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王国動乱 24

 ヴァイセント本拠地は王国の監視が緩い海岸線沿いから、次々に荷を運び入れているようだ。

 ひとまず敵の動きを見極めるため、今は監視に徹している。


 あの村にも動きがあった。

 ルパードによると、どうやら戦闘準備ではないかということだ。


「うーん。地下は籠城か、夜逃げか。村は何でしょうね。ちょっと分かんないです」

「合流して逃げる準備じゃないか?」

「でもどこに、っていうのが。南部は難しいとして北に拠点が有るとしても、荷はその北から来てるんですよ?」


 編成は決まった。

 ロイ達の連携を崩さず、傭兵のゲリラ戦術を組み込んだ効率的な編成。


 何のことは無い、俺はどこにも属さず遊撃に回るというだけのことだ。


 俺がおそらく最も力を発揮できる形。

 最善手を本気で考えるとソロになるというのは、最早逃れられない因果か何かだろうか。


「まだ知らないルートが無いとも言えん」

「もっと地下が有るかもよ?」

「海からじゃないの?」


 タッカの言葉に皆顔を見合わせる。


「僕なら絶対船作るよ」

「船だぁ~?」


 造船は王国の法で厳しく取り締まられている。

 登録証の無い船は小舟だろうと重罪だ。

 これはレプゼント王国のみならず、どこの国でもそうだろう。また、簡単な漁船程度ならともかく、荷を運ぶに足る上質である程度大きさの必要な造船は一流の職人でなければ難しい。


「まーバンデットなら勝手に作るだろうが」

「海を使って逃れるつもりだとして、どこに? いや、それよりその場合どう動くべきだ」

「逃げると決まった訳でもない」


 ひとまず海路も有るという前提で話し合う。

 逃走経路、いや移動経路に対してこちらがどう動くかより、ヴァイセントと一戦交えた今どうするかだ。


「最善は当初の目的通り、幹部の排除だ。だがそれは難しい。もし逃走を向こうが考えてるとした場合、ではどうするか」


「国外に逃げるのならミハイル様の目的とも合致するんじゃないですか?」

「その保証が有ればな。多分、というのでは見失いましたと言うのと同じだ」


「大体北も南も魔境経由だぞ? 海岸線を行くにしたって」

「それにこの機会をみすみす逃したくないな」


 色々意見が飛び交うがどれも解決策ではない。

 普通ならここで一旦ミハイル様に現状の報告と、次の指示を仰ぐのが定石だろう。


 だが行動原理に関しては俺の口を挟む筋ではない。

 そこに関しては俺は責任を持てない雇われだ。


 そもそもミハイル様は彼らに何を望んでいるのだろうか?

 これまでのロイ達の行動や言動を見る限り、素人ではないことは分かるがあまりにも急に手綱を放った感じが否めない。


 


 この時点でラスターには分からないことが多い。

 ミハイルから直接指示を受けたのはロイであり、あくまでも傭兵として、戦力増強の駒として使われているにすぎないラスターが思案を巡らせた所で答えなど出ようはずもない。


 第一、ミハイルの事もロイ達の事も何一つ理解していないとも言える。

 考えたとて無駄だ。

 これをやれ、と言われればやる。

 傭兵ならそれでいい。


 だがラスターが自分は傭兵だと思ってはいても、実際はそういう訳にはいかない。


 一蓮托生のこの部隊は傭兵ではないのだ。

 ビジネスとは違った脆さと強さを両方持つこの集団の中で、異なる考え方を持つラスターは別な目線で物事を考えることができるし、それを直接言葉で求められてもいる。


 ある意味で責任ある立場に立ったのだ。

 口出しすべきではない、と思った所でまた先のような窮地に陥ることを見過ごす訳にもいかない。


 本人も気付いていないが、自分以外の他人の事まで考えなければならなくなったことに戸惑いと億劫さを感じている。


 まだ自分の出る幕ではない、と言い聞かせるように思っている所が生来のダメな性分だろうか。




「どちらにせよ」


 ハイデンが口を開く。


「やるべき事は戦力を削る、を考えた方がいいんじゃないか? 敵の幹部が裸で出歩くことでも無い限り、戦闘は避けられないんだからな」

「ま、そりゃそうだ」


 しかしそれをやる方法をどうするか、だよ。


「ねえ」


 タッカがお気楽な口調で告げる。


「村の方は動きそうな感じなんでしょ?」

「まだ分からん。守りに入るためということもある」

「誰か攫っちゃおうよ」


 いやびっくり。

 しているのは俺だけか?


「誰をだ? リスクを考えれば誰でも、というのはあまりいい手とは思えんが」

「荷物を奪ってくるのとは違ってなぁ」

「みんな忘れてない? コモーノさんを拷問した奴らのこと」


 ふっと全員が押し黙る。


「地下までつけた二人組、いたじゃない。片方は女の人だったよね」


 ロイを始め皆考え始める素振りを見せる。

 まあ……敵を捕らえて口を割らせるってのは常套手段ではあるが。


「伝令役だったら何かの指示か情報を持って帰ってると思わない? それにさ」


「……同胞の仇を取ったという報告ができる、か?」


 意外と考えてるな、タッカ。

 彼も年齢的には立派な大人だというのをつい忘れがちだ。


 言外に情報を得る為ということ以外に、あの二人組を拷問なり殺害なりするという意味が含まれているのは説明するまでもない。


「確かに目の付け所は悪くないな」

「しかしどうやって、ってのは相変わらずだ」


 バリエの言うようにそれをどうやってやるかというのは変わらず存在する問題だ。

 だけど現状では一歩も二歩も先に進んだ提案だし、明確なメリットとリスクコントロールしやすい作戦が展開できそうだ。


 ロイ達もそれはすぐ分かっただろう。

 具体的に詰める意見が交わされる。

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