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里帰りした猫又は錬金術師の弟子になる。  作者: 音喜多子平
第一章 巳坂
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初歩的なことから

錬金術については追々もっと詳しく載せるつもりです。


でもこっちの小説は早くもネタ切れがががが。。。。

「ただいま」

「戻りました」


 円さんは行儀悪く足を使って、勢いよく店のガラス戸を開ける。


 中にいた朱さんはその音に驚き、更に僕たちの抱えている荷物の多さにも驚いていた。


 朱さんにも手伝ってもらい、何とか台所に運ぶ。


「すごい荷物だな」


 店でも使う中型の業務用冷蔵庫があるので、その中に矢継ぎ早に食材をしまっていった。


「この後用ができてな、さっさと食べられるように色々と買ってきた」

「では、すぐに夕餉にするか?」

「いや、まず米を炊こう。そんで待っている間に…お待ちかねの錬金術の授業といこう」


 ローブの下に幽かに見えた円さんの顔がニヤリと笑っているのは、きっと僕の目が期待で爛々としていたからだろう。


 それとは対照的に朱さんは、円さんと極力目を合わせないように顔を逸らす。


「…では私は着替えてこよう」


 そそくさと部屋へ向かおうとしている朱さんの腕を、円さんはがっしりと掴んだ。そして、僕に見せたのとはまた違う笑みを見せる。


「偶にはお前も頭を使え。環と一緒ならいい塩梅だろ」

「うう…」


 唸る様に漏れる声には、悲壮感がたっぷりとしみ込んでいる。


 が、これに関しては助け舟を出したりはしない。


 天獄屋への強制送還、いきなりの丁稚奉公に、二日続けてお偉いさんへの謁見などなど…精神的に参ってしまう出来事が多すぎた。ここらで自分の好奇心を満たしても罰は当たるまい。


 十年余年も話を聞いていれば、どうしたって興味の一つや二つ生まれてしまう。


 それをあの人との思い出と呼ぼうか、洗脳と呼ぶかはもう少ししてから決めることにしよう。


 上機嫌で米研ぎ役をかってでる。


 二合ほどの米をうきうきしながら研ぎ終えると、炊飯器のスイッチを入れた。


 快速炊きの項目が目に止まったが、僕は心で朱さんに謝りながらじっくりモードを選んだ。


 居間行くと、円さんと朱さんは既に準備を整えていた。朱さんがなぜノートを手に取ってにらめっこをしているのかは触れないでおこう。


 座布団に座ると、まず先にと新品のノートを一冊差し出された。紙片にメモを取るのも味気ないので、ありがたく頂戴する。


「さて、まずは初歩の初歩から話すとするか。知ってる事もあるかも知れねえが、それはそれとして聞いておけばいい」


 例によって円さんはタブレットを取りだした。


 現代科学の器具を用いた錬金術師から、オカルトめいた錬金術を学ぶというのは中々珍妙な経験だ。


「まず俺が扱う錬金術はカテゴリとしていれば西洋錬金術になる。東洋錬金術のことも追々教えるが、一先ずは置いておく。さて、錬金術と聞くとどうしても鉛を金に変えたり、不老不死の薬を作るようなものをイメージされるが、実際にそんな事はできはしない。多少オカルトめいた思想や発想が混入しているが、錬金術っていうのは所詮は科学の一種だからな」


 錬金術は魔法でもファンタジーでもない。


 当然の知識過ぎるので、うんともすんとも言わない。此の世で散々聞かされてきたことだ。


 しかし。


 僕のそんな常識は、いい意味であっさりと裏切られてしまった。


「けどそれは此の世での話だ。天獄屋では勝手が違う」

「え? どういう意味ですか?」

「こと天獄屋においてでは、そんな空想染みたことも実現不可能ではないってことさ。リプリー=スクロールを知ってるくらいだから、賢者の石なんかも知ってるだろ? あとで実物見せてやるよ」


「…」


 そんなコレクションを見せてくれる、みたいな風に言われても反応に困る。


 所詮、僕の持っている常識などは天獄屋に戻ってくる前のモノでしかない。


 心の底では、そんな絵空事のような錬金術が、ひょっとすればありうるのではないかと期待していたのは事実だ。


 けど、まさか本当にそんな世界だとは。


 正直に言えば唐突過ぎて、感動しているのかどうなのもかもわからない。


 そしてお構いなしに円さんの講釈は続く。


「さて、錬金術の歴史は辿って行けば紀元前にまで遡る。んなもんだから数多くの流派や理論構築がなされて今となっては色々ととんでもないことになっている。けれどもどんなものにでも革新的な人物ってのは出てくる。所謂、その人以前以後と言われるような人間だな。古典妖怪画で言えば鳥山石燕、現代妖怪画で言えば水木しげるみたいな感じだ」

「ちょっと違くないですか?」

「ともかく錬金術にもそういう人物がいて、数千年のうちに無数に枝分かれした錬金術の流派を『思弁的錬金術』と『実践的錬金術』っていう二つに分類した術師がいるんだが…朱」


 不意に名前を呼ばれたせいなのか、ビクッと朱さんの体が跳ねた。


「この間やったばかりだ、覚えているだろ? その人の名前は?」


 ・・・。


 間があった。


 朱さんは目が泳ぎながら、蚊の鳴くような声で答える。


「ろじゃー・べーこん」

「玄に聞くなよ」

「…」


 ズバリ図星を突かれ、ウッと声を出したきり朱さんは押し黙ってしまった。


「とまあ、先だって教えているのがこんな調子だから大して気負いはしなくていい」


 それからは僕への初講義と朱さんへのおさらいという事で、錬金術に関わる初歩的な技術や道具の名称の確認や歴史を簡単に解説する運びとなった。


 ◇


「ま、今日はこのくらいにしておくか」

「ううぅ」


 キリよく一時間で初講義が終わった。


 朱さんはまるで酔っぱらったかのように、ぐらんぐらんと頭を揺らしている。


 日本語ですら何を言っているかよく分からない上に、横文字のオンパレードだったから無理もない。


 僕はと言えば、中々の満足感を得ている。


 大半は既に知っている知識だったが、それを掘り下げて話してくれたので、結果としては目新しい内容も多かった。


「大丈夫ですか」


 円さんがウイスキーを割る用の水差しから、水を注いで差し出した。


 舐めるように飲むその姿は二日酔いのそれにそっくりだ。


 動けない朱さんに変わって、卓袱台の上を軽く片付ける。その内に円さんが夕飯を持ってきてくれた。


「俺は店を開けるからお前らはこっちで夕飯を済ませてくれ」


 さっき買ってきた惣菜が小鉢に盛り付けられている。一つ一つの量は少ないが種類が多いので物足りなくはなさそうだ。お櫃から飯をよそって、朱さんに手渡す。ようやく勉強酔いが覚めてきた様だった。


 またよく分からない食材を使った料理ではあったが、今は確かめる術がない。味は保証付きなので、黙って頂くことにする。


「ふう。いつにも増して美味しく感じる」


 噛みしめるように飲み込んだ朱さんは、そんな言葉を漏らす。


「環はよく平気な顔をしているな」

「まあ慣れですね。この手の話を延々と聞くのが日常だったので」


 そういうと朱さんは小さく身震いをした。


「考えたくもない。座学よりも体を動かす方が余程日々の暮らしの足しになると思うが…環も円殿も体が鈍らぬようにしなければならないぞ」

「僕はこう見えても、結構動けるヤツだと思いますよ?」


 それは嘘ではない。


 腐っても猫なのだ。


 ほのぼのと構えている様でも、いざという時の俊敏性なら、朱さんにも円さんにも劣らぬ自信がある…尤も、そんないざという時など来ては欲しくないが。

読んでいただきありがとうざいます。


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