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王国動乱 34

 暗い。

 流石のロイ達も勝手の分からない場所で、完全な暗闇を見通すことは難しい。


 探り探り行き掛けた所で、思いなおし振り返る。

 同じ事を思ったのかほぼ同時にバリエが引き返し、すぐに松明を掲げて戻ってきた。


「短いな」

「火傷も省みずひっぺがしてきたんだ、大事に扱ってくれよ」


 ラスターが先行しているので罠は無いはずだが、そう高を括って引っ掛かる程間抜けな話はない。

 何しろ理解し難い部分の多い男だ、罠をかわして進んでいる可能性だって無いとは言えないのだ。


「二人とも俺から少し距離を空けておいてくれ」


 エリオとバリエが黙って距離を空ける。

 意図は分かったらしい。


「俺達に気兼ねはするなよ」

「そうそう、あいつらには悪いけど美味しい役だと思ってるしな」


 ロイは黙ったまま慎重に先を急ぐ。

 二人がラスターの描いたであろう戦略を理解して説明する手間が無い事もだが、危険からの離脱という可能性が高い事も選んだ理由だ。

 戦いになった際に参加させるつもりは無い。


 頼りなく揺れる炎が照らし出す視界に、通路の壁が途切れているのが映る。一瞬動きを止め神経を前方に集中させて探ろうとした途端、声が聞こえた。


「ロイさん。敵はいません」


 声の主は見えないがラスターだ。

 松明を高く掲げ、開けた場所へ進み出るとラスターが立っているのが見えた。


「何か手がかりは?」

「この奥に移動していく姿は見ました。ここに何も無いことは調べてあります」


 一瞬不審に思う。

 ラスターはこの暗闇で調べたというのか?

 あの最初の出会いの衝撃で暗視能力のようなものを持っていたとしても不思議では無かったが、いくらなんでも時間が短すぎはしないか。


 こちらの接近にも気付いていたようだ。

 単独行動を主張した事や経歴に不明な点があること――様々な疑念が浮かぶ。

 もしやヴァイセントとグルなのでは、と。

 しかしこちらを陥れるつもりなら最初の乱戦で手を貸すような真似はしなくて良かったはずだ。


「そうか。追った方が良いと思うか」

「危険はあります。目的なんかは分かりませんから。でも俺の読みじゃ、連中逃げようとしてるみたいです。タッカの言った通り、船かもしれません」


 船での逃亡。

 考えても仕方がない。

 偵察という役目で考えるなら先行したラスターの情報を信じるのが得策だ。逃げ出そうとしているのなら、それを確かめるだけでも大きな意味がある。


「よし、追うぞ」

「了解」

「俺が先に」

 

 踏み出そうとしたロイを制し、ラスターが手を差し出してくる。ロイが無言で松明を渡すと身を翻しラスターが飛び込んでいく。


「最後尾はバリエ」


 その言葉を残しロイ達も光の範囲に飛び込むように後を追って動き出す。







「急げ! もう綱は解いたぞ」


 ヴァイセントのとっておきともいえる小型船。

 水夫としては未熟だが、一通りの訓練を積んだ人間達が慌しく走り回っている。

 その機敏な動きを駆り立てる原動力は、イエロの命令だけではない。シルバが変貌した姿を目にした者達の恐怖も手伝っている。


「イエロ様、ここにあった物の回収は終わりました」

「出せ」


 割り切ったはずだが、今も向かっているはずの未回収の財産を思うと怒りが込み上げる。

 この本拠地にはもう戻れないだろう。

 新たに稼ぎ出す手間を考えると、忘れようと思っても無視できない憤怒が次々と湧いてくる。


 足元が揺れ、頬にわずかな風。

 向かうべき先はひとまず北部のやや北、不可侵地帯の山脈そばの船着場だ。

 ヴァイセントがあらかじめ目を付け手を入れていた場所。


 ワイトが居るガリア王国へこのまま向かうというのは考え物だ。

 こんな行き当たりばったりの杜撰な逃亡を強いられる羽目になったというのも、考えれば考える程腹立たしい。


「運び出した物をもう一度確認し直すのだ。きちんと整頓してまとめておけ」


 部下に指示し、松明が照らし出す離れつつある地下洞窟を振り返る。

 ここは海底の底まで裂けた崖の亀裂部分にあたり、潮の満ち引きに関わらず船が水面に浮かんでいられるこれ以上ない優秀な船隠しだった。


 この拠点を放棄する失態のツケを自分が払わされるような事態だけは避けなければならない。


 それについて考えを巡らせようとしたその時、奥から揺れる炎の明かりと人影が船隠しに飛び込んでくるのが見えた。


 四人のローブ姿の人間。

 例の襲撃者達だろう。


 何、と動揺したがすぐに思いなおす。

 やはり撤退の判断は間違っていなかったのだと。

 もう届かない距離まで離れた船上から精一杯の冷笑を浴びせる。


 サウードは貴様らごときに届く存在では無い、と。






「ここまで、ですかね」

「……ああ。戻るぞ」


 海へと出て行く船を見送りながらようやく最後の判断に行き着いた事をどこか歓迎もしている。

 幹部の排除という当初の目的は半分達成したのだ。

 ヴァイセントという組織の戦力の瓦解と逃亡という報告も、大げさにはできないが一通りの成果として捉えていいだろう。


「船か。魔獣に喰われるんじゃないの」


 来た道を引き返しながら、バリエが悔し紛れに言う。

 確かにあのシルバの姿を目撃した今では、バリエの言うその残酷な光景があながち妄想とも言えない現実味を帯びて想起できる。


 だがそんな報告は当然できないし、バリエだって分かっている。

 むしろ上に立ちふさがる脅威をどうするかの方にロイはもう一度焦点を合わせる。


「ラスター、さっき少し話した上の化け物なんだが」

「ボルグと同じですかね」

「多分な」


 ルパード達を撤退させた判断が今となっては有り難い。

 足手まといなどとは思わないが、身軽になる事で縦横な動きの判断が可能だ。

 ラスターが単独行動を選ぶのも分かる気がする。


「避けていく分には問題ないだろう。広間に出てきているようならあの崖の道を進もう」

「そうだな。討ち取ってくれてりゃ一番楽なんだけどな」


 様子次第では焦らず身を潜めているのでもいい。

 急ぐ必要は無いのだ。

 ゆっくりと検討しながら引き返す。


「あの村の連中が布陣してるとか、こっちに向かってくる可能性もある」

「そうだな。状況次第では引き返して何とかあそこから戻る選択肢もあるな」

「本当かよ。海に落ちるのは洒落にならないぜ」


 ひとまずこの先の広間へ通じる道が塞がれていない事を願いつつ、ようやく終わりの見えたこの任務にどこか安堵感を覚えながらロイ達は進む。



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