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梟の町 6

登場人物紹介

 ショー……ジノ・アレイスの変装した商人の偽名。


 ホセ……ランドの変装した商人の偽名。

 人の流れ。馬車の行き先。

 慣れない商人の真似事だが、特にそれに目を留める人間の気配も無い。


 何一つ分からない。

 時間だけが過ぎていく。


「しょ……ショー。どうだ、調子は」

「ああ、……ホセ」


 誰がどう見ても商人には見えない体格の二人。

 ジノとランドの考えた「ショー」と「ホセ」の偽名。将軍、ランドではおかしいと直前になって決めた低レベルなもの。「将軍」と「補佐」から取った。


「さっぱりだ。売れそうな相手は居ないな」

「こっちもだ」


 揃って溜息を吐く。

 やはりバゼントの街に戻った方が良いのかもしれない。

 しかしオウルの町ですらこうなのだ、極秘調査など手掛かりも技術も知識も無い二人では今以上に途方にくれる可能性が高い。


 嬌声を上げる少女達と若いカップル。

 全くもって平和そのものだ。


「ラ……ホセ。どうする」

「昼間がダメでも夜まで粘れば売れるかもしれない……一日頑張って駄目なら諦めよう」

「そうだな」


 ジノの心に焦りはあるが、無駄と決め付ける素人判断こそ全てを無駄にしかねない。

 ランドと別れ、神経を研ぎ澄ませる。






「最悪だな」

「そうだな」


 滝のような雨。

 町から人の姿が綺麗さっぱり消えうせた。

 

「何がどう売れるんだ?」

「何で俺に聞くんだ」

「独り言を言うおかしな奴か、俺は? ホセ」


 ジノとランドは扉が開けっ放しの無人の倉庫の中で雨を凌いでいる。倉庫の中はガランとしており、何も無い。


「落ち着け、ショー。ここか向こうかどっちかに絞るしか無いんだ。下手に動けばおかしな奴が来たと警戒されて売れるものも売れなくなる」


「で。じゃあどうする」

「だから俺に聞くな」

「おい」





 完全に夜の帳が落ちても雨は一向に止む気配を見せない。


「……やっぱり無理にでもあちこち押しかけた方が良かったんじゃないか」

「……それはできそうもない、って結論だったろ」


 二人は荷物を枕がわりに寝そべっている。

 倉庫の中に入れた馬も完全に睡眠体制へ移行している。


「……せめて雨足が弱くなったら見て回るか」

「……そうだな」


 すっかり投げやりになった二人だったが、やる気が無くなった訳ではない。ただ、何一つ有効な手段が見つからないのだ。


 怪しいと言って来たからには怪しい何かがあるのだろうと思っていたが。


 消沈した二人の前を何かが通り過ぎる。

 瞬間、ガバッと二人が跳ね起きる。


 視界に映った光の点はあっという間に消えていったが、慌てて二人は外を通ったその存在を追うように倉庫の入り口へと駆け寄る。


「今の、見たな?」

「ああ」


 追いかけようにもこの雨と暗闇では不可能、と二人は即座に判断していた。その辺の危険に関する判断は間違えない。無言で顔を見合わせる。


「人だったな」

「ああ」

「ランプの明かりで視界を確保した動きじゃ無かった」

「そもそもあれじゃ翳してもほとんど見えないはずだ」


 待ち望んだ怪しい何か。

 幸運にもそれがやって来た。


「馬は置いていこう。動くぞ」

「しかし明かりを持てば感付かれますよ?」

「確かにな……お前喋り方」

「まだ続けます?」

「無駄に思える努力も無駄じゃない。今知った」



 民家の窓から漏れる薄明かりを頼りに移動する、と決定した。

 あの方向へ、とにかく食らい付く。

 真っ暗な闇で足元も分からない中、難儀しながらクネクネと建物伝いに進む。




「!!」


 人影が去った方へ這うように移動を続けるジノとランドの視界に映ったもの。


 映った、とも言い難い程だ。

 武人として集中を高めていた二人だからこそ、この闇の中でも捉えられたと言って良い。


 星明りの瞬きよりも頼りなく一瞬。

 例え凝視していたとしても分からなかっただろう。


 地面を叩く雨粒の音の中、向かい側に位置する離れた民家の窓から漏れる光に照らされたか。



 それは暗闇のオウルの町を駆け抜ける、分厚い上半身の長い髪を振り乱した化け物だった。



「どうなってる……」

「今度は向こうに。どうする、ショー」


 この雨で話し声など誰にも届かないはずだが、念のため身を寄せ素早く意見を出し合う。

 怪しいのはどう見ても化け物の方。

 意見が一致した二人は今来た道を引き返す。

 手探りで、そろそろと。



梟の町 五話 をこの話の投稿と共に改稿しました。

見直した所、伝えたいニュアンスと少し違うかなと思いましたので。

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