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魔術を極めし最果ての魔術

 ルアはこの魔法使い(あいて)に遠慮する気はなかった。


「魔術師が本気で魔法使いを倒しうる可能性のある力といえば、秘術ですかね? ですが、ウィレイカシス君にその札が切れるんですか?」

「切るしか、ないだろう。魔術師の奥義だ、それなりの効果を発揮してもらわねば困る」


 魔術師が扱う魔術という段階を踏破し辿りついた最果ての術――秘術。


 普段の魔術以上の魔力を消費し、肉体的精神的に掛かる負担も計り知れず、命さえも落としうる諸刃の剣。魔術を極めたAAランクだからこそ会得に至った最終の一手。


「死んだら、津ケ原君が泣いちゃいますよぉ。それでも使うと?」

「愚問だ。私のことをカッコよく最強の魔術師と称したあの子の期待を裏切るわけにはいかないのでな。無様な死に顔を見せるつもりはない」

「そうですか、ならばもう僕は何も問いませんよ。秘術となれば、此方も砂をそれなりに使わねばなりませんか……苦労して手に入れたんですけどねぇ」


 ルアの魔力が一層に純化し澄んだ空気の様に肌をひんやりと撫でる。異変を体感したライナはビクっと肌を震わせ、意識を失っていたウォルも鼻をヒクつかせて目を覚ました。


「冷たい、ですね。これが――これが、あの魔術師の本当の実力だとでも言うんですか……」

「ルゥ、本気で殺す。魔法使いも平然としてる。二人とも異常」


 そんな外野の感想など対峙し合う二人の耳には聞こえていない。意識を逸らせば食うか食われるかの状況で、相手のわずかな動作も見逃すまいと慎重になっていた。


「開け――無垢白紙の書」


 いつもと違った――空間の隙間より取り出すのではなく、無から有へ――彼の意志に従ってその場で形成された真っ白な表紙の書物が、ルアの手にそっと収まる。


「綴れ綴れ白紙なる書よ、零は無限に広がる可能性を秘め、私はペンを取り書き綴る。最果てにる叡智を求め、私はこの世全てを書き綴ろう――記せ:無限書物フュールロ・の記憶書館(メモラリー)


 魔力が奔流する。


 周囲の空間を歪めて、パズルのピースの様に景色が剥がれ落ちていく。急激に移り替わった箱庭の世界に足を踏み入れ、全員が息を忘れる程の現実に意識を繋ぎ留めておくのに必死だった。


「なんだよ、ここ……図書館?」


 ポツリと呟いただけの声は反響して天に昇っていく。


「これが、私の秘術だ。世界そのものを組み替え、私だけの閉じた図書館はこにわ。私に内包された無限書架を納める楽園とでも言えば分かりやすいか?」


 内部は円形の塔だった。


 壁面に埋め込まれた無限の書架におさまる無限の書物は、最奥の見えない光差す天上まで連なっており、壁に沿って設置された螺旋階段は必要な書物を取りに行くには必須だろう。だが、この量の書物から自分の足を使って探し物を見つけるのは酷く困難極まりない。透理は天上から光差す清潔で神々しい螺旋大図書館に圧巻されていた。荻もまさかここまでのモノとは思っていなかったらしく、動揺を隠せずにいた。


「所詮は図書館でしょうね。貴方はここから必要な書物をあの階段を使って探すのでしょうが、そうはいきません。僕の魔法で全てを灰にしてあげましょうかね」


 荻はビンから大量の砂を振り撒こうとするが――。


「先見必中の指南書」


 何処からともなく一本の矢が小瓶を射抜き、中身が地面にこぼれ落ちた。


「書館で灰を振り撒くな――思想沈殿の書」


 散らばった砂を掻き集めようとしゃがみ込んだ荻の表情は絶望へと染まっていく。キラキラと輝く高貴なる魔法の砂は大図書館の床に吸い込まれるように一粒余さずその姿を消した。


「僕の……僕の砂をよくもッ!!」


 荻は指を宙に躍らせ、発生した炎がとぐろを巻いて龍と化し、忌々しい魔術師と書物を燃やさんと轟々と爆ぜた咆哮を上げて大図書館を暴れまわる。


「先生としての厚皮が剥がれているぞ、魔法使い――雨乞いの祭儀書」


 水神として祭られた水龍が身体から幻影の雨を降らせ火龍を弱め鎮火させた。この後も魔法を凌駕するルアの魔術は、刻一刻と荻の魔法使いとしてのプライドを叩き折っていっく。


「戦意喪失した所で悪いが、私の魔力も尽き欠けていてね。そろそろ止めを刺させてもらう」

「戦意喪失? いいえ、僕の魔法はこれからなんですよ」


 ルアの殺意に呼応して天上の先――光の中から生まれた真っ黒の書物を開いた。

こんばんは、上月です(*'▽')


次回の投稿は明日を予定しております!


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