表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

145/197

梟の町 7

 長い時間を掛けてジノとランドはようやく手掛かりになりそうな場所を発見した。

 一軒の宿の扉が開け放たれ、暗闇に明かりを撒き散らすその場所から数人の人間が慌しく出入りしている。


 暗がりに身を潜めた二人はその様子を観察する。

 運び出されたのは――人間。


 グッタリと動かない人間を数人がかりでどこかへ連れ出そうとしている。


 下手に動けば感付かれる。

 運び出す先を確認したいが、宿の明かりの下にはその後ろを見張るかのように二人の人間が見張りを続けており、こちらは動けない。


「ショー、焦りは禁物だ」

「分かってる」


 我慢も大して長く続ける必要は無かったらしく、しばらくすると出て行った人間達が宿へと戻り、扉が閉まる。


 再び暗闇の視界に変わった。

 最早濡れに濡れた二人は暗闇も雨もどうでもいい。


「どうする。あの宿に踏み込む以外有効な手は思いつかないんだが」

「いや、それは駄目だ」


 やけにきっぱり言い切ったランドの口調に、ジノは不審を抱く。


「何故だ?」

「あの明かりで見えた。間違いなく、領主館に拘束した商人のうちの一人が居た」

「何だと!」


 これだけ近くても互いの顔もはっきり見えない程だが、分かる。

 今お互いの顔に浮かんでいるのは、驚きと喜び。


 謎の人物、化け物、運び出される動かない人間、事件の発端の目撃者。


 急激に、溢れる程に。

 オウルの町は怪しい所だらけだった。







「町長。あの二人ですが」

「どうなった」

「それが。まだ留まっているようで」

「……そうか、泳がせろ。下手に手出しするな」

「いえ、それが」

「何だ? まさか許可無く手出ししたのか!?」

「いえ、違います。あの将軍と護衛の男、やはり既に何か掴んでいたようで。例の倉庫に陣取っています」

「……くそっ。グリンめ!」


 少し時を遡った、夜のオウルの町。

 町長の屋敷の会話。

 ジノとランドは、勿論バレていた。


「どう致しますか」

「待て、考えさせろ」


 苛立った町長は部屋の中を歩き回る。


 もしや西部軍の将軍交代も偽報か?

 いや、あの二人から目を逸らさせる為の策略。

 だとしたら王国側には掴まれている?


 ウロウロと歩くが簡単に答えが見つかるはずもない。


 今までこの町が疑われる事などほとんど無かったが、グリンのせいで捜査対象になったとしてもそれは疑問でも何でもない。想定の範囲内だ。


 だが西部軍のトップと側近が密かに探りに来るなど全く考えてもいなかった。

 何しろ他の場所からそんな捜査が入ったという情報など来ていない。


 どう考えても、絞られている。



 ――町長の考え、「絞られている」は当たらずとも遠からずだ。



 未だに分からない事も多い。

 王都軍の不可解な動き。

 グリンのやった事は確かに王国で近年類を見ない程の大事だが、西部軍の下っ端がたかだか十数人殺害されただけでああも軍を動かすだろうか。


 しかも大規模に布陣した割にあっさり撤収した。

 西部軍の封鎖と合わせて、実は何かの策略――。



 

「……町長?」


 急に動きを止めた町長に役場職員が声を掛けるが、動かない。

 沈黙が続く。



 グリン。お前、まさか。

 町長の頭に危険な閃きが浮かぶ。


 梟を売ったのか?


 グリンの横柄な態度は前からで、掟を破って西部で騒ぎを起こす思慮の無さも有り得なくは無かったが、今回は明らかにどこか違った。北に執着しているかのような疑いも持った。


 もしもグリンが王国に通じて梟を売ったとしたら。

 いや、まさか。それで無事に済むなど如何なグリンとて――。


 ヴァイセントのガリア王国へのシフト。

 グリンが王国から抜けるためだとすれば?


 王国と通じて何を得る?

 北。

 国境は北部軍が固めている。

 しかし、話が通じているのであれば抜けられる。梟の手からも逃れられる。




 突如として部屋から飛び出した町長に部下である役場職員は呆気に取られたが、既に町長の姿は無い。


 その町長は隣接する役場職員宿舎へと駆け込んでいた。



「はっ、はっ」

「町長。どうされました? この雨の」

「黙れ! 北部軍の動きはどうなっている」

「北部軍……ですか?」


 困惑した部下だが、すぐに冷静さを取り戻す。


「昨日届いた分の最新の報告では、特に目立った動きは無いとありますが」

「国境は? 北の国境だ」

「国境ですか? ……特に変化は無いとあります」


 町長の頭に昇った血が少し下がる。

 考えすぎか。


 いや、待て。

 話が出来上がっているなら国境軍は動く必要が無い。


「西部近辺の北部軍の動きだ。何でもいい」

「お待ち下さい」


 王国軍の動向に関する担当者は、別に間抜けな男では無い。今の警戒すべき状態で怪しい軍の動きを見逃しているはずも無いが。


「ブラントの街で火事が起き、軍が消火活動を行ったと。それくらいです」

「報告はそれだけか」

「あ、いえ……火事が起きたのが軍関連施設だったようで、物資移送の為ガゼルトから一部隊が来るらしいと」


 微妙な線だ。

 それがオウルを囲む布石とは考えすぎか。


「あの……私に何か見落としが」

「いや、すまない。いい」


 オウルを預かる長老の一人として、他の長老に連絡を取るべきか。

 それとも。


 雨が鬱陶しい。

 いつもの静かな夜なら手に取るように見えるはずなのだ、と歯噛みする。



梟の組織構成

 オウルの町は一拠点。王国に散らばった梟の拠点それぞれに長が居る。ただ、オウルは重要拠点でもあり、容易く失って良い場所では無い。


ブラントの街

 レプゼント王国北部南西に位置する街。西部バゼントと直接物資のやり取りを行う西部―北部間の北部側の街。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ