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北の都 3

「では具体的に話しましょうか」


 ネイハム様との話を終え、王都のブロンズ商会所有の店、その事務所に場所を移している。


 相変わらずコモーノさん任せらしい。

 そこが大きくもあるが。


「今後我々がお仕えするのは元老院という事になります。我々と言って宜しいでしょうか?」

「別に構いませんよ」

「ガゼルト公にとっては目の上のたんこぶという訳です」


 可愛く言ったがジジイの集まりですよ。

 しかも政治の化け物達。


「現在大方の予想ではディアス王を擁する北部派閥が主流派になると見られています。陛下とネイハム様率いる元老院はあくまで抵抗勢力になるだろうと」


「はあ」

「実際それで間違いではありません」


「そしてその動きに沿う形で王宮も貴族も動いています。どちらに付こうかと。ガゼルト公はディアス王の下、不動の勢力を築くべく今画策している最中です」


 ネイハム様にあまり口を挟むのは流石に躊躇われたが、コモーノさんになら聞ける。


「今の国王陛下の力は退位しても続きますよね?」

「本来ならそうでしょうね。しかしディアス王の次の王、フォルテシア殿下のお世継ぎが実際に王として錫を振るい始めるのはいつ頃になるでしょうか? その時期を考えれば、悲しい事ですが陛下はそれまでに亡くなられてしまっているでしょう。もしかしたら、ネイハム様も」




 そうか。

 もっと先の事を見据えれば確かにそうだ。

 成る程、ガゼルト公が強大な相手にも怯まずにいられるのはこの未来を見据えた貴族の判断が分かっているからという事か。


 俺には全く見えなかったな。


「そして後継問題の失敗も陛下の求心力の低下を招く一因ともなっております。貴族の考え方としては拭えぬ傷となってしまうのも致し方ない事です」


「しかしルフォー様もいますよね? 南部の力は無視できないはずですが」

「当然です。むしろそれが無ければとっくに貴族は雪崩を打ってガゼルト公に付いています」


「ルフォー様はどうなさっているのです?」

「ネイハム様と同じです。ルフォー様は領主就任後一切王都へお越しになっておられません。見えない脅威として南部を治めておられるのです」


「ああ、何となく怖いから余計迷うと」

「そうです。その通りです」


 コモーノさんが笑う。

 まあそんなものなのかもしれないな。


「ガゼルト公にとってルフォー様はネイハム様以上にご存知無い方。手を出そうにも南部に隙はありません。静観が続くでしょう」

「うーむ」


 という事はだ。


「表面的にはガゼルト公が覇権を握る流れなんですね」

「今の所はそうですね」

「しかし即位後ひっくり返ると」

「その予定です」


 ただし脆い部分がある。


「ディアス王が裏切るのは演技という可能性は?」

「ネイハム様がそれ程愚かだとお思いですか?」


 いやいやそうじゃないですよ。

 そこまでは言ってないじゃありませんか。


 コモーノさんたら。


「だから聞けなかったんですけどね」

「フォルテシア様とネイハム様の間に何があったか全てを聞いた訳ではありませんが、信じて良いお方でしょう、ネイハム様は。そこが崩れるとすればそれまでです」


 まあそう言われると……。

 俺が気にかけても仕方ないか。


「大公就任への反対は無かったのですか」

「ガゼルト公にとってはネイハム様からルフォー様へ領主の座が渡ればディアス殿の即位は確実。大公就任には反対だとしても黙っていたと言う所でしょう。ネイハム様も仰られていましたが」


「他の貴族も口出しできません。反対すればそれはガゼルト公側に与したと取られても仕方ありませんから。しかも肝心のガゼルト公と北部派閥が黙認しているのです。先走って動くには危険が大きすぎます」




 良く分かった。

 思惑通り流れているという事が。

 後は詰めの段階という訳だ。


 しかし要はそこから先だ、俺が関わるのは。

 何をどうするのか。


「で、結局俺はどうしましょう」

「そうですね。……どうしましょうか?」


 

 は?



「何の冗談です?」

「冗談ではありませんよ? 私はあまり冗談を言わない性質だと思うのですが」


 いやいやいやいや。


「え?」

「やる事がはっきりしていればそれを命じるだけの手駒は当然ネイハム様もお持ちです。ラスターさんに詳しくご説明したのは、状況に応じて判断していただく為です」


 またかよ。

 またそんなぼんやりした依頼なのかよ。


「密偵って言ってましたけど。こうなってます、こうなりました、ってそんな杜撰な計画で上手く行くとは思えないんですけど」


「全てを暴いて来いなどとはネイハム様も思っておられないでしょう」

「じゃあ成果が得られなくても問題ないですか?」

「ご冗談を」


 おい、ずるいぞ。

 そこで俺の話だけ冗談にするんじゃない。


「無理ですよ、いくら何でも」

「そうですか? ラスターさんならと私は思っていますが。報酬も高額になると思いますし」


 ……。


「連絡手段などのサポートはこちらで抜かりなく整えますので。今度こそ途中退場はしません、お約束します」


 あ、ずるい。

 その言い方は本当にずるい。

 ここで断れば俺が悪いみたいじゃないか。


「……はあ。商人なんですね、やっぱり」

「ラスターさん程やり手ではありませんがね」


 澄ました顔。冗談も言うじゃないですか。


 ま、これも信頼の証と受け止めよう。


「元老院かー。凄く怖そうですよね」

「いえいえ、王宮で提示された実態はあくまで顧問、お茶を飲みながら貴族の相談に応じるといった程度のものですよ」


 子供でもそれは嘘だって分かるだろ。

 いわんや貴族を何とか。


「その元老院には誰が居るんですか?」

「現在はネイハム様、前宰相のスコット様、前ルベイル候ですね、お二方が主な人物と目されています」


「二人だけなんですか?」

「陛下が退位されてからの話ですから。まだ態度を表明していない貴族が動くはずがありません」


 ああ、まだ無いのか。

 しかしそう言われると国王を入れても政治実権の無い三人。ちょっと弱くないか?


 あ、でも王妃に南部領主に宰相にと繋がっている訳だ。うーん……。


 分からん。


「ガゼルト公がそこに入ろうとしたらどうするんです?」

「それは無理でしょうね。ディアス王自体は北部に肩入れする必要は無いのです、言ってしまえば。王なのですから。父親が北部貴族なればこそ、有利になるのです、北部派閥は。その肝心のガゼルト公が北部から形だけでも退くなど、派閥が崩壊しかねないとガゼルト公にも良くお分かりでしょう」


 はー。

 派閥が力であると同時に枷でもあるのか。


 難儀な事で。




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