王都へ 7
中層広場を囲む商業施設の3階部分にある喫茶店は、手頃な値段で満足いく品質を提供する、ルンカト住民にも人気の場だ。
ここの住民は下層で仕事をする者がほとんどで、中層街の住民といっても富裕層では無く、ほとんどがターゼントとそう変わらない生活レベルを送る者たちだ。
つまり間もなくおやつの時間を迎えようかというこの時間帯は、子供連れの主婦で賑わう。
「あら奥さん、どうも」
「ほーら、走り回らないの」
「ねえ今日学習館で配られたお知らせ見た?」
「キャー!」
「飲み終わったら広場で遊んできていいから。下層には降りないのよ」
明らかに場違いだ。
パトロさんからこの店で待つよう言われて来たが、これも俺のメンタルを量る審査だろうか。
まるで恋する乙女のような気分でコモーノさんを待ちわびながら、テーブルのポップを見る。
「素敵な出会いを演出する、ブロンズカフェ」
やかましいわ。
壁に顔を向け店内を闊歩する子供達の視線から逃れていると、声がかかる。
「ラスターさん、お待たせしました」
ドキン、と心臓が跳ねる。
冗談だ。
「コモーノさん、おひさしぶりです」
「お久しぶりです。いきなりで申し訳ありませんが、場所を変えましょう。あ、経費で落ちますので会計はお気になさらずに」
コモーノさんに着いて施設を降りていく。
先程のレストランに入ると店員を手で制し、俺に着いてくるよう促す。
奥の従業員用通路を抜け、倉庫のような場所へ入る。
「来て頂いて助かりました。色々お聞きになりたいことがあると思いますが」
「はい。依頼の条件自体には満足してますので、嫌とかでは無いんですが、どうにもスッキリしないので。いいんですか? 聞いても」
「そうですね。支店長からは何と?」
先程聞いた内容を話す。
頷きながら、コモーノさんは説明を始める。
「その通りです。ネイハム様からのご依頼で王都へ急遽物資の移送を行うことになり、時間が無いなりに手筈を整えた。そういうことになっています」
「そういうことになっている?」
「ええ。何故私があんな回りくどい手段を使ってまでラスターさんに依頼したのか、疑問に思われたのでは?」
俺が一番聞きたかったことを聞いてくる。
話が早くて助かる。
「それをご説明するためにも、今から上層街へ移動したいと思います。よろしいですか?」
上層街は兵士や許可証を持つ人間以外立ち入り禁止のはずだ。
フディコエフも上層の一角に駐屯宿舎を割り当てられているが、兵士のための食堂や商店もある。
ブロンズ商会のコモーノさんが許可証を持っていても不思議ではないが。
「申し訳ありませんが今から荷物運びの人足になって頂きます。この背負い袋にラスターさんの背負い袋を入れて、着替えてこの箱を持って着いてきてください」
ブロンズ商会のマークが入った大きな背負い袋に服と持ち物を入れ、その上から麻袋をいくつか詰め、手渡された人足スタイルになる。
レストランを出て懐かしい中層街を歩いていく。
「門の兵士とは私がやり取りしますので、ラスターさんは人足の真似をお願いします」
任せとけ。そういうことなら演技するまでも無く、俺は自然にできるぞ。
中層街は別に外部の人間の立ち入りを禁止してはいないが、ここが住宅地である、という案内が下層にも大階段にも出ているので、下層とは打って変わって穏やかだ。
ターゼントと似た雰囲気で、時折見かける食堂や商店以外は、キレイに区画分けされた民家が延々と建ち並んでいる。
やがて民家が途切れ、上層へと続く巨大な鉄格子のような門が見えた。
「領主館へお届けする品を運んできました」
「しばらくお待ちください」
門の警備兵に許可証と、領主館のサインが入っている紙を見せたコモーノさんは、そのまま俺が背負う背負い袋の口を緩め、取り出した麻袋の一つを兵士に見せる。
木箱には茶葉だろうか、乾燥した葉が小分けされた袋に入っていた。
警備兵はレプゼント王国の正規兵であり、傭兵とは違い規律正しい教育を受けている。
彼らはある種エリートとも言える。
それでもブロンズ商会の信用か領主館のサインの威光かは分からないが、それ以上の追求を受けることなく中へと通された。
6年振りだろうか、階段を上り上層へと足を踏み入れる。
間借りしているにすぎない傭兵見習い当時は、門と宿舎の間の道以外はウロウロするな、と厳しく言われていたので、領主館へ通じる道を通るのは初めてだ。
石造りの兵士宿舎が並び、練兵場なのか広い運動場のようなものもある。
上層中央のやや東側に、立派な屋敷が見えた。
無骨な街にミスマッチな、花が咲く庭と手入れの行き届いた玄関までのアプローチが美しい。
さすがに大貴族の居城たる屋敷だ。
コモーノさんは一体俺に何をさせようというのだろうか。




