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Sランクに至った最高管理者の魔術師

 稲神聖羅は箱の存在をしばらく忘れていた。


 箱はアレッタに預けてから、魔術と真理の探究を続け二年が過ぎた。遅れてAAランクに香織と幹久も昇格した。聖羅はSランクへの昇格テストを受けに、魔術組織――シェルシェール・ラ・メゾンの最高管理者を務める二人のSランク魔術師に対峙していた。


「へぇ、Sランクというくらいだからもっと老いぼれが出て来るかと思ったら、意外と若い。それで、テストはどういった内容なんだ?」


 不遜な態度を崩さない聖羅ではあったが、目の前の二人が常識という枠組みに一切を囚われない存在だということは理解していた。


「我等に実力を示せばいい」

「お前の識る世界を我等に見せればいい」


 淡々と喋る男女――余計な雑念を持ち合わせない彼等は、聖羅の眼には機械人形のように映った。


 あれが世界の真理に辿り着いた末路か、と。


「問わせてもらうが、お前達は世界の真理に到達し、何を視た? 何を知った? そのうえで何を成そうと思った?」


 思案するまでもないと、その質問への回答を提示した。


「世界の在り方を知った。悲しき未来を視た。我々は時代に合わせて各々の価値を見出させるべく、この組織を継続させていく。ただ、それだけだ」

「そう、私達は在るがまま、流れに逆らわずあくまでも受け入れる」


 つまらない答えだった。


「んで、私がSランクに昇格した場合に得る特典とやらはなんだ? すでにAAランクの時点で閲覧規制はなく、自由に仕事を選ぶことも出来る。他にどんな特典があるのか、是非とも聞かせてもらいたくてね」


 挑発を交えた問いは、つまらない彼等への当てつけのつもりだった。Sランクに至れば無限から超越へと称号が置き換わる。ただ置き換わるだけではないだろうが、それではAAランクと大して変わらない。疑念を抱くその視線を読み取った男が語った。


「未知なる体験の約束。永遠より長い一瞬の煌きの夢、我らが約束できる至上の楽園への招待。それが、Sランクという人を超越した者の特権」

「意味が分からんぞ。一瞬とは刹那だ、永遠を感じる刹那とは常識の最果てからも逸脱している」

「貴女は喋り過ぎる。言葉は身を滅ぼし、関係を崩す。不用意で無駄な労力を私達は好まない。ただ、漠然と意識を世界と接続させ快楽を得る。外側より内側を覗く者であればいい。貴女にはその才能がある。香織と幹久にも同様に」


 これ以上の対談は無意味だと口を閉ざす。向こうも向こうでお喋りを無駄なものだと好まない様子だ。だったら、あの超越を冠する二つの世界に、自分の無限の世界で語るべきだ、と腰から一本のナイフを引き抜く。


 幼い頃よりずっと苦楽を共にし、大切な血を吸った替わりの利かない魔術媒体。魔術理論と魔術媒体をもって、世界という厚い革を、薄く一枚一枚切り裂いて真理を識る。それが稲上聖羅の探求法。


「準備が出来たら、いつでも来なさい」


 余裕を崩さぬ絶対神を気取るその高慢な厚顔を、ズタズタに斬り裂いてやりたくなる。あんがい厚顔の奥には人の顔が埋まっているかもしれないと、一つの楽しみを秘めて、ナイフに魔力を集中させる。


 魔術の工程――魔力生成、身体中への循環、魔術理論と魔力を併合、己の探求を再認させるための詠唱、形を成した魔術を媒体から現世へ展開させる。これが魔術行使の基本的な流れ。


 だが、稲神聖羅のソレは工程をいくつか飛ばしていた。


「深き根を暴く聖道審判なる潔癖な刃。黒く、暗く、深い闇に差す一筋の夜明けの銀よ切り開け――究明神秘の執刀理論」


 無限世界の執刀魔術師――稲上聖羅の魔術がここに成す。


 他の魔術師のように魔法陣等は必要とされない、媒体に彫り込まれた読解不能な文字が蠱惑的に発光する。爆発力の無い地味な魔術。仄かに灯る紫色の文字を反射する、その切っ先は二つの理解不能な思考を有する世界へと向けられていた。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は明日の夜を予定しております!

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