銀色の少女
水平線に沈んでゆく夕日を眺めながら自販機で購入したお汁粉を啜り、懐にしまってある厚い茶封筒の重みを感じながら一息ついていた。
「ルアは青春を謳歌しろって言ってたけど、旅行かぁ……悪くはないんだけど、う~ん」
特に行きたい場所なんてなかった。
友人たちは都会に憧れを持ってはいるみたいだが、ビルが乱立し人口が密集している場所にあえて行きたいとも思わない。かといって豪勢な食事をしようにもこの町にそんなお上品なフランス料理店なんてものがあるはずもなく、せいぜいが老舗旅館の魚料理くらいだ。
「魚は食べ飽きてるし……むぅ」
「甘いものが、いい」
「そっかぁ、甘いものもいいかもね。やっぱり、パフェとかクレー……だれっ!?」
「む?」
神速と言ってもいい身のこなしで隣を振り向く。ぱっと見で中学生くらいだろうか。色白で細身の体格。夕日に照らされた銀の長髪はとても幻想的に映り、曇りの無い灰色の瞳は年相応の無垢な色をした少女。
「私、ウォル・アンクリオット・ディーラデイル」
「ウォ、ウォルぅ?」
「違う。ウォル・アンクリオット・ディーラデイル。私の名前」
流暢とはいえないがゆっくりと一語一句しっかりと発声するが、馴染みのない横文字の名前は透理の記憶許容量を遥かに凌駕していた。眼を白黒と困惑させた結果に透理は苦笑いで誤魔化すに留めた。
「外国の人……だよね? ボクは津ケ原透理。えっと、ウォルさん?」
「呼び捨てでいい。トゥリ?」
「と・う・り、だよ。じゃあ、ウォル。こんな所でなにしてるの?」
この時代、外国人観光客なんて珍しくもないのだが、一人での行動を不思議に思い、なんとなしに質問してみると、彼女の瞳孔が一瞬だけ猫のようにキュッと細くなった気がしたが、その変化も薄暗かったし見間違いだろうと気にしない。
「お腹、空いたから」
「そっか、お腹空いたんだ。そうだ、いま一人?」
ウォルは首を小さく縦に振る。
「せっかくの縁だし、一緒に何か食べに行かない?」
「食べる」
そんな透理の誘いにまったくの警戒することなくコートの裾を軽く掴んだ。
「じゃあ、何か食べたいものってある? ボクが希望に添えるお店紹介するよ……って、言ってもフランス料理とかはこの町にないんだけどね」
生まれも育ちもこの町である透理の脳裏には、既に数十店舗の看板料理と店の地図が脳裏に描き出され案内は万全だった。
「肉が、いい」
「お肉ね、オッケー。近くに凄く美味しい焼き肉屋があるんだ。よし! そうと決まれば早速行こうか」
脳内検索にヒットした店――館里駅から歩いて数分の所にある焼き肉屋。ここから歩いたとしても十五分と掛からず辿り着くと脳内計算が弾きだした。
ウォルの手をしっかりと握る。焼肉と一緒に食べるホカホカ白米の味を思い起こさせ、足取り軽く歩く姿をウォルは観察するように見上げていた。そんな少女の様子なんてお構いなしに、あれが美味しいだの、店主が優しいだのと、これから向かう店について一人、楽し気に語り掛けていた。
新しい登場人物、ウォル・アンクリオット・ディーラデイル。
自分で考えといて名前が言いにくいし覚えにくい。
でも、きっと魅力的な人物として物語を彩ってくれると信じております。
さて、次回の投稿は本日22時となります。




