表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/117

透理の魔術

「そ、それってどういう事だよ!」

「どういう事もなにも、そのままの意味で言ったつもりだったんだが、馬鹿では理解できなかったか?」


 言葉の意味は分かる。死んでいるが、死んでいない。透理が分からないのはその理屈だった。自分の周りにはルア、ライナ、ウォルが絶命している。この状況をどうみたら生きているという事になるのか。その説明のつかない状況が透理には理解不能だった。


「クク、ルアから聞いてないか? 世界の歪みっていうのは、その世界の原理や理屈ってやつを歪ませちまうのさ」


 聞いたことがあったような無いような。そういった難しい話しは記憶に記録されにくいのだ。理屈はどうであれ、聖羅の言った事が本当なのだとしたら、まだルア達は助かる可能性があるのかもしれない。その僅かに差し見えた光明だけで今の透理には十分だった。


「おい聖羅、答えろ! 死んでいないって事は生き返らせることも出来るんだろ?」

「生き返るもなにも、元から半分は死んでいないんだ。生きている奴を生き返らせるなんてのは不可能だ。まっ――半分は死んでいるから、お前の言う事もあながち的外れではないがな」

「どうすれば――」

「答えると思うか? お前は私の殺害対象だ。そして今ここに転がっている奴は私の障害となる敵だ、蘇生させて私に何の得がある?」

「そ、そうだけど……」


 言葉を必死に探す透理を嘲笑うような――それでいて楽しむように人差し指をルアに向ける。


「お前はソイツの弟子なんだろう? つまりはお前も魔術師だ。魔術師だったら考えろ、そして狂おしいほどに探求しろ。ありとあらゆる可能性を紐解け、知識と諦めの悪さが魔術師の最大の武器だ」


 そう言って背を向けて去ろうとする聖羅を透理は呼び止める。


「待ってよ! お前は、ボクを殺すんじゃないのかよ!」

「ああ、殺すとも。この現実を覆せるか見届けた後にな」


 そのまま屋敷を出て行ってしまった。


 このまま親の仇を見逃す歯痒さを噛み殺し、今は一秒でも早くルア達の問題を解消しなければならないと割り切って見逃した。追いかけても非力な自分では何も成せないと知っているから。透理は何の情報もないまま、この現実に向き合い否定しなければならない。


「死んでいるけど、死んでいない……歪みが世界の理屈を歪ませる……魔術師は探求して諦めの悪さが最大の武器……ボクの世界を識る武器りろん


 世界を識るにはまず、自分の魔術理論たんきゅうを持って媒体を通じて接触かんしょうしなければならない。魔術師の弟子として最初に師匠ルアに教えられた魔術師としての基礎。


「世界を識り、魔術を行使するための……最も信頼できる、ボクの魔術媒体」


 身近な参考になりそうな人物を頭に思い浮かばせる。ルアは書物、ミラは眼球、聖羅はナイフ、各々の生きていくうえで無くてはならない自分の分身。魔術師だった両親は何を媒体にしていたのだろうか。


「ううん、関係ないよね。ボクはボクなんだから、ね……」


 透理は己の内面深くより沸き立つ熱のようなものを感じた。つい最近何回か感じて暴走したソレとは明らかに違い、透理の真我へと優しく語り掛けてくるようだった。


「津ケ原、透理……名は体を表す。お父さんと、お母さんが、常識に囚われないでほしいっていう願いを込めて付けてくれた大切な名前」


 魔力はピッタリと閉じ切った管を押し開いていく。


「形のある媒体なんてボクには邪魔だ、ボクが最も大切にして生きていきたいもの……」


 体内の魔力が全体に行き渡った――。


「大切な人たちとの絆だっ!」


 ルアに会った。ライナに会った。ウォルに会った。大勢の人たちと触れ合い育ったこの町。透理にとってはかけがえのなく大切な、失いたくはない繋がり(キズナ)


「魔力解放……」


 透理の全身からダムが決壊したように溢れ出した魔力は屋敷を――周囲の森を――海老沢の町全体を包み込んだ。透理の魔力の色は――『無色透明』。


 色がない――それはどんな色にだって染まれる純粋で無垢な色。逆に言えば、なんにでも染まってしまう頼りなさを併せ持つ世間知らずな色。


「ルア、ボクの魔術理論で皆を救ってみせるから! だから、力を貸してよねっ!」


 無色の魔力は薄い色を帯び始める。


「うぐっ――ま、負けるかよぉ! 無限書架の管理者であるボクは容認……するッ! 第一の書:エル・サンタリア! 第二の書:エル・フォルトリア! 第……三の書:エル・カナタリアァッ!!」


 それは常識ではありえない事だった。


 透理の魔力は鮮やかな空色に染まり、空間の亀裂から三冊の――ルアが数多く使役する無限書架に収まる魔導書の中でも、最上級の秩序ルールを世界に強制させる、過去・現在・未来を司る書物を取り出した。

こんにちは、上月です(*'▽')



お昼に投稿できませんでした……。


さて、とうとう透理は魔術という奇跡を行使しました。その魔術はルア・ウィレイカシスの扱う無限書架の魔術。どうして透理が彼の魔術を行使できたのかは、次回詳しく書いていきます。


次の投稿は25日を予定しております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ