ワニ頭の悪魔との対話
透理は目の前にワニの頭をしたラクダの悪魔を呼び出した。
相応の魔力が必要だったので、キャストールとフェーランには一度帰還してもらった。つまり、ワニが気紛れに透理を襲えば迎撃する術が無い。魔術もこの消耗から考えて行使は難しい。
「あら、お久しぶりね。召喚魔術にはまだ不慣れなようだけれど、大丈夫よ。そのうち慣れちゃうから。それで、私を呼び出した理由を聞いてもいい?」
ワニは大きな口を開けて欠伸をもらす。
動物園とテレビでしか見たことが無かったワニが、こんなにも間近で大口を開けられると、流石に迫力が違う。表情を固くする透理に、ワニの悪魔は眠そうに口をもごもごさせた。
「あっ、自己紹介だけど。私はぁ、暴食の悪魔ネロよ」
「ぼ、ボクは津ケ原透理、です」
知っているわよ、とネロが切り捨てた。
「えっと、悪魔達と良好な関係を築きたくてね、一人……一匹ずつ腹を割って話そうかなって。今後の戦闘で力を借りるんだから、個性、というか、どういう悪魔かってのを知っておきたくて」
「ふぅん、へぇ~、語り合うのは良い事よ、津ケ原透理。あの堅物魔術師よりかはそういう心構えがある分好感的ね。でも、契約はしたけど、アンタと仲良くなりたいっていう悪魔は少ないわよ。私個人的には気に入っているけど」
「ルアは、語り合わなかったの?」
「ええ、キャストールとフェーラン、パフデリック以外とはね。私達がへそ曲がりで卑屈な悪魔だって知っているから、距離を置いていたのでしょ。だって、上位悪魔が彼に課した対価は死そのものなのだから」
「死って……殺すってこと!?」
「うふふ、逆よ逆。彼から死を奪うの。つまりね、どんなに苦しくても病気に罹っても、ミンチにされようとも死ねない身体にするってこと。彼はそれを拒んだからよ。まぁ、一度高慢高飛車な鳥を呼び出したみたいだけど、アレもアレで結構甘い所があるからねぇ」
人間は誰もが死にたくはない。だが、死を失った人間は、はたして人間という枠組みに収めていいのだろうか。ルアが頑なにキャストール達以外を呼ばない理由が分かった。
「それに、透理ちゃんには全員と語り合う時間なんてないんじゃない? だって、私一匹呼び出して顔面蒼白になってるんじゃ、短時間に何体も呼べないじゃない」
「うぅ、そうだけど!」
「はぁ……私から透理ちゃんがそういった考えを持っていた、って替わりに伝えてあげるわよ」
思いがけないネロの発言に口元がほころぶ。できれば自分の口で彼等と語り合いたかったが、時間が無いのも事実。ここはネロに甘えさせてもらう事にした。
「ネロ、ありがとう。今度時間があるときに全員と話すから!」
「真面目ねぇ~、承ったわよ」
そう言ってネロはウィンクを残し、姿を霞に消した。
一人静寂な屋敷で透理は深い息を吐き出す。肩の荷が少しだけ下りた気がした。薄暗く寂しい屋敷の中をルアは時常一人で過ごしていたのか、と彼の日常を思い描き――淡々と一言も喋らず無表情で仕事をこなしていく姿に、フッと笑みがこぼれる。そんな休息の時間を堪能し、魔力が最低限の安定まで回復した所で次なるステップに進むべく、ルアの自室に向かった。
こんばんは、上月です(*'▽')
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