王都へ 5
登場人物紹介
ザイアン……ラスターのかつての同僚。やや太め。
シュネオ……ラスターのかつての同僚。やや細め。
ノヴィト……ラスターのかつての同僚。気弱でもやしっ子。
傭兵として活動が認められるのは16歳になってからだ。12歳で学習館を終えた子供の進路はたくさんある。
実家が農家や商店で、そのままその道に進んだり、しばらく親元でアルバイトに通ったり、多くはここから様々な職の見習いとして社会に出て行く。
都会では私塾に通い、専門知識を蓄えるパターンも増えてきているが、傭兵には私塾など無い。
現場で学ぶのだ。
俺は父のレプゼント駐屯地で3年間見習いとして雑用をこなした。
12歳から見習いとして傭兵団が受け入れてくれることなど稀だ。
これは祖父と父のおかげであり、俺にとっては幸運で、随分かわいがられたしたくさんのことを教わった。
鍛錬熱心な若い傭兵たちに散々揉まれたのも俺の財産となっている。
だから本当の意味で見習いとして傭兵団に所属したのは、15歳のこの時が初めてと言ってもいいかもしれない。
一般的な傭兵見習い入団解禁の年齢だ。
両親や駐屯地の部隊員達は、俺が他所に願書を出すと言った時かなりの難色を示した。
当然の反応だと思う。
しかし俺は反対を押し切りここへ来た。
自分から、一族代々の生え抜きのエリートコースを降りたのだ。その結果が今の俺の姿だと知ったら、15歳の俺はどう思うのだろうか。
「久しぶり。お前ら、フディコエフに正式採用されたんだな」
「おお。今じゃバリバリよ」
何言ってやがる。
1本しかラインが無いその制服は、下層街の巡回しか任されていない下っ端の証だろが。
それ以下の俺が言えた義理じゃないけどな。
「お前今何やってんだよ。他所の傭兵団に入ったのか?」
「いや、あれからいくつか所属したんだけどな」
昔の俺を知っている人間にダメな自分をさらけ出すのが恥ずかしい。
本当に情けない。
言いよどんだ俺が手に持ったままだった書類を、シュネオがスッと抜き取る。
「おい、お前これ一般傭兵の募集じゃないか」
「え、どれどれ」
こうなっては仕方ない。
おどけたように肩をすくめる。
「恥ずかしながら、今どこにも所属してないからな」
「嘘だろ。お前、俺達の中じゃ飛びぬけて優秀だったじゃんかよ」
ザイアンがまじまじと俺を見る。
少なくとも3年先輩だったこともあり、傭兵に精通していた俺は最も高い評価を受けていた。
なのに1年の見習い期間が終わった直後に、俺は自分から退団を申し出た。
「お前自分から辞めたって聞いたけど、何かあったのかよ。なんにも言わずにいなくなったけど」
「特に何かあったとかじゃないよ。それに俺は優秀でもなんでも無かったぞ」
「イヤミかよ、それ。ノヴィトが聞いたら怒るぞーきっと」
シュネオが笑いながら言う。
同期の中で一番の落ちこぼれだったノヴィトを思い出す。
何故傭兵見習いに来たのかわからない、気の弱い優しいヤツだった。
「アイツは? フディコエフに入ったのか?」
「いや、ダメだった。俺達の中で採用されなかったのはお前とノヴィトだけだったよ」
「そっか」
体力が無く、持ち前の気の弱さも手伝って指導官にいつも怒られていたっけ。
それでも笑顔を絶やさず必死に頑張っていたノヴィトを俺は密かに尊敬していた。
警備だけでなく街の案内役も兼ねるここの仕事は、優しいアイツにはピッタリだと思うのに。
1年間歯を食いしばったノヴィトからすれば、自分で言うのもなんだが、有り余る資格を持ちながらもそれをゴミのように投げ捨てた俺こそ、最もイヤなヤローだったに違いない。
「まあお前がなんで一般傭兵やってんのか知らねえけどよぉ。その気になりゃどこだって入れるだろ?」
「そうそう、それにこれだってさ、ブロンズ商会の仕事なら相当いいじゃんか」
ザイアンもシュネオも笑っている。
どこだって入れる、か。
「なんだったら俺らが口利いてやるからさ、その気になったら言ってこいよ」
「そうだな、そん時は頼むわ。もう巡回に戻らないとまずいだろ?」
ザイアンを突き放すようにそう言ってしまったが、実際下っ端にすぎないこいつらは油を売っていればまずいことぐらいわかっているはずだ。
俺だって自分のせいでそんなことになるのは気まずい。
「別にちょっとぐらいどうってことないけどな」
「ザイアン、もう行こうぜ。あんまりラスターを引き止めるのも悪いって」
「じゃ、またなラスター」
「おう、またな」
2人と別れ大階段を登っていく。
久しぶりに登るこの大階段を、今は急いで登ってしまいたかった。
フディコエフ傭兵団
都市ルンカトを拠点に活動する傭兵団。その仕事のほとんどがルンカト内で委託された警備関連の仕事であり、板付きで潤っているためルンカト外部の仕事はほとんど請け負っていない。南部では最大規模の傭兵団。
成人
この世界では十六歳から成人扱い。義務教育は十二歳まで。教育に関しては地域によって格差が大きく、学習館に通えない地域も存在するが、識字率は至って高い。成人が設けられているのは一部の職業に就く際の規制や資格の取得、飲酒の解禁などの為だが、十二歳を過ぎれば基本的に進路は自由。




