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北の都 13

 見逃した理由、か。


 アキームにも分かってるだろう。

 今言われた事が全てだ。


 そう言われるとちょっと恥ずかしい。

 俺は他人に施しを与えられるような人間じゃないし、あの子のやった事は犯罪だ。本当にあの子の事を思うなら、俺ができる事としては掏りを咎める方が多分正しい。



 それに。

 あの店で買った物じゃなく。

 盗られたのが懐中時計の方だったなら、俺はあの手を掴まずにいられただろうか。


 カツカツだった頃の俺ならどうだっただろうか。

 

 それくらいならくれてやる。

 そういう判断だったと言わざるを得ない。

 でも、それが別に間違ってたとは思わない。


「そうですね。そう思ったからです」

「……そうかよ。……ま、ラッキーだったな、あのガキにとっちゃ」


 ペッ、とアキームが唾を吐く。


「何盗られたんだ?」

「ああいう子、珍しくないんですか。この辺には」

「言っただろうが。探せばどこにだって居るぞ」




 食っていけなくなった家。

 それでもガゼルトから出て行けない家。

 親のいない子供。


 ――捨てられたか死んだか分かんねえけどな。


 ガゼルトに限った話じゃない。


「そういう意味じゃお前はやっぱボンボンで間違ってねえって事だな。そんだけだ」

「やるべきじゃ無かったと思いますか」

「俺はな。何故って余裕がねえからだ」


「余裕があったら?」

「そもそもあんな場所にいねえよ」


 アキームが肩をすくめる。

 これには少し腹が立った。


「余裕があって同じ目にあったらやるかもしれないって事ですよね?」

「俺がそういう風に育ってりゃな。俺とお前はそこが違う」


 結局そこだけだよな、と薄く笑う。

 ひねくれやがって。

 偽善と指摘されても仕方ないが、最善を尽くせないならせめてそれぐらいやって何が悪い。


「俺の先輩が言ってたんですけどね。出来ない出来ないって逃げてばっかの奴はいつか後悔するって。最高に格好悪いって」


「別に俺は格好良く生きようなんて思ってないね」

「母親の前でもですか?」


 アキームの顔が硬直する。


「何だそりゃ。変わんねえよ」


 言い過ぎたかもしれない。

 アキームが俺を偽善者だと認めさせたいように、俺もアキームに自分の正当性を認めさせたいだけ。


 確かに俺は恵まれている。

 それだけの話だ。

 それでもやっぱりアキームのような考えがあるからあの子みたいな子供がその辺にいて、あんな風に生きていくしかないのも事実だ。


 現実的に余裕が無いだけだとしても。

 出来る奴だけで少しでもやりゃいいじゃないか。


 救う力が無かったとしても、助けてあげたいと思うのは偽善でも何でもないだろ。


 自分がそれを全うできなくとも、誰かがそれをやったなら喜んであげればいい。


 中途半端な俺のやった事が救いでも何でもなく、一切良い結果にならない間違った偽善でしか無いと言うのなら、アンタはせめてそれをあの子に教えてやれよ。見てる暇があったなら時間の余裕は持ってただろ。


 できるだろ。

 アンタなら。

 

「ちょっと仕事しませんか」

「あ?」

「一時間で一万ジェル。人探しを手伝って下さい」









 やっぱりイラつく。

 お袋の事を持ち出されたからじゃない。

 それを認めんのは癪に障る。


 イラつくのはこいつがムキになってるからだ。


 結局こいつはただちょっと財布から分けてやろうって気紛れを起こしただけの野郎だ。


 くだらねえ自己満足でしかねえ。

 たまに居るバカ。

 お花畑野郎。


「断ったんですよね? 着いてこなくていいですよ」

「うるせえな。何で歩く道まで指図されなきゃいけねえんだよ」


 ほんとにくだらねえ。

 ま、いい暇つぶしの続きだ。






 ったくよ、どこを探してやがんだ。

 お前の常識じゃ所詮そんなもんなんだよ。


「見つけてどうしようってんだ」

「確かにあのままじゃ俺は後悔しそうなんで。間違ってたのは認めます」

「取り返そうってか。なあ、何盗られたんだよ」


 認めたくはねえけどな。

 ここまであんなガキにムキになる奴なんて今までいなかったからよ。


 こいつがどうするのか見てみたいんだよな。


「ペンですよ。値はそこそこですけど」

「いくらしたんだ」

「五千ジェル」

「バカじゃねえのお前。信じられねえな」


 字が綺麗になるってか?

 どうしようもねえな、こいつは。


「ガゼルトの品はやっぱり良いですよ、田舎にいた俺からしたら」

「そうかよ。だけど使い込みなんだろが」

「それは俺の自腹です」

「じゃあますますどうしようもないぜ、お前」


 訳分からんな、ほんと。

 




「よお、飯でも食わねえか。腹減っちまって。奢ってくれよ」

「これが終わったらご馳走しますよ」

「いつになんだよそれ」


 キリがねえなこりゃ。

 通りばっか歩いてて見つかる訳ねえのに。


 ガキ共がどこに居るかなんざ俺にはお見通しだ。

 ああ、マジで腹減った。

 

「おい、来な」


 見つけて何がしてえんだろうな。




「縄張りってのがあってな。あそこに居たって事はどっかこの辺だ。お前はそっち側見てけよ。俺はこっち探すからよ」

「……はい」

 

 金の事は言わねーか。

 残念なような気もするが断っちまったしな。


 ま、いいや。

 多分また見栄張っちまったような気もするし。



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