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王都へ 24

「オーレ殿、巫女様、先程の暴言を謝罪いたします。申し訳ありませんでした」

「ラスター様、謝罪などとんでもありません。ラスター様のお言葉で目が覚めた思いがいたします」


 俺は片膝を着き、頭を垂れる。


「ラスター殿、私もお礼を申し上げます。私は、私なりの騎士というものを探してみようと思います。大きな過ちを犯すところでした」

「私もオーレも、巫女はこうあるべき、騎士はこうあるべきという思いに囚われすぎていたのですね。とてもスッキリして、晴れやかな気持ちです」


「身分に囚われる必要は無いって、自分で言っておきながら 。実は私も、背伸びしていたの。ラスター様、こんな巫女なんて威厳がないでしょう?」

「まさか、そんなことはありません巫女様。時と場合によっては必要だと思いますが、自分を偽ることを女神様は望んでおられないと思いますよ」


 完全に決まった。

 俺の言葉は偽りだがな。

 

「女神様の、お気持ち……」


 2人はハッとしたように息を呑む。チョロい。

 純粋培養された少女達の無垢さに、少しだけ胸が痛い。


「オーレ殿、戦う力を求めない騎士など笑われるかもしれません。困難に直面された時、後悔するかもしれません」


「もしもそれで困ることがあったら、我々傭兵にご一報を。必ずや、お役に立ってご覧にいれます」


 もはや言うべきことはない。

 ちょっとキザに決めすぎたかもしれないが。


「ラスター殿……」


 膝を着き頭を垂れる俺に2人の表情は見えないが、感動してくれている気配はある。

 と、俺の両のこめかみに軽く触れる感触があった。

 なんだ? と思い顔を上げる。



 視界に、オーレの顔が映る。

 輝く金髪、小さな顎、白い肌、険の取れた柔らかな瞳。

 そして淡い桜色の唇。

 両手を俺の頭に添え、オーレは俺の額に口付けをした。


「ラスター殿、どうか私の騎士に」


 縋るような瞳で手を組み、真っ直ぐに俺の目を見てそう言った。

 その顔が見る見る内に紅潮していく。


 どうも、やりすぎたらしい。

 オーレの顔とは反対に、俺の顔は青ざめていく。

 多分オーレは軽々しくこんなことはしないだろう。

 初めてかもしれない、口付けした相手の顔色が悪くなるところなど見れば、また泣いてもおかしくない。


「なっ、オーレ殿、なんということを」


 照れた素振りを装い、立ち上がり背を向ける。

 密室で巫女と巫女の騎士を言いくるめ、下賤な一般傭兵ごときが口付けまでされた。

 間違いなく、死罪になる。

 理由や当人の意思は関係ない。

 これは本当にシャレにならない事態なのだ。


「ラスター様、オーレの騎士はお嫌ですか?」


 少し不安そうなシーティアの声が聞こえる。


「いえ、そんなことは。ただ、この事は内密に」

「わかっています。3人の秘密です。ねえ、オーレ?」

「ラスター殿」


 バシバシと頬を叩き赤みを取り戻していた俺は、オーレの真剣な口調に振り返る。


「ごめんなさい。今のは、あなたに戦いを押し付けようというつもりでやったのではありません。騎士のことは忘れて下さい。私の、ただの感謝の気持ちです」


「どうして私はあんなことを……」


 オーレの顔はまだ真っ赤だ。

 俺は不自然に真っ赤な頬をしているだろう。

 はあ。

 流石にここで突っぱねる程、血も涙も無い男にはなれそうにもない。


「オーレ殿、私はお側に仕えることは、できません。それでも宜しければ、喜んでオーレ殿の騎士になります」

「ラスター殿」


 固まった表情が溶けていき、弾けそうな笑顔に変わる。

 口を閉じ、我慢しているので頬を突けば本当に弾けるだろう。


「素敵。オーレにも、騎士様は必要だもの。でも、オーレばかりずるいわ。ラスター様、では私のことはシータとお呼びください」

「え、それは」


 少し頬を膨らませたシーティアがそう言ってくる。

 それはめちゃめちゃ怒られるヤツだから、ダメだ。


「巫女様のお名前を呼ぶなど、恐れ多い」

「ラスター殿。名前ではなく愛称です。それは咎められることではありません」


 絶対ヤバイって。

 むしろ名前より悪化してるぞ、それは。

 しかし後ろめたいのか、何度固辞してもオーレはシーティアの提案を支持する。


「では、余人の目が無いところでのみ、ですよ。シータ様」


 パアッとシーティアの顔に花が咲く。

 考えてみれば14歳の少女だ、こんな普通のことを必要としていたのかもしれない。


 正直に言えば俺も満更ではない。

 美少女2人と浮ついた空気に身を委ねたいのは山々だ。

 しかし身の程を弁えるというのは大層役に立つことを俺は知っている。

 2人には悪いがそちらには入っていけない。



 

 しばらく十代のガールズトークに付き合っていたところで、扉がノックされる。

 俺は扉に近付くと、押し開いた。


「さあ、お菓子をお持ちいたしました。どうぞお召し上がり下さい」


 婦人とエイゼルさん、そしてコモーノさんがいた。

 エイゼルさんとコモーノさんは俺が出てくるのを待つらしく、婦人だけが入ってきてテーブルにお菓子を用意し始める。

 騎士から傭兵に戻る時間がきたらしい。


「では、私は仕事に戻ります。巫女様、オーレ殿、お元気で」

「ラスター様、この度のご尽力、決して忘れません。女神様のご加護があらんことを」

「ラスター殿こそ、お元気で。……また、いつか」


 女神の拝礼で別れを告げる。

 外のエイゼルさんとコモーノさんが待つ扉に手を掛け、一度振り向く。

 俺を見送るためだろう、扉へと歩いてくる婦人と、その後ろの方に並ぶ金と銀の少女達。

 妙な依頼だったが無事で良かった。


 2人は微笑みながら片足を引き、腰を落とす。

 可愛らしい、淑女の礼だ。

 俺も、少し笑いながら礼を返す。

 胸の前で剣を捧げる、騎士の礼を。

女神教における任命の儀

 もう古く失われた慣習であるが、かつて女神が勇者に授けた祝福の口づけにあやかり、女性から男性に口づけによって任命を行うというもの。かなり宗教的な要素を含んだこの慣習は、教会不干渉協約以降すっかり見ることは無くなった。元々教会関係でしか行われていなかったものだが。


儀礼としての礼

 大陸における本来の公的な礼は女神の拝礼。騎士の礼は女神戦争時代に行われていた戦士の礼。現在では貴族の間で行われていた未婚女性の淑女の礼、男性の紳士の礼が民間にも広まり一般化している。紳士の礼は手を胸に添え頭を下げる普通の礼。

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