入れた。


「わかりました、そうします。では付いてきてください。」

「ああ。その前にこれで拭いてやってくれよ。風邪ひいちまう」


 ◇


 円さんは一枚の手拭いを広げて差し出してきた。


 手すきだった男が受け取ると、僕の頭へそれを被せたのだった。


 それが故意か偶然かはどうでもいい。


 これで、ようやく本領が発揮できるのだ。


 手拭いの下で、オレは笑った。

 

 ◇


 オレの拘束はすぐに解かれた…というよりも無理矢理解かせた。

 動きを封じ、水責めなんぞしていた優男の顔面に清々しいほどの蹴りが入ったからだ。


「なっ」


 手拭いを被せた男の反応は、そう声を発するのが精一杯のようだ。反射的に応戦を試みるが、油断していた相手に先制を取るなど屋根裏の鼠を捕るより容易い。


 軽いジャブの代わりとばかりに男の手の皮膚に爪が食い込む。浅いがその分速く、そして鋭く掻いてやった。こういうダメージは単なる殴打よりも意表を突ける。


 案の定、小さな悲鳴を上げた男は体制を崩した。その流れで繰り出した回し蹴りはお手本のように男の肩に入る。骨折か、少なくとも脱臼は間違いないような鈍い音と感触が伝わってきた。

 

 残るは母上と玄さんを拘束している二人のみ。


 きっとそいつらを睨みつけてやると、力み過ぎて若干顔の変化が解けてしまう。


 手拭いの下から覗かせる、眼は釣りあがり、牙を光らせるオレの本性はさぞかし恐ろしく見えたことだろう。


「このガキ、妖怪だったのか」

「ああ、そうだよ」


 その時、玄さんを抑えていた男が拘束を解き、たじろいだ。


 玄さんの着物の袖からは腕が四本伸びている。


 慣れた動きで三本の腕は相手の襟を掴み、残るもう一本の腕は鼻先を掠める一撃を当てる。


 腕の数に混乱し、出鼻まで挫かれた男の体は軽々と宙に舞った。


 そして、その軽々しさがまるで嘘のように派手な音を立てながら地面に叩きつけられる。あまりの衝撃で床の板が割れてしまった。


「クソっ。こっちもかよ」


 一人残された男は、母を完全に盾扱いにした。


 体制を立て直される前に全員を潰したかったが、考えが甘すぎたようだ。


 が、それ以上に考えが甘かったのは母を虜にしている男だった。


 円さんは、まるで何でもないように近づく。


 その瞬間。


 母上ごと男に掌底を喰らわせたのだった。


 

 一瞬、何が起こったのか飲み込めず、オレも玄さんも動けずにいた。


 

 無傷のまま助け起こされた母上の無事を確認してもなお、驚きと混乱は消えずにいた。


 男が気絶しているということは確実にダメージが入ったはず。にも拘わらず母上が何故ぴんぴんしているのかが全く分からない。


 人間が妖怪に化かされている時の感覚とは、こう言うモノなのかもしれないと思った。

やがて母上を引き連れてきた円さんは、ぼおっと突っ立っているだけのオレ達に声をかける。


「しかし思いの他強いな、環。嬉しい誤算だった」


「…オレに手拭いを被せるように仕向けたのは、偶然――じゃないよな」


「『猫又は手拭い被ってからが本物だ』ってか? 伊達や酔狂で天獄屋に住んでる訳じゃない」


「俺たちの事はよく知っている訳だ」


 円さんは親指で母上を示すと気怠そうに答えた。


「お前の母ちゃんとは幼馴染って言ったろ。んでもって、正体を隠しておくことの大切さが分かったか」


 その言葉には玄さん共々素直に頷く。


「ええ。今後は気を付けます」


「そうだな、実感したよ」


「しかし、口悪いな」


「猫を被っていないからな」


「猫又の手拭い取ったら猫かぶりってやつだな」


「ふっるい川柳」


 鼻で笑ってやると向こう側から、ぞろぞろとやってくる一団があった。所謂、自警団という奴だった

 先頭には八雲さんと棗さんの姿があった。

 恐らくは、騒ぎが伝わってやってきたのだろう。


「で、どうする?」

「もう大丈夫だ。坂鐘の連中が来た」


 天聞塾の連中は五人とも気絶していたので、そのままで縛られ、運ばれていく。そう言えば天獄屋内での犯罪はどうのように裁かれるのだろう。天獄屋という場所が場所だけに、嫌な想像が頭の中を駆け巡る。犯罪者が人間ともなればなおさらだ。


 とは言っても命に関わるようなことにはならないだろうと、勝手に考える。


 もしそうなら円さんは放ってはおくまい。


読んでいただきありがとうざいます。


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