表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/197

市場に舞い降りた女神 5

 翌日も結局倉庫の荷運びに参加した。

 色々思うところはあったものの、今俺ができる仕事をやらない理由にはならない。

 昨日警備に参加した男以外は別の顔ぶれへと変わっていたが、見かけたことのある顔もあった。


 取引所で働く商人や職員に触発されたのか、荷を扱う俺は今までより格段に丁寧さを心がける。

 特に気にもしていなかった袋の縛り口や荷箱の積み方など、細かな発見が面白くて楽しく作業することができたのも大きな収穫だ。


 やがて荷を全て片付け終わり、後は時間まで軽く掃除をしながら終わりを待つだけとなった。

 日雇い人足にとって幸せな時間の訪れ。

 この後メシでも行くか、疲れも幸せのスパイスとなって会話も楽しそうだ。


「ラスター、昨日は助かったよ。お前さんもありがとな」


 掃除も終わり、担当者が倉庫を確認して終了を告げるまでの待機時間にゼンがやって来た。


「昨日は向こうにかかりっきりになっちまってさ。礼を言おうと思ったんだがお前さん帰った後でよ」

「礼なんていいですよ。あれはあれで良い経験になりましたし」

「ダクレーも礼がしたいって言ってるからよ、お前さんが良ければこの後メシでもどうかってさ」


 担当者からサインを貰った日雇い達は事務所へ日当を受け取りに動き出している。

 たまにはゼンやダクレーと親交を深めるのもいいか、と思い


「別にお礼どうこうはホントいいんですけどね。メシ誘って貰えるなら喜んで行きますよ」

「そうか。んじゃ俺らは夕方まで一旦市場閉める仕事がもうちょいあっからよ、汗でも流して待っててくれるか。職員用の使っていいからよ」


 有り難くゼンの誘いを受ける。

 ゼンと別れて事務所へひとまず日当を貰いに行くと、ドレンがいた。


「おう、昨日はご苦労だったな。今日も倉庫やってくれたのか」

「お疲れ様です。今日もやらせてもらいました」


 以下、昨日コモーノを送り届けて取引所へ戻った俺とドレンの会話、そしてゼンとダクレーとの昼食の会話。





――昨日取引所にて――


 おう、どうだった、コモーノさん何か言ってたか?

 いえ、特に何も。馬車溜まりまで送ってきました。

 そうか、良くやってくれた。今日はもう上がっていいぞ。俺がサインしといてやる。



 それよりも、ちょっと気を付けたほうがいいことがあるんですけど。

 何だ。

 コモーノさんを送って行く前、誰かに襲われたんですよ、俺。

 は?

 まあ俺っていうか狙われたのはコモーノさんなんでしょうけど。危うくサーヴァが首にぶっ刺さるとこだったんですよ、俺。




 ……サーヴァが、刺さるって、お前……そんなこたぁお前、ねぇだろ。何言ってやがる。

 いや本当ですよ、後ろからサーヴァを投げつけられたんですよ。


 ……ええ? なんだ、そのー、たまたま落ちてきたとかなんじゃねえのか? たまにあるからなぁ。


 (結局何も起きてないのに一人で騒ぎたてるのも馬鹿らしいな)


 ……いや、まぁ、そうかもしれないですけどね。

 まぁお前がそう言うんだったらコモーノさんはお得意さんだ、こっちでも気を付けるよう俺から言っとく。

 あー、はい。じゃあサインお願いします。





――市場近くの食堂にて――


 俺らはこの後まだ仕事に戻んなきゃいけねえからアレだけどよ、お前さんは酒頼んでくれてもいいんだぜ。


 昼間っからはやめときますよ。それよりドレンさんから何か言われました?

 いやぁそれがよ、親方から褒められちまってな。なぁ?


 いや俺もてっきり大目玉食らうと思って覚悟してたんだけどな。戻って親方に大丈夫か? なんて言われるとは思いもしなかったなぁ。


 ラスター、お前さんずいぶん上手くやってくれたらしいなぁ。お前さんのおかげだよ。

 まったくだ。あの時もう限界でさ。ホント悪かった、この通りだ。


 いやいや、いいんですよ。今日は何か言われました? 警備について。

 朝礼の時は何も言われなかったがよ、やたら優しい感じでよ、ちょっと気味悪かったぜ。


 俺も特に何か言われたりしなかったけどな、ゼンと同じで今日も頼むぞ、なんて言われたよ。


 あ、おかみさん、注文。




 それでよ、お前さんをメシに誘ったのにはもうひとつ理由があってよ。

 なんです?


 おい、ダクレー、驚くなよ。

 なんだよその顔。ヨメさんでも見つけたのか。

 よせよバカヤロウ。それがな、俺らの給料もうちっと上げらんねえか事務所とかけあってやるって言われたんだぜ。


 は!? 嘘だろ?

 ホントにホントよ。親方から今日そう言われたんだ。

 ――あいよ、お待ちどう様。



 良かったですね、おめでとうございます。

 いやぁ、ラスター、お前さんが昨日警備に入ってくれたおかげだと思うぜ、こんなのはよ。

 そうだな、お前が幸運を運んできてくれたのかもなぁ。


 全くその通りよ。お前さんは俺達の幸運の女神様だ。有り難や有り難や。

 女神様ラスター様ってか? はっはっはっ。

 ワッハッハ!



 ……やめてくださいよ、俺が女神様だなんて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ