プロローグ
度重なる戦乱の果て、この星の命運は尽きかけていた。
舞い上がった塵芥に空は光を閉ざし、黒い嵐が荒れ狂う。
裂けた地表からはマグマが噴き上がる。
原初に帰ったような地上の姿。
およそ生物が生存不可能な環境の中で少年は立ち上がる。
それが意味が無いと分かっていても。
意義も主義も吹き飛び、ただ破滅に向かうために。
ケジメをつけるために。
目の前に立ちはだかる少女。
彼女を倒す為に自分は力を手にした。
それが間違いだとしても後悔はしていない。
◇ ◇
少女は見つめる。対峙する少年を。
少女は嬉しかった。少年が自分だけを見てくれる事が。
全てが苦痛だった彼女にとって、少年だけが輝きだった。
敵対する関係であっても、自分だけが彼を理解できる。
私は彼を彼らを殲滅する為に作られた。彼も私を私達を殲滅する為に自らを作り替えた。
この結末は必定であり避けることなど出来はしなかった。
だけれど私の心は満たされていた。
私の精一杯の。表現方法。
嗚呼…この幸せな時がずっと続けばいいのに…
◇ ◇
しかし、終わりはやってくる。
「決着をつけよう」
「終わりにしましょう」
互いに裡にある亜空間縮退炉の制限を取り払う。
二つの莫大なエネルギーの衝突。
ここに全ては決着した。
そこにはもう、何も無かった。
筈だったのだが…
◇ ◇
少年は目が覚めると見知らぬ部屋のベットに寝ていた。
地球共々に全ては宙の塵に成り果てた筈なのに。
体を起こそうとするとやけに体が重く感じた。
全く力が入らない。エラーを走査するにも自らの管理AIであるフィアからの応答が無い。
なんとかベットから立ち上がるとカーテンの閉まってる窓際まで歩き、カーテンを開いた。
「…っ」
目に差し込んだ陽光に怯み、一瞬めを細めるが次の瞬間に目に映った光景に少年は驚愕した。
見上げる空は蒼く澄み、燦々と輝く太陽が穏やかな町並みを照らしていた。
「そんな馬鹿な…」
怨嗟の連鎖。
絶え間ない紛争。
少年が生まれた頃には地上は日の光の届かぬ極寒の地となっていた。
そして最後は共倒れ…情けのない顛末である。
目の前に広がる光景は資料しか見たことの無いような穏やかな風景。
この風景を目に焼き付けるようにと少年は穏やかな町並みを眺め続けた。
自然と頬に温かいものが伝うのを感じた。
窓に映る見知らぬ少年が涙を流しいた。
頬に手をやると、少年も同じように手を頬に――
(これは…俺か?)
よく見れば、その姿は強化処置を受ける前の自分の姿に似ている気がした。
その時、突然部屋の扉が開いた。
「お兄ちゃん。まだ寝ているの?早く起きないと遅刻しちゃうよ」
そこには黒髪のポニーテールの少女が立っていた。
知らない顔だった。しかし敵意が無いのは分かった。
だからこそ聞いてみた。
「なぁ、あんた。俺はどうしてここにいる?」