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フリーターで、傭兵です 11

 エルヴィエルとの共同研究により判明したこの黒いモヤモヤは、何かにぶつかり俺に帰ってくることで、接触した対象の情報をもたらすというものだった。

 主な研究の内容は、エルヴィエルが魔力でボール状に固めた布をいくつか宙に飛ばし、ぶつけられないよう俺が避けまくるという遊びだ。

 エルヴィエル発案だ。ぜひ学習館の教師になってもらいたい。


 研究を重ねるごとに、見えていないはずの物の配置や飛び回るボールの軌道がわかるようになり、どんどん楽しくなっていった。

 俺が疲れてきたと見るやエルヴィエルはそっと背中に手を当てる。

 するとたちまち疲れが吹き飛び、俺は何度もボールを要求して遊ぶことができるのだ。

 天国で魔王の番犬に会ったら語り合いたいと思う。

 元々魔族についてよく知らず、偏見などなかったのも幸いし、魔族であるこの男を俺はどんどん好きになっていった。



「蝙蝠と似ているね。探知の魔法の亜種といったところで間違いないだろう」

「蝙蝠?」

「音を発して跳ね返ってきた音を聞き取り、周囲の状況を知る能力を持っているのだよ、蝙蝠は。君は跳ね返ってきた魔力を吸収し、情報を得ているのだろう」

「そうなんだ」

「無駄を無くして還元される魔力を増やしていけば、今よりもっと情報量が増えるだろう。何より再び魔力を吸収することで、消費する魔力が驚くほど少ない。これこそが君の最も優れた点だ」


 休憩中の会話だ。

 初日にエルヴィエルが出してくれたお茶はまずかったので、母に頼んで持参した水筒から甘いお茶を飲んでいる。

 黒い魔力が視界に広がり邪魔なので、首輪を外したかったがまだ我慢しろとの事だ。

 今後、目をつぶって避けたり魔力を絞ったりと段階を踏んでいく予定を立てた。

 俺にとって今までに経験したことのない、最高に面白い遊びだった。



 傭兵団宿舎が建ち並ぶ一画には、大きな食堂がある。

 本拠地詰めの傭兵達の食事をまかなうこの食堂は、傭兵団で働く女性の戦場の一つだ。

 ほとんどが出払い、居残りの警備組や事務にあたる首脳陣しかいない現在では閑散としたものだが、食堂の巨大さを見れば普段はまさに戦場といった様相を呈しているのだろう。


 母はお客さんではあったが、かつての同僚と楽しそうに毎日食事作りや針仕事に参加している。

 朝昼晩の食事の時間ここに来れば、いつでも空腹を満たすことができたし、子供の特権ともいえる特別メニューはいたく俺を満足させてくれた。

 父は俺に、2週間の間祖父から色々学ぶようにと言い残していったが、その祖父はエルヴィエルに俺を任せっきりにしている。


 そして俺は今、若干の居心地の悪さを覚えている。


「レイモンドの孫じゃ」

「こんばんは。はじめまして、小さな傭兵さん」

「フォズよりレイモンドに似ておるな。目元がそっくりではないか」


 いつもなら夕食は、厨房で働く母たちの近くのテーブルに座り手早く済ませるのだが、今日はタイミング悪く複数の重鎮達とかち合ってしまったようだ。

 俺の周りに小さな憩いの場が完成してしまった。

 母たちは厨房からそれを微笑ましそうに見ている。


 首輪を外しての訓練になっていたので、別れる際にエルヴィエルの小屋に置いてきている。

 無意識とはいえ産まれた時から電波を発していた俺は上達も速いそうだ。

 しかしキャラを作ってしまった以上首布は外せない。

 そしてこの首布が俺を苦しめる。


「どれ、ワシがひとつ稽古でもつけてやろうかのう」

「ラスターちゃんに額当てをプレゼントしようかしら。きっとかわいいわ」

「これも食べなさい。おおい、肉のおかわりをくれ」

「あ、もうお腹いっぱいです」


 傭兵道を突き進む身内の卵。

 危険の多い職である傭兵は、その人口も成り手も減ってきているらしい。

 いつの間にか俺は期待のホープとなっていた。

 早く抜け出したい気持ちでムズムズするが、このオアシスの源泉は俺だ。

 振り切るように部屋へ帰れば、母から小言を頂戴するにきまっている。

 はあ。小さい時の父さんもこんな気持ちだったのかな。


「ラスター、どうじゃここの傭兵団は。広いだろう」

「はい、びっくりしました」

「そうじゃろ。ワシらやお前の爺さんが頑張ったからじゃぞ。お前も大きくなったらここをもっと立派にしてくれるんじゃろ?」

「まだよくわかんないです」


 もう進路を決める時期か。ちょっと早い気がするぞ。


「ワハハ、そうか、そうか。まだちょっと早かったかの」

「そうですよ、ねえラスターちゃん。お医者様とか、先生になったりするかもしれないわよねえ」


 その期待には応えられそうもない。申し訳ないです。


「レイモンドは何をさせとるんじゃ? ずっと鍛錬ではなかろう?」


 ホントに答え辛いことばかり聞いてくるな。

 祖父は何も話していないらしい。

 んー、この人たちはきっとエルヴィエルのことは知っていると思うけど。

 母が聞いているかもしれないこの場で余計な火種は撒きたくない。


「えっと、鍛錬と、後は座学、っていうか、みたいな。はは……」

「いやー感心感心!」

「レイモンドやフォズとは大違いじゃの!」


 さらに自分の首を絞める。


 こうして俺の2週間は過ぎていく。

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