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梟の町 11

 ラスター一行から離れて後ろを着いて行くジノとランドは、見失わないギリギリの距離を保っていた。


「どこへ向かうと思う」

「こっちには特に目ぼしい場所は無かったはずだが」


 未だに商人二人組を装っているが、残念ながら無駄な努力である事には気付いていない。


「待て、止まったぞ」


 先を行く小さな一行を見つめる。

 自分達の背後の存在には気付かないまま。


「……」

「……土下座しているように見えるが」

「そうだな。何なんだ」

「……良くは分からないが」


 例の愁嘆場である。


「どうする」

「手を拱いていても仕方ない。時間は多くないんだ、追いついてしまうか」


 頷き合うと、馬に走る合図を送ろうとする。

 その瞬間、声が掛かる。


「おお、おたくらオウルで見たな」

「あんまり上手くいってなかったようだが河岸を変えるのかい」


 驚き振り返るジノとランド。

 そこに居たのは商人と思しき集団。


「ああ、見られてたのか。恥ずかしいな」

「どうやらあそこで商売は難しそうだと思ってね」


 腹を隠した挨拶を交わす。

 ショーとホセ、と名乗るジノとランドはこんな連中など無視してしまいたいがそうもいかない。


 梟の構成員達はとにかく指示通り接触させまいと、「良かったら良い話があるんだがどうだい」などと誘導を試みる。




「なんで俺達にそんなに良くしてくれるんだい?」

「商売敵って奴は時に仲間でもあるんでね。おたくらだって分かるだろう?」

「なるほど。確かにそうだ」


 互いの思惑が交錯する接触。

 商人を装うジノとランド。

 ジノとランドを謎の傭兵から引き剥がしたい梟。


 だが梟側には誤算が生まれた。


 軍人達のつまらない小芝居。

 それを下手につつかず上手く転がそうとしている。

 しかしジノとランドは今や意識を切り替えていた。


 梟の人間達が犯した失敗。

 それはオウルで素人丸出しだったせいか、二人を侮っていた事だ。




 ジノとランドが適当に切り上げようとしなかったのは、初めて危険を感じたからだ。


 背後から気配を感じさせず近付いた事。

 鍛えられた追跡の技と、二人を見くびった油断がジノとランドを覚醒させていると梟達は気付いていない。


 確認し合うまでも無く、二人には共通の認識がある。

 決して普通の商人では無い。


「これこそ待ち望んでいた違和感だ」と。




「ところでショー」

「なんだ、ホセ」

「売り上げはどうだろう。どちらが得かな? 東に売りに行くのと、こっちに世話になるのと」


 腕組みしてジノが考える。


「そりゃこの人達にお世話になった方がいいんじゃないか? 向こうで売れると決まった訳じゃないんだ」

「だよな」


「お言葉に甘えていいかい?」

「ああ、任せとけって」


 あっさりと勧誘が上手くいったのはひどく不自然だ。何しろ本当に商売がしたい訳ではないと知っているのだ、この場で目的の追跡を打ち切ってまでジノ達が商人になりきる事にこだわるのはおかしな話だ。


 梟の面々も妙だとは思っている。

 素直に乗ってくるとは考えもしていなかった。

 乗ってこないようならせいぜい難癖つけて足止めしよう、くらいのつもりだったのだが。


 しかし乗ってきた以上後にも引けない。

 オウルに引き返させる事に成功したなら、妨害部隊の任務は成功なのだから。







 

「……話が見えんぞ」


 オウルの町の役場は、モリナという娘から謎の傭兵を探る為の情報を聞き出すべく、二部隊を繰り出した。


 これでオウル自体はかなり手薄になってしまった。

 しかしその傭兵はデュラム村へ同行するようで、片方の部隊は既に途中で引き上げさせている。

 それなりに時間が経ったが未だ妨害班から報告が無いのは将軍達がしつこく執着しているせいか。


「ですから、何故か恋仲になったようで」

「お前の娘がそう言っていたのか?」

「はい、確かにそう言っていたと」

「だからそれは偽装だろう」


 町長は眉間に皺を寄せる。


「何一つ意味が無いぞ、お前の言っている事は」

「……それは、そうかもしれませんが事実を」

「もういい。考えた所で無駄だ。あの将軍達を監視して、改めてデュラム村には人員を送り込む」


「引き上げさせた班の経過報告では例の娘と祖父、傭兵はデュラム村へ向かうようで、将軍達はその後ろを着いて行っているとの事でしたが」

「今はまだ接触させたくないな。妨害が上手くいっていればいいが」

「具体的に今後どうされるおつもりですか?」


 それが分かれば話は早い。

 多少神経質になりすぎか、とも思うが放置して追い詰められましたでは笑えない。


「面倒だな。さっさと退役が決まればまとめて始末する手もあるものを」


 無論軽々しくそういった事に踏み切らなかったからこその長いオウルの平穏ではある。

 しかしグリンのせいで確実に危険が迫っているはずの今、多少賭けに踏み切る必要もあるだろう。


「町長」


 情報の整理と対応を考える役場に、連絡係の男が入ってくる。


「何だ」

「いえ、それが。将軍達が戻ってきております」

「はあ? どういう事だ。付けていた者達は何と」

「見当たらない、との事です」


 役場に沈黙が流れる。

 

「それで」

「例の娘達が泊まった宿に入っていたようで」

「それで?」

「あ、いえ……それしか今は」


 付けていた連中を撒いたのか?

 既に接触し、何かを掴んで戻ってきた可能性がある。


「予定は全て変更だ。当面宿に居る将軍達を――」

「町長!」


 そこにもう一人飛び込んできた男。


「何だ!」

「い、いなくなりました」

「将軍達なら今こちらに戻ったそうだ」

「ち、違います! 我々の同胞です!」


 最早町長の顔は怪訝そう、では済まない。

 見ようによっては無表情とも思える程引き攣っている。


「町の周囲の監視役が全員居なくなっております」

「馬鹿な……」


 今度の静寂は単なる沈黙ではない。

 今やはっきりと、オウルの町はいつの間にか追い詰められていたのだと全員が悟る。


「……緊急事態だ。同胞を全員集めろ。それとバゼント、ブラントへの使いを出せ」


 



 ジノとランド、ラスターが引き起こした様々な勘違い。

 梟が上手く対処できなかったのはそのせいかもしれない。


 いや、オウルに目を付けたリーゼンバッハが追い込んだのだ。ジノとランドはその結果で、ラスターはたまたま居合わせただけにすぎない。


 しかし結果的にジノとランドだけなら梟は対処を間違えず、リーゼンバッハにも最後の尻尾は掴ませなかっただろう。


 ミハイルの命を受け動いていたロイ達が特定できたのは、最後の最後なのだから。




 バゼント、ブラントの梟へもたらされるはずだった報せは、エリオとバリエによって闇に葬られた。

 

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