暗転した意識に聞こえる信頼の声
熱量の充填は完了した。
雄々しく起立した砲塔は天上の歪みへ向けられている。必死な妨害を見せる歪みも、十三世界を統べる悪魔たちにより防がれている。
「マスター。カッコよく発射号令をお願いします」
「うん、任せて! 対地球外侵略者殲滅戦艦デストロイヤー型一番砲夜海、主砲発射ァッ!!」
砲口に眩く光る翡翠色の粒子が集中する。司令塔は遮光膜に覆われ、外で奮闘していた悪魔達でさえ目を細めたり、背を向ける者もいる。
日の沈んだ闇夜に包まれる館里市を昼のように照らす山頂。透理の号令の下――周囲の空気を押しのけて、翡翠色の熱光線が砲口から発射された。
「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」
歪みの抵抗も熱光線の前に消滅し、天描くその模様を貫いた。透理の寿命を熱量に変換させた一撃によって撃ち抜かれた歪みは、そのポッカリと空いた穴から亀裂が全体に走る。まるでガラスの天上が崩れるように歪みの破片が地上に落下する。
「ちょ――えぇ!?」
想定外の展開。町全体に降り注ぐ破片。よくわからない原理で形を成すアレが質量を持つものなのかはさておき、世界の法則を歪める力をもつアレが落ちて良いことはまずない。
「――夜海!」
「お任せください」
夜海の電子音声は淡々としていたが、主人に応えようという意思はしっかりと透理に伝わっていた。
「防御結界を発動します」
砲塔を少し倒して空砲を一発撃ち出した。
破片が町を襲うギリギリのタイミングで町は白濁とした膜に覆われ、そのドロドロとした膜に破片が次々と刺さるが抜けていくことはなかった。ようやく終わったと思った矢先に一斉に天上の歪みが一斉に瓦解した。
「警告、あの全ての破片を防ぎきることは不可能」
「なっ、なんだって!?」
歪みの最期の足掻きだった。
少しずつ降り注ぐのであれば夜海の結界で消滅させられたが、数で攻められると相手の熱量が此方の膜の限界を上回るのだという。
冷静な説明につい頷いてしまっていたが、それどころではない。町を守りたいからこそ七十年という寿命を差し出したのだ。こんな所で自分の決意、十三世界の悪魔や海夜の努力を無為にしたくはなかった。
透理は指令室を飛び下り、十三の悪魔に指示を出す――が、透理はすでに体力的魔力的にも限界だった。
「ワシ等は、お嬢ちゃんの魔力に依存して召喚されておる。嬢ちゃんの魔力が切れた時点でワシらは何も出来んよ……」
諭すようなキャストールの声音。薄れゆく十三世界の悪魔達。透理はその場で膝をついた。
「どうして、だよっ! ボクは、ボクはこうならない為にも……ッ!」
「よく頑張った。ワシ等十三体全てを召喚し、寿命まで捧げて、この町を救おうとした。そんなお嬢ちゃんを誰も責めはせん」
「そ、ういう……ことじゃ、ないんだ……助けなきゃ」
透理の瞳に活力が失われていく。抜けていく全体の力。もう拳を握る事もできず、意識も闇の奥底に引きずり込まれていく恐怖は、これまでも味わったことのない虚無感。声も出せぬまま冷たい土の感触に触れる頬を伝う涙。悔しかった――透理の胸の内に渦巻くやるせない思い。
「ボ……クは……」
キャストールの姿もない。薄暗い視界には、もう十三世界の悪魔の姿も気配もない。透理の魔力が完全に底をついた証明だった。
「助け……ら……れ」
「よくやった透理。キミは十分に頑張った。そのキミの努力を無駄にしない為にも、私達が残りは引き継ごう」
もうほとんど意識は無いが、聞きなれた耳心地良い淡々とした人間味のある声。心の奥底で安堵の色が広がり、透理の意識は深い闇に埋没した。
こんばんは、上月です(*'▽')
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