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王国動乱 30

「あれはイエロか? 情報にあった男のように見えるが……」


 洞窟から出て来た複数の男達。

 人垣が割れ、あからさまに偉そうな空気を纏った男が何事か指示している。


「ルパードから合図でもあればいいんだが」


 首を曲げロイ達の方を振り仰いでいたサントゥが呟く。

 この姿勢では良く見えない。


「なんか、予想って悉く外れるもんですね」


 全くの想定外、という訳でもないが、肩透かしを食らった気分だ。

 洞窟に侵入させまいとしていた連中が道を開け、村の連中がゾロゾロと洞窟へと移動を始めている。


「戻るぞ。警備体制が整うと発見されるかもしれん」


 素早く低い姿勢のまま、後退する。

 充分離れるとロイ達の潜むポイントまで一気に駆けた。


「すまん、ロイ。チャンスが見つけられなかった」

「いや、いい。良く我慢してくれた」

「ルパード、あれはイエロか?」

「おそらくな。会話は聞き取れなかったか?」

「奴さん小声でな」


 こちらに視線を向けたサントゥの意図に応え、俺も首を振る。


「まあ、元々合流する想定ではあったんだ。残念だが、練り直しだ」


 先程までの熱気は吹き散らされ、多くの人間を飲み込んだ洞窟は草で偽装が施され、まるでそこでキャンプしているかのような体で警備体制が敷かれている。


 村の連中が出て来るまで監視。

 なんとか潜入して情報を得る。


 様々な行動が検討され、時間が経過する。

 見張りについた俺とルパードも村で得た情報など新たに雑談のように会話しながら打開策を検討する。


 と、洞窟から人が出てくると近くの人間に駆け寄り、何事か伝えている。

 警備に就いていた人間の数が減った。

 半数以上が洞窟へと入っていったのだ。


「バンデットの行動を読むなど無理ということだな」

「まあ……どうなんですかね」


 検討を続けるロイ達へ報告に行く。


「なんか見張りが減りましたよ。五人しか残ってません」

「ルパードはまだ続けているんだな?」

「ええ」

「そうか。どういう状況かは分かるか?」

「いや、ちょっと分かりません」


 思案に沈むロイ達。

 しかし新たに訪れた好機とみていいだろう。

 今なら見張りを排除するのは容易い。







 サウード全体から見れば奪われた金額など余りに小額だ。

 しかしイエロにとっては耐え難い。

 全身を焼くような憎悪がシルバを殺してしまえと喚きたてる。


「貴様は……殺しても飽きたりん」


 血走った目でシルバを睨むイエロの全身が瘧のように震えている。

 金が出て行くのと、奪われるのは全く違うのだ。


 シルバ……シルバ、貴様は。

 

 声にならない呪詛がシルバを貫く。

 当のシルバは何かを悟ったかのようにイエロを相手にする素振りも見せない。

 好きにしろ、と言わんばかりだ。


 あまりにも不遜。

 あまりにも傲岸。


 イエロは限界を迎えようとしていた。

 組織の束ねと思えばこそ、耐えてきたのだ。

 この、使えない男にも。

 だがどうだ。

 こいつは散々失敗を重ねたあげく、この身の一部を引き裂くという真似までしでかした。


 殺せ、だと?

 そんなものでは済まされない。




 枷を嵌められたシルバに笑いかける。


「よくよく考えてみればお前たちに渡す資金を早目に渡したというだけにすぎんな、確かに」


 どれ程の時間が経過したのか分からないが、戻ってきて雰囲気を変えたイエロの口調にようやくシルバが反応を見せる。


「今は大変な時だ。王国の連中がここを標的にしている。おっと、これはお前への皮肉ではないぞ」

「……」


 ジャラリと鎖の鳴る音が鈍く響く。


「ワイト様の居ない間、我らは一丸とならねばな」


 満足気なイエロの顔にシルバは嫌なものを感じ、それまで沈んでいた人生の回顧から現実へと思考を引き戻す。

 

「無駄だ。我々は組織を離れる」

「ははははは!」


 はっきりと離反の意思を示したシルバの言葉にイエロはますます上機嫌になる。

 おかしい。


「いやいや、おそらくそうではないかと思っていたぞ。実に単純な男だ。お前は取引には向かないな」

「元より取引などするつもりは無い」


 クックック、とイエロは笑う。

 

「まあお前がいつからどこでそんな考えを持つようになったかは分からんが。いや、そんな事はどうでもいい。問題は、それが許されるかという事だ」


 後ろ手に組んだイエロは鎖に繋がれたシルバの前を右に左にゆっくりと歩く。


「ここ最近の失敗はわざとか? 離反のために我々を陥れたか?」

「…………」

「だとしたら中々、いや大いに見所があると言っていいな。実に賢い」


 シルバの眼前で足を止めたイエロが笑いかける。


「止めはしない。組織の掟には反するが、お前も幹部の一人だ。その意思は尊重しよう」


 だが、と続ける。


「お前達を飼ってやった分、最後にその分の仕事はして貰おう」


 パンパン、と手を打ち鳴らすと奥から屈強な男が数人現れ、シルバの身を拘束する鎖で縛り上げる。


「せいぜい役に立つがいい。獣としてな」


 おぞましい笑みを浮かべたイエロにようやくシルバも気が付く。

 イエロが何をしようとしているのかを。



年内にまた複数話投稿します。

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