歪み消滅の為に出陣する透理
組織への電文は十分もしない内に返信があった。
タイプライターの下部の隙間から白紙の紙が吐き出された。紙は白紙で、相手方のミスか嫌がらせかと思ったが、傍に控えていたキャストールが「魔力を流すのじゃ」と説明する。
「おぉう! 凄い、昔の忍者が使ってた炙り出しみたいだ」
いわれた通り魔力を白紙に流すと、文字が浮かび上がった。もちろん、透理の読めるように日本語で。
「えっと……」
『津ケ原透理様へ、お尋ねになられた津ケ原幹久、世良香織の両名がどのような方だったかという事につきましては、近いうちに直接会ってお話ししたいと思います。我が組織の中でも優秀なルア・ウィレイカシスが取った弟子というのも個人的には興味があり、お会いできる日を楽しみにしております――アレッタ・フォルトバイン』
当然のことだが、ルアの現状や聖羅の件は伏せてある。
「ほぅ、アレッタから好意的な反応じゃな。奴が日本に来る前に、聖羅とルアの件を片付けてしまうぞ」
「うん! で、アレッタって誰?」
「そうじゃなぁ、Sランクは現在で聖羅を覗いて存在していないのでな、魔術組織を束ねるAAランクの女魔術師だ。ルアの上司とでも思っておればよい」
「そんな偉い人から直接連絡が来るとは……よし、じゃあその時の為に、行こうか」
聖羅は最後だった――あの断片的な未来の映像の先にあった、ハッピーエンド。その求める結末に向かって次に成すのが――昼間でもハッキリと空に浮かび上がる異様な魔法陣。
荻が魔法で歪みを生み出したみたいな事を言っていた。生み出した本人が死んでも消えない歪みというのは厄介な相手だった。そもそも、透理には歪みの対処法が分からない。頼りっきりになってしまうが、ルアとともに歪みを消滅して世界を回っていた、十三世界の悪魔にやり方を聞きながら対処するしかない。
「キャストール、次はいよいよ歪みを消しに行くよ」
「ワシ等はお嬢ちゃんに従うしかない。お嬢ちゃんがやると言ったことに反論はするが、強制的に押さえつけることはできない。くれぐれも、我を忘れず冷静な判断をするのじゃぞ……いっても意味は成さないだろうが、一応言っておく」
「ふふん! キャストールも僕がどういう奴か分かってるじゃん。そんな訳だから、これから末永くよろしくね!」
「年取れば、少しは落ち着くじゃろう……」
見込みのない希望でも抱き、身支度を始める透理を他所に姿をくらませた。物覚えの悪い透理に頭を悩ませていたルアの気持ちがようやく分かった。タイプライターの扱い方は――宛先を打ち込み、伝えたい文章を文字を打ち込み、魔力を媒体に送り付ける。ただ、それだけの――学生であればメールを打つようなものにもかかわらず、二時間もそれだけの事を教えた。理解を得られるように言葉を組み替えての説明が一番苦労した。
少し休息をとらねば老体に響くと、主人の傍を離れた。
「よぅし! 準備はオッケーだ。歪みさえ何とかなれば、ルア達は甦る……はず。あれ、キャスト―ル? まったく、どこ行ったんだよぉ。これから出発だっていうのに」
当然その呼び声に反応はしない。
無視をしてでも体力を養わなければならない。そうしなければ、いざという時にルアのお気に入りの透理を守れないからだ。
「まぁ、いいか。よし、とりあえずは館里城、かな」
この町で一番空に近い場所。そう高くはない丘のような山頂に建てられた観光名所の城。ルアと初めて会う少し前まで夜の町を眺めていた場所。透理が非常識な世界に足を踏み入れた場所に向かうべく部屋を出る。
「――ヒィッ!」
「……透理、さ……怖い? わた、し……霊じゃ、ない」
「あ、ああ、うん! そう! 知ってるからね。フェーランさんは幽霊じゃなくて悪魔だもんね。ほら、扉の向こうに誰かいるとは思わなかったから、びっくりしちゃっただけで、フェーランさんが怖かった訳じゃないからねっ!」
必死に弁明する透理はフェーランの手に持った黒い何かに注がれる。
「これ……透理さ……着て」
手渡された黒い何かを広げると、それはコートだった。真冬の寒さにちょうど良いと羽織ると丈もちょうどよく、着心地がとてもよかった。動きも阻害されない重量のコートに、フェーランは付け足すように言った。
「ご主人様……同じ、魔力糸……編み込まれてる……魔術や神秘……抵抗持ってる」
「う~ん、つまりは特殊防御力が上がったってこと?」
コクリと頷いた。
「そっか、ありがとう」
姿を見せないキャストールの代わりに、人目についても問題はない――とはいいがたいが、スライムやワニ頭と一緒に歩くよりかは自然だと、フェーランを護衛につけた。
こんばんは、上月です(*'▽')
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