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王国動乱 31

ちょっと予定が変わったので投稿しておきます。

年内にもう一度投稿できると思います。

 松明が灯る洞窟は傾斜に沿ってどんどん地下へとペール村の住人達を運んでいく。

 初めて足を踏み入れた住人達はその不気味さに飲まれ声を上げる者は少なく、置いていかれないようただ足を動かすだけだ。


「そうか。やはりシルバはどこかおかしかったのだな」

「……いや。急にというのはあるが……」


 イエロと長老衆の交わす会話が洞窟内に響く。

 といってもそれは住人達の足音やガチャガチャとうるさく音を立てる武装の響きに飲まれ、ほとんどの住人には届いていない。


「もうすぐ着くが、精神的に……何かあったのだと思うが。我々ではどうにもならなくてな」

「団長……」



 ラスター達が戦闘を繰り広げた広間に、シルバを閉じ込めた檻の部屋がある。

 イエロにとって大きな誤算だった。


 魔獣薬。

 ワイトが寄越した二本の内、残りの一本。

 あの刺客なり兵が襲い掛かって来た際にシルバを解き放ち、ぶつけてやろうと思ったのだ。


 この村の住人との騒動も予見していた。

 王国からの襲撃が再び訪れる前に資金の回収が終われば、放置して逃げ出すつもりだったのだ。

 明日か明後日には目処がつく。

 それまで時間を稼げばいい。

 残された獣と彼らの邂逅を想像して愉悦に浸るつもりでいたのだが。


 だが、あそこまで異常な変化というのは想像を超えていた。

 王国兵があのボルグでさえすぐに討ち取ったらしいという報告を、頭から信じてしまったのがいけなかったとイエロは後悔していた。


 大体、冷静なイエロの判断を狂わせたのはシルバだ。

 どう考えても腹立たしい。

 

 まあいい。

 責任は取って貰う。

 こいつらと仲良くやれ。


「この先に居る。私が近付くとどうにも……君達に任せたいのだが」

「……分かった」






 入り口の最も近くに居た見張りの男が背中を見せたまま倒れる。

 ラスターの放ったナイフがその首に突き立っている。


「くっ、てめえら」


 陽動として回りこんだエリオとバリエが注意を引いた瞬間、忍び寄っていた全員が一気に行動を開始する。

 疾走して急迫する複数の影は既に洞窟側に回りこみ、知らせに駆けた男が倒れた以上もはや襲撃の報を届ける事は不可能と覚悟した男達が武器を構える。


 エルイの剣が喉を切り裂き、サントゥの小剣が胸に突き立つ。

 ロイとパーグもそれぞれの獲物を仕留め、あっという間に仕事を終えた彼らは何事も起こらなかったかのように素早く終結する。


「よし、侵入する」


 前回と違い、今回は背後に退却路を確保しながらの侵入となる。

 万が一乱戦になりそうな場合はすぐに撤退、と事前に決めてあるのでゼナの心配も少ない。


「お前、そりゃ一体なんだ?」


 行きがけに倒れた男の首からナイフを引き抜いたラスターにバリエが尋ねる。


 青く伸びた燐光。


 ラスターが放ったナイフは異常な速度と飛距離をもって、一直線に宙を走った。

 ここに至って無駄口を叩くような人間はバリエしか居ないが、全員が同じ疑問を抱いたのだろう。

 静かに進撃しながらも聞き耳を立てている気配をはっきりと感じる。


「俺のお気に入りです」

「……ま、いいや」


 素っ気無く答えたラスターに返答するつもりが無いことを感じたバリエもそれ以上深くは聞かない。

 今は集中する時だ。


「こっちだ。タッカ、そっちはマークしておけ」


 別れ道に先日と同じく何かを振り掛け足跡を確認したハイデンがタッカに告げる。

 素早くタッカが仕掛けたのはこの薄暗い中では視認できない程細い鋼線。

 大人の首の高さに仕掛けられた凶悪な罠として、また誰かが通過したことが分かる仕掛けとして。


 前回脱出した時はちょうどYの字になっている造りだったので迷う判断も無く脱出できた。

 今回は念の為だ。

 構造を知らないこちらは先回りする追っ手の出現などに少しでも警戒をしておくに越した事はない。

 



「見覚えがあるな。あの広間が近いと思うが……何故誰も居ない?」


 中団に構えるルパードが疑問の声を上げる。

 急いではいるが道中正解の通路を導き出したり仕掛けを施しているこちらよりも、向こうの方が移動は速いはずだ。

 態勢を整える時間はあったはず。


「罠か?」

「警戒してもこれ以上は意味が無い。考えるな」

「もしかしたらあいつらが仲間割れしてくれてる可能性……がありゃいいな」


 バリエの言葉も否定はできないが、流石に楽観視し過ぎるのは良くない。

 誰もその言葉には答えず先を進む。




「……聞いたな?」

「ああ。全く何がどうなっているのやら」


 広間の近く。

 煌々と松明に照らされる入り口の暗がりから僅かに離れ、息を潜める。

 紛れもなく、怒号と剣戟の音が聞こえた。


「バリエが正解か?」

「珍しいみたいに言うなよ」

「静かに……」


 反響して聞き取り辛い音の発信源を、前進したロイは何とか導きだそうと耳を済ませる。

 広間にはこの入り口と、もう一つの道、そして部屋のような入り口がある。

 あの海からの侵入路を除いてだ。


「多分、あそこからだ」


 ロイに続き前進した一行は怪訝な顔をする。


「何で誰も居ないんだ?」

「いくら何でもおかしすぎる」

「落ち着け。俺達が知らないだけでもっと深い構造なのかもしれん」


 瞬時にそれぞれが思考を始める。

 ロイにはゼナの存在が気がかりだった。


「よし、決めるぞ。リスクとしてはこれ以上踏み込むと先の二の舞になる恐れがある。いいな?」

「ああ」

「だが情報は欲しい。あの先で何が起こっているか。そして消えた連中は何のつもりか。だからひとまずあそこを調べる価値がある。間違いは無いか?」


 ロイの言葉に全員が頷く。

 

「決める。支援班はこの入り口の確保。陽動班は広間の警戒。俺達であそこを調査。ルパード」

「問題ないと思う」

「よし、動くぞ。ラスターは遊撃だ。任せる」


 コクリとラスターが頷くと同時に飛び出す。

 エリオとバリエは素早く通路の入り口に取り付き、じっと目と耳を澄ます。

 ロイ達は喧騒の聞こえる部屋の入り口に近付くと、暗闇に消えていった。



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