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中二病発症

 『俺はどうしてここにいる?』兄のその言葉に彼の妹である望月もちづき 咲良さくらはため息を吐いた。また例の病気が発症したと――


「もう。お兄ちゃん。時間が無いって言ったでしょ。朝から中二病とか勘弁してよね。って、どうして泣いてるの?」


 一方の少年も戸惑っていた。

 見覚えの無い少女に兄と言われても困る。

 少女が嘘をついているようには思えない。


「大丈夫お兄ちゃん。何処か調子が悪いの?」


 訝しむ態度から一転、涙を流す蒼司朗を見て咲良は慌てる。

 兄は元来体が強くない。最近は大分調子がよくなってきたが、それでもたまに寝込む事がある。


「大丈夫だ。別に調子は悪くない」


「だったらなんで泣いてるのよ?」


 少年はそう言われて考える。何故、今自分は泣いているのだろうと。


「空が…綺麗だからだ」


「何それ?本当に大丈夫なの」


「ああ。問題無い」


「でも…」


 咲良は心配そうな顔で此方を見てくる。

 中二病だと茶化したが、兄がこうなると、その後で大抵、調子を崩してしまう。

 ひどければ入院する事もあった。

 なにかしら無茶をする兆候でもあるのだ。


「なにしてるのあなた達。早く食べないと遅刻するわよ」


 新しい声。その場にもう一人、大人っぽい少女が部屋に入ってきた。


「だって、陽菜姉。お兄ちゃんがまた中二病発症してるんだもん。俺はどうしてここにいる~って、少し前は異世界から帰ってきたとか言って、調子崩して入院したじゃん」


「…なるほどね。分かったからソウちゃんの事は私に任せなさい。サクちゃんは朝ご飯を食べてなさい。今日も朝練があるんでしょ」


「そうだけど…」


「大丈夫だから…ね」


「うん…分かった」


 不服そうにしながら、咲良は渋々と部屋を出て行った。



「さて、ソウちゃん。私の事は分かるかな?」


 少年は目の前の少女をジッと見つめる。

 スラッとした長身に長い黒髪がよく似合う。とても整った顔立ちで絶世の美女といっても言い過ぎでは無いと少年は思った。だからこそ見覚えが無いと断言できる。

 少なくとも自分の周りにはむさ苦しい連中しかいなかったからだ。


「その…あんまり見つめられると恥ずかしいんだけど」


 恥ずかしそうに顔を赤らめる少女を見て確信する。


「あんたみたい美人に知り合いはいない」


「えっ…お姉ちゃんを口説かれても困るんだけど」


「お姉ちゃんと言うと、俺はあんたの弟なのか?」


「そっか…もう――」


 その言葉に少女は一瞬目を伏せたが、気を取り直すように言葉を続ける


「貴方の名前は望月もちづき 蒼司朗そうしろう。私の可愛い弟で、私の名前は望月もちづき 陽菜埜ひなの貴方のお姉ちゃんよ。さっきまでいた子が望月 咲良。私たちの妹よ。でも、貴方にとっては違うのね」


「俺は死んだ筈だ。何故ここにいる?俺がいまどういう状態なのかアンタは分かるのか?」


「貴方の視点か見れば、別の可能性の世界からやってきたって所かな。意識だけをね」


「なるほど。望月蒼司郎という人間に俺という人格を上書きしたって事か?俺が言うのもなんだが、無茶をする」


「正直、私にはそれ以上詳しい事は分からないの。この話も貴方から訊いたことだからね。もしも自分が今と違う自分になったのなら、その自分をよろしくってね」


 陽菜埜は泣きそうな顔を誤魔化すように、作った笑みでそういった。


「そう言われても困るんだがな。さっきも言ったが俺はもう死んだ人間だ。死者が生者の行く道を阻むのは道理に外れるだろ」


 自分の人生はあそこで終わった。心残りはあれど後悔は無い。


「って、おい」


 陽菜埜が突然に自分の胸に飛び込んできた。シャンプーのいい匂いが鼻孔をくすぐり微妙に落ち着かない。相手は兄弟のつもりでも、此方にとっては見知らぬ美少女に同じなのだから。


「やっぱりソウちゃんは優しいね。ごめん。少しこのままでいさせて」


 抱きつかれる直前、陽菜埜の目に光るモノが見えた手前。振り払う事も出来ない。

 陽菜埜が落ち着くまで十分間。気まずさと、気恥ずかしさの入り交じった、なんともいえない時間を過ごす事になった。


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